[ついの住み家]<上>単身高齢者たち 一つ屋根の下…シェアハウス 自立と共存両立
2026年01月17日読売新聞
核家族化や未婚化を背景に、単身高齢者が800万人を超える中、「ついの住み家」に思いを巡らせる人は多いのではないでしょうか。住み慣れた自宅で最期まで過ごすという考えもあれば、一人暮らしの不安を和らげるため、ともに生活する環境に移るという選択もあります。高齢期の住まい方を一緒に考えてみませんか。
助け合いが大切
「今日の相撲、横綱は勝った?」「この野菜炒め、おいしいわ」
昨年11月、高齢者が共同で生活を送るシェアハウス「COCOせせらぎ」(川崎市高津区)では、70~80歳代の男女が長テーブルで、にぎやかに夕食を囲んでいた。
単身高齢者9人と夫婦1組の計11人が10部屋で暮らす。各部屋にはトイレや台所が備わる。大家に支払う家賃7万円と、食費や光熱費などを合わせた毎月の費用は1人15万円。入居の際の初期費用としては300万円が必要になる。
三田美津江さん(89)は2014年7月、川崎市内の自宅から、開設したばかりのせせらぎに移り住んだ。もともと体が丈夫ではなかったうえ、同居していた妹が亡くなった後、一人での生活に不安を覚えたのが入居のきっかけだ。
「一つ屋根の下にいることで得られる安心感はもちろん、お互いが適度な距離を取りながら、自立して生活するという考えが気に入っています」と三田さんは語る。
せせらぎでは、住人同士の助け合いを大切にしている。例えば、体調が悪くなって救急車で運ばれる際には、お互いに付き添うルールを設けている。一方、旅行や散歩などの外出は自由。食事を共にするのは、安否確認を兼ねた夜のみだ。調理スタッフが夕方、やってきて用意してくれる。
開設から11年。認知症になった仲間が退去したこともあり、今の課題は「どうすれば最期まで住み続けられるか」だ。23年夏に始めた住人たちによる勉強会では、専門家を招いて介護保険サービスや葬式費用について学んだ。延命措置など、死生観も語り合った。
単身高齢者らが共同で生活する住まい方は「グループリビング」と呼ばれる。運営者で作る協議会はホームページで16か所を紹介している。「人とのつながりを大切にしつつ、自分らしく生きたい」というシニアの関心を集める。
せせらぎを運営するNPO法人「川崎北部グループリビング」(川崎市)の前田由子さん(92)は「入居者が老いる中、今後も課題は出てくると思うが、話し合いながら乗り越えていきたい」と話す。
住人同士 寛容に
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、一人暮らしの高齢者は40年に1041万人と、20年の1・4倍になる。単身高齢者の未婚率も上昇し、40年に男性で54・2%、女性で22・9%に上る。子どもなど頼れる親族のいない高齢者は増えていくとみられる。
国も、単身者が老後に安心して暮らせる住居の確保に乗り出す。低価格の高齢者向けのシェアハウス100か所ほどを、今後3年間で整備するという。
ただ、こうした住まいが高齢者の選択肢となっていくには課題もありそうだ。
名古屋市は24年3月、市営住宅を高齢者向けのシェアハウスとして提供する事業で、新規の入居募集を停止した。友人や知人が同性同士で暮らせるように、60歳以上を対象に11年度に12部屋で始めたが、利用が低調だったためだ。現在は2組だけが入居する。
市では、入居希望者たちの交流会を開き、利用を促してきた。ただ、「友だちになれそうな人は見つかっても、一緒に暮らすことを考えると決心がつかないようだった」(市の担当者)という。
第一生命経済研究所の福沢涼子・副主任研究員は「共同生活には、住人が互いに寛容になることが大切だ。ただ、加齢とともに、異なる価値観を受け入れることが難しくなる人もいる。高齢者向けのシェアハウスを普及させるには、集まって暮らすことによるストレスを入居者がため込まないよう、環境を整える工夫が必要だ」と話す。
高齢期の住まい多様化
グループリビングなど、ついの住み家に自宅以外を選ぶ人は増えつつある。
内閣府が2020年度に60歳以上の人を対象に行った調査によると、体が衰えた場合の住まいとして、自宅を望む人は20年前の6割からほぼ変わらないものの、高齢者用住宅や老人ホームを希望する人は2割から3割へと増えた。
ニーズの高まりを背景に、高齢期の住まいは多様化している。
サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームは、介護の必要な度合いが比較的軽い場合に検討の対象になる。主に民間企業が運営し、見守りや食事の提供といった生活支援サービスがある。外部の事業者と契約すれば、訪問介護なども受けられる。ただ、費用やサービスの質は千差万別。必ず見学して、比較することが大切だ。
一方、社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームでは手厚い介護を受けられるが、介護の必要な度合いが高くないと、入ることが難しい。入居を待つ人は、都市部を中心に25年度で20万6000人に上る。