北陸電力、電気使用量で高齢者を見守り 賃貸契約支援・震災対応にも
2025年10月23日日経新聞
北陸電力は各家庭の電力使用量から生活者の異変を検知するサービスを導入し、増加する高齢者の見守りニーズに対応し始めた。見守りによる安心感で高齢者の賃貸入居の支援につなげるほか、自治体と連携し能登半島地震後に増加した単身高齢世帯の安否確認にも活用する。
電気使用量を活用して高齢者を見守る「電気でつながりサポート」を1月に開始した。直近数日間の使用量データから冷蔵庫やテレビなど家電が常に消費する待機電力量を算出し、それ以上の電力使用がない場合を異変発生と見なして家族などにメールで通知する仕組みだ。
急病などの早期発見につながったケースはまだないが、現在は月に十数件程度の異変発生を通知している。常に見守れる安心感などから、新規の契約件数は増加し続けているという。
同サービスは、北陸電力送配電(富山市)が2023年度末に各家庭の電力使用量を遠隔で確認するスマートメーターを管轄エリアのほぼ全世帯に導入完了したことで実現した。これまでは検針員が1件ずつ確認作業をしていたが、同メーターは30分ごとの使用量を自動検針するため、リアルタイムでの見守りに対応できるようになった。
メーター以外の追加投資は不要で安価に提供できるほか、個人情報を特定しない電力使用量だけを使うためプライバシー保護にも強みがある。カメラで生活を見守る方法もあるが、ストレスを感じる高齢者が多いという。北陸電力の宮本浩樹課長は「負担感の軽減につながっている」と話す。
同社は見守りの仕組みを応用し、増加する高齢者の賃貸入居支援にも対応する。孤独死など物件価値を下げるリスクがある単身高齢者は、入居を断られるケースが多い。サービスを不動産会社に提供することで、物件の管理者などにも安否を通知可能にする。早期発見につながる「安心感」が契約時の担保になる。
5月には家賃保証サービスを手掛けるジェイリースと連携し、新たな保証制度も設けた。保証料に見守りサービス料を上乗せした金額を入居者が負担する仕組みで、保証人のいない単身高齢者でも不動産会社からの信頼を得やすくした。同保証を利用した不動産会社との契約件数は増加しているという。
富山県は持ち家比率が全国上位だが、北陸電力によると賃貸住宅に暮らす高齢者は相当数いるほか、核家族化で一軒家から賃貸に移ることも考えられるという。見守りサービスは同社との電力契約が条件であるため、電力自由化で参入が進む小売電気事業者との競争力強化にもつながる。
能登半島地震の影響を受けた北陸電力ならではの取り組みもある。被災地域での安否確認の強化だ。震災の影響が大きかった珠洲市、輪島市と連携し、1月から両市で同サービスを活用した高齢者の見守りを試験的に進めている。
両市を含む被災地では、仮設住宅で生活する高齢者の孤独死が懸念されるほか、家族が他地域に避難するなかで住み慣れた場所に一人で残る高齢者も多いという。自治体が福祉の一環として家族に代わる見守り体制を整えていくことで、こうした課題を減らすことを目指す。北陸電力の宮本課長は「行政の負担もあるため、まずは小さな規模で始めている」と話す。
今後の方針として、同社は自治体や不動産会社以外に居住支援法人などとの連携も想定する。24年に改正された住宅セーフティネット法では、同法人が入居者の見守りや安否確認を行う「居住サポート住宅」の供給促進が盛り込まれ、25年10月に施行された。連携を進めることで見守りサービスの更なる需要拡大も期待できそうだ。