高齢者こそスマートスピーカーがお勧め!スマホやリモコンが苦手な人の救いに
2022年09月08日DIAMONDonline
現代日本では、高齢者世帯の約半分が一人暮らし。高齢の親が心配、しかし離れて暮らしているのでどうサポートすればいいか分からないという人は多いのではないだろうか。前回は、ネットワークカメラや各種センサーで親が住む家を「見える化」する方法を中心に紹介したが、今回はGoogleやAmazonのスマートスピーカーを使って親の日々の生活をサポートし、簡単なビデオ通話ができるようにする方法を紹介する。「スマートスピーカーなんて、ITに強い人でないと使いこなせない」と思うかもしれないが、実は、高齢者にはとても使いやすいデバイスなのだ。
「OK Google」「アレクサ、○○して」、声で操作できるスマートスピーカー
「OK Google、今日の天気は?」「アレクサ、ジャズを聴かせて」といったように、声だけで情報検索や家電操作が可能な「スマートスピーカー」。登場して久しいが、日常的に使っている人はまだごく一部のようだ。オンラインリサーチ会社マイボイスコムの2021年4月調査によると、利用している人は1割に満たない。さらに「使いこなしている」となると、ネットリテラシーが高く、最先端のデジタル機器にも詳しい、ごく一握りの人に限られるだろう。実際私自身も、天気とニュースの確認、あと音楽を聴くのに使っているくらいだった。
なので、スマートスピーカーを「高齢の親の生活サポートに使う」という発想に至らないのは当然だと思う。私も、親見守りの初期には考えもしなかった。ところが、軽い認知症が始まった母に振り回されるようになって、「どうしたら親が一人で、正しい日付や曜日、スケジュールを確認できるようになるだろうか」と悩んだ結果、たどり着いた答えが「スマートスピーカー」だった。そして導入してみたところ、期待値をはるかに上回る結果が得られたのだ。
高齢者にこそスマートスピーカーをおすすめしたい
スマートスピーカーを動かしているのは「AIアシスタント」と呼ばれる対話型のソフトウエアだ。iPhoneの「Siri(シリ)」もその一つで、人の音声を認識して、その指示を実行したり問いかけに答えてくれたりする。音声認識技術の進化により、多少早口だったり曖昧さが残ったりする問いかけもきちんと理解してくれるし、AmazonのAIアシスタント「Alexa(アレクサ)」、Googleの「Googleアシスタント」などは連携サービスや商品も増え、声だけで利用できるサービスや操作できる家電製品は多い。
そんなAIアシスタントは、認知機能や身体能力が低下している高齢者にとって、使い方次第で頼れるアシスタントになる。いや、むしろ「高齢者にこそAIアシスタント」と声を大にして言いたい。
AIアシスタント/スマートスピーカーが、高齢者の日常生活においてどんな役割を果たすのか、自然に使ってもらうためにはどういった工夫が必要なのか、実体験をもとにご紹介したい。
加齢で分からないこと・できないことが日々増えてゆくもどかしさ
私の母は編み物が趣味で、凝った作品を作っては人にあげたりしていた。それがここ1年ほど、編み始めてもすぐ中断し、ほどいてはまた編み……を繰り返すようになった。自分がどこを編んでいるのかが分からなくなり苦悩している姿をよく見る。
老いのつらさは、以前には問題なくできていたことが次第にできなくなっていくことだ。そして過渡期には、強烈なもどかしさにさいなまれる。身体面だけでなく、認知面の機能低下も加われば、もどかしさもひとしおだろう。
母は「見当識障害」と呼ばれる症状が顕著だ。私たちは普段、今日が何月何日で何曜日かを当たり前に覚えていられる。そして翌日になれば、特に確認をしなくても、昨日に1日プラスした日時であり曜日だと分かる。さすがに何時何分かは時計を見ないと分からなくても、「だいたい午後4時頃だろう」といった見当はつく。
その機能が失われてきた母は、日付も曜日もなぜだか間違って認識してしまい、特に通院予定や美容院の予約などを入れていると、今日もしくは明日がその日だと思い込んで行動してしまうことが相次いだ。周囲に迷惑をかけてしまうことも度々あり、「タクシーを呼んで病院に向かう前に、ちゃんと日にちを確認してっていつも言ってるじゃない」と、つい強い口調で責めてしまった。
スマホに電話をかけても応答できないことが増えた。応答アイコンを上にタップする必要があるのだが、その操作を何度説明しても覚えられない。以前は友人にLINEで写真を送ることもできていたのに、今はアドレス帳からかけたい相手を探すこともおぼつかなくなった。
リモコンのような多数のボタンがあるものも苦手になっていた。文字が読めないわけではないのに、何を押せばいいのか分からなくなる。おそらく実際に自分が同じ状況にならなければ、母に見えている世界がどのようなものか理解することはできないのだろう。頭の一部に、もやがかかっているような状況なのだろうか。あるいは自分は普通に暮らしているだけなのに、娘や周囲から「間違っている」「なぜすぐ忘れるのか」と理不尽に責められ否定され続けている感じなのだろうか。「情けない」と涙する母の姿に、「何とかできないものか?」と私も真剣に悩んだ。
AIアシスタントを、一人暮らし高齢者の“アシスタント”に
そんな状況の中、「母が今日の日付や曜日、通院日などスケジュールを自力で確認する方法」として導入したのが、AIアシスタントを利用できるスマートスピーカーだ。
日時だけならデジタル時計を見ればいいのだが、母は「今日は9月2日で木曜日」など誤った日・曜日を思い込んでいて、確認するという行為になかなか至らない。予定はカレンダーに書き込んであるのだが、それを見ると今度は、予定の入った日付が「今日」や「明日」だと思い込んでしまう。
その解決に、「今日は○月○日で、今日の予定はこれです」と、その日の日付とスケジュール両方を一緒に教えてくれるAIアシスタントが有効だと思ったのだ。
使ったのは「Google Home mini」(現Google Nest mini)だ。途中からディスプレイ付きの「Google Nest Hub」も追加購入した。
「OK Google、今日の予定は?」と聞けば、連携しているGoogleカレンダーから今日の予定を教えてくれる。「明日の予定は?」「今週の予定は?」でも通じる。「Google Nest Hub」ならテキストでも表示されるのでより分かりやすく、それ以外のときには家族写真や愛猫の写真を自動でローテーション表示させるようにしたので、母の心の癒やしとなった。
さらにいちいちスケジュールを聞かなくても、勝手に読み上げてくれる設定も可能だ。起きたときに「OK Google、おはよう」と一言言えば、今日の日付と曜日、天気予報、今日の予定を読み上げてくれる。同時に、寒い冬の時期にはリビングのエアコンも自動でONにする設定にした。
現在は記憶が短期で消えてしまうこともあるため、朝食中に自動的にその日の予定を読み上げる設定も追加した。「2022年8月22日、月曜日です。時刻は7時15分です。今日は一件あります。9時に『リハビリ』という予定があります」。そして施設サービス利用時には、送迎の人が来る少し前にまた音声でリマインドしてもらう。
こうして、私の不在時でも、母が日付を間違えたり予定を勘違いして行動してしまったりということを減らすことができ、周囲に迷惑をかけることもなくなった。
離れて暮らす高齢親のスケジュール管理はGoogleカレンダーで
ちなみにGoogleカレンダーに予定を登録するのは私の役目だ。離れて暮らしていると、スケジュール管理をどうすればいいかも悩ましい問題になる。新しい予定が入っても、実家にいなければ紙のカレンダーに書き込むことはできない。母に電話で頼むと、全く違う日付のところに書き込んでかえって混乱の原因になることもあった。
オンラインカレンダーなら、毎週決まった曜日に繰り返される施設利用などは一括登録で済むし、私が実家にいないときに入った新しい予定も、オンライン上で登録できる。
予定の確認は、母がスマートスピーカーに音声で問いかけて行う。「スマートスピーカーでGoogleカレンダーを使うなんて高齢者なのにすごい」と言われたこともあるが、音声確認なら、娘の私に「今日の予定は?」と聞くのと大差ない。頭に一言だけ「OK Google」と付ければよく、それはテーブルに貼っておいた。覚えられなくても見ながらなら言えるし、毎日使っていたらいつの間にか記憶したようだ。
現在はAIアシスタントを「Alexa」に変えたので、特に予定確認を行わなくても、1日前・1時間前・10分前など、あらかじめ決められたタイミングでリマインドもしてくれ、さらに便利になった。
リモコンやスマホ操作が苦手になっても、音声操作なら一発OK
スマートリモコン「SwitchBotハブミニ」の導入により、エアコンやテレビ、天井照明の操作も、音声だけで行うことができるようになった。
「アレクサ、電気を消して」
「アレクサ、来週の予定は?」
問題は冒頭のフレーズを覚えられるかどうかのみで、そこだけ書いて貼っておけばあとは何とかなる。リモコンの場合、複数あるリモコンのうちのどれがエアコンでどれがテレビで、どのボタンが電源でどのボタンがチャンネルなのかと、覚えておかないといけないことは山ほどある。「エアコンをつける」という簡単な操作でも、その過程でたくさんの記憶を呼び起こし判断をするという複雑な脳の働きが実はあるのだ。音声操作なら「エアコンをつけて」と言うだけ。
音声操作のメリットは他にもいろいろある。夜中のトイレ時など、暗闇の中でリモコンを探すのは大変だし、見つからずに暗い中で歩こうとすれば、つまずいて転倒するリスクも高まる。寝室のベッドに入った後、リビングの照明やエアコンを消したかどうか分からなくなることも多い。リモコンと違い、スマートリモコンはインターネット経由での操作なので、寝室のスマートスピーカーに「OK Google、リビングのエアコンを消して」と言えば、わざわざ戻らなくても消してくれる。
古い家なので気密性も低く、冬の早朝は凍えるほど寒い。そんなときには起きてすぐ「リビングのエアコンをつけて」と言えば、リビングにたどり着くころまでには部屋も温まっている。これも転倒防止に一役買ってくれる。
時に、こんなやりとりも履歴に残っていた。
母「OK Google、いつもありがとう」
Google「どういたしまして」
「朝のお薬を飲みましたか?」の声がけもしてくれる
一人暮らし高齢者の生活課題として、「薬の飲み忘れ」もよく挙げられる。家族がいれば、食後に「薬飲んだ?」と声をかけられるのだが、一人暮らしだとそれをしてくれる人がいない。
そんな声がけも、設定をすればAIアシスタントが代わりにやってくれる。食事が終わっているだろう時間に「朝食後のお薬は飲みましたか?」「夕食後のお薬はもう飲みましたか?」とリマインドするよう設定するだけだ。
きっかけさえあれば、飲み忘れは減る。その言葉を聞くと「ああ、そうだ忘れた」と薬が入っているカゴから一包化された薬を取り出して机の上に置く。ただそのまま忘れてしまうことも多いので、10分後にもう一度同じフレーズを繰り返す設定にしてもいいだろう。本人にとっても、家族に毎日しつこく言われるより、AIアシスタントに淡々と言われたほうが抵抗感もないはずだ。
他にもきっと、リマインド設定が役立つ場面はいろいろあるだろう。デイケア・リハビリのお迎えが来る前の準備もそうだし、毎週見たい好きなテレビ番組があるなら、それを通知してあげるのもいいだろう。
Google アシスタント?それともAmazonアレクサ?
このあたりまで読んで「うちの実家でもスマートスピーカーを導入してみようか」と思った人がいるかもしれない。具体的に検討を始めたときに最初に考えるのが、どのAIアシスタントを使うかだ。シェアが高いのはGoogleアシスタントが使える「Google Nest」シリーズか、Alexaが使える「Amazon Echo」シリーズ製品だ。
どちらもGoogleカレンダーと連携させられるし、SwitchBotハブミニやNature Remoなどのスマートリモコンを音声操作でき、今日の日付や天気、ニュース、音楽なども簡単に利用できる。高齢の親の利用だけならそれほど凝った使い方もしないと思うので、どちらでも大きな違いはない。
……と思っていたのだが、半年以上使っていたGoogleアシスタントをつい最近、Alexaに切り替えた。理由は二つある。一つは、Amazonのディスプレイ付きスマートスピーカー「Echo Show」シリーズだと、「呼びかけ」機能を使って簡単にビデオ通話ができること。実家のEcho Showと私のスマホのAlexaアプリのアカウントを同一のものにしておけば、こちらがスマホアプリから呼びかけるだけで勝手にビデオ通話が始まる。少々強引ではあるが、親が画面タップをしたりしなくてもいいので非常にスムーズだ。
もう一つの理由は、Alexaだとスケジュールをプッシュ型でリマインド通知してくれること。Googleカレンダーに予定を登録する際、「1日前」「1時間前」「10分前」など通知タイミングも一緒に設定される。その時間になるとAlexaは音声でリマインドしてくれる。Google Nestにはそうしたプッシュ通知してくれる機能はない。
なお、スケジュール確認に関する余談だが、GoogleアシスタントにもAlexaにも家族の声を登録して、誰からの問いかけなのかを判断して返事をする機能がある。例えば「今日のスケジュールを教えて」と両親がそれぞれ問いかけて自分のスケジュールを確認するということであれば、声を登録しておくと便利に使えるはずだ。
来客対応は、ドアベルをディスプレイ付きスマートスピーカーに連携させる
実家では玄関対応も課題だった。ドアフォンの室内モニターは、台所の柱に取り付けてあり、足が悪く立ち上がるのに時間がかかる母は、そこまで行くのも大変だった。結果、来客があっても誰なのか確認する前に居留守を使ってしまうことが発生していた。宅配便の荷物がいつまでも受け取れなかったり、心配して様子を見に来てくれる知人を追い返す羽目になってしまったりということもあった。
現在は「Ring Video Doorbell」というスマートドアベルを玄関に設置し、私のスマホアプリや実家の「Echo Show 5」で来客対応できるようにしている。Ring Video DoorbellはWi-Fiでインターネット接続して利用する。12.8cm×6.2cm×2.8cmと小型で玄関ドアに貼り付けられる。充電バッテリーなので、配線工事なども不要だ。
来客があると、動体検知で私のスマホアプリに通知が来る。同時に、リビングに置かれたEcho Show 5でも玄関前の映像を映し出すことができる。チャイムが押下されればそれもスマホアプリやEcho Show 5で分かる。
今までは立ち上がってモニターのところまで行かなければ、誰が来ているかも分からなかったが、今はリビングのソファに座ったままで確認できるようになった。訪問販売なら居留守を使ったり断ったりできるし、荷物が届いたときは、クール便かどうかなどを確認し、玄関前の棚に置いておいてもらうこともできるようになった。
もちろん私もスマホで実家来客応対ができるので、近所の人やデイサービスのお迎えの人とあいさつしたり、軽い情報交換をしたりできる。一人暮らし高齢者狙いの悪質な訪問セールスが来ても、母に接触する前に私が追い返せるので安心だ。
AIが失われた機能を補完してくれる時代に
今は「AI」といっても、「天気を教えて」で現在地周辺の天気予報を、「スケジュールを教えて」という問いには、その人のカレンダーに登録されている予定を返すくらいなので、正直それほど「人工知能」感は感じられない。比較的ストレートな結果を返してくれるレベルかなという気もする。
ただこの分野の進化は早いので、今後どんどん高機能化していくだろう。カメラ経由で得られる映像情報からどんな事態なのかを把握して最適な解を返してくれたり、状況からリスクを予測し、それを防ぐための対処をしてくれたりする日も近いだろう。リストバンド型の活動量計で睡眠時間や歩数、心拍数などを測定し、アプリで確認したり他の人と共有したりということは今でもできるが、近い将来、一人暮らし高齢者のバイタルサインを24時間継続チェックし、異常が見つかったら病院のオンライン診断を手配してくれるといったところまでやってくれるようになるのではないか。
身体機能が衰え、認知機能が低下して一人での生活が難しいとなれば、今は親か子のどちらかが居住地を変更して同居を始めるか、親を施設に入所させるかの二択しかない。しかし、AIがさらに進化し高齢者の生活をサポートする機器が多く登場すれば、こうした最新技術が加齢で失われた身体・認知機能を補って、今ほどは不自由さや不便さを感じずに暮らすこともできるようになるかもしれないし、介護・見守り側の負担も大幅に減るだろう。そう考えると、自分自身の老後に対して抱いていた不安感も少しは薄らぐし、見守りテック機器の今後の進化への期待も強まる。まずは親の遠隔見守りに試行錯誤しながら、私自身が将来そうした最先端の技術を活用して快適に暮らせるよう、今から情報収集をしていきたいと思う。
次回は「孤立死を防ぐ」をテーマに、一人暮らしの親に異常事態が発生したとき、どうやってそれを早期に発見し、より最短時間で助けが駆け付けられる体制を作れるか、さまざまな企業が開発する見守り製品やシステム、ホームセキュリティー会社の駆け付けサービスなどを紹介したい。