親の見守りをITで円満解決!工事なしで「スマートな玄関・部屋」に変える方法

2022年08月13日DIAMONDonline


現代日本では、高齢者世帯の約半分が一人暮らし。元気に暮らしていても、転倒して骨折したり、脳梗塞になったりすれば、外部に助けを求めることも難しくなる。まだ施設に入ったり、介護が必要だったりというほどではなくても、離れて暮らす親が心配な人は少なくないのではないか。高齢の親をどうサポートすればいいか、孤立死を回避するための要となるのが「見守りテック」だ。今は工事不要で、簡単に導入できるIT製品がいろいろ販売されている。見守りテックのポイントや、どんな製品をどう導入すべきか、筆者の実体験を元に分かりやすく解説する。

お盆の今、離れて暮らす親のことを改めて考える

 新型コロナ禍のここ2年、なかなか実家に顔を出せずにいた方も少なくないだろう。久しぶりに帰省したら親のちぐはぐな言動に違和感を覚えたり、雑然と散らかった家の中の状況に不安を抱き、見守りの必要性を感じたりした人もいるかもしれない。両親のうちどちらかが先立てば、残った親が「いざというときに助けも呼べず孤立死」というリスクも発生する。

 そこで提案したいのが「見守りテック」の導入だ。ネットワークカメラや各種センサーで安否確認体制を構築するとともに、スマートリモコンやスマートスピーカーなどを導入し、実家をDIYで「スマートホーム化」する。こうして家電製品の遠隔操作・音声操作を実現すれば、加齢で身体機能や認知・判断力が低下した親の不自由さもいくらかは解消できる。

 家の中と外の重要な接点である玄関にも今、「スマート化」の波が押し寄せている。Wi-Fiでインターネット接続し、スマホで来客応対できる「スマートドアベル」、同じくスマホで施錠解錠できる「スマートロック」だ。高齢者を狙った悪質な訪問販売の対策にもなるし、遠隔解錠できれば、いざというときは近所の人に実家に突入し親をレスキューしてもらうことも可能となる。

スマートホーム化に必要な製品が安価になってきた

「でも実家の家電は古いものだらけだし、玄関の鍵を取り換えるのも簡単な話ではない。そもそも実家にはネット環境がないから、スマートホーム化どころじゃ……」

 そう思うかもしれないが、実はここ数年でDIYスマートホーム化は格段に手軽なものとなっている。安価なスマートホーム化製品が次々と登場しているのだ。既存家電をIoT化する「スマートリモコン」は1個4000円前後から。玄関の鍵内側に両面テープで貼り付けるだけの後付けスマートロックも1万円以下で入手できる。そしてポケット型Wi-Fiやホームルーターなら、月額3000円台からさまざまなプランが出ている。工事が必要な光回線と違い、導入も簡単だ。

一人暮らしの母を見守るため、実家の「DIYスマートホーム化」を決意

 私自身、これら見守りテックによって大いに助けられている。昨年夏、父が他界した。もともと足が弱って一人では外出できなかった母は、この環境変化が引き金になり、歩行困難が進んだ。家の中での転倒が増え、しかも自力で起き上がれなくなることもあった。

 認知症初期に現れやすい「見当識障害」も顕著になった。これは時間、場所、人などを正しく認識する感覚が失われるというものだが、実は結構厄介なもの。母の場合は、日時や曜日、時間が分からなくなってしまった。「今日は何日?」だけなら大した問題ではないが、「明日は8月3日で通院日」「今日は水曜日だからデイサービス」など、日付・曜日を完全に勘違いして行動してしまう。結果、連日のように「明日は通院付き添いなのに、なぜまだ帰ってこないのか」と電話で責められたり、玄関で来ないデイサービスの送迎を待ち続けたり。夜8時を朝8時と勘違いし、タクシーを呼んで30キロ以上離れた病院に向かってしまったこともあった。

 電話に応答してくれないことも増えた。どうやらスマホや電話子機、リモコンなどボタンがたくさん付いているものを見ると「何を押せばいいのか」が分からず思考停止するようだった。リモコン操作の問題に加え加齢で暑さを感じにくくなった結果、真夏日でもエアコンを稼働させなくなり、「お母さん、熱中症になるからエアコンつけてっていつも言ってるでしょ」と電話口でつい強い口調になってしまう。

 そして気温が30℃超となったある日のこと。朝からずっと連絡がつかず、急きょ仕事を早退して4時間かけて帰省したところ、母は熱気こもる寝室のベッド下にうつ伏せで倒れていた。すぐに救急搬送。幸い脳血管疾患ではなかったが、熱中症で脱水症状も起こしており、危険な状態だった。

「自分が駆け付けないと安否確認もできない」状況を、なんとかしたい。そうでなければ母の命にも関わるし、たびたび仕事を中断して実家に駆け付ける私の負担も半端なかった。

ネットワークカメラと各種センサーで「実家見える化」

 最初に取り組んだのは「実家見える化」だ。
 母は以前軽い脳梗塞を経験しており、転倒で背骨の圧迫骨折もしている。次にまた脳血管疾患や転倒で動けなくなり発見が遅れれば、寝たきりになってしまう可能性もあった。それを避けるためには、私がより早く確実に安否確認できる体制を作る必要がある。数年前、防犯目的で導入していた米国Arlo社のネットワークカメラ2台をリビングと寝室に再設置し、さらに廊下用としてレンズ部分が360度回転する中国シャオミ製のネットワークカメラを買い足した。

 ネットワークカメラには、動体検知するとその前後数秒の動画を自動的に録画し、クラウドサーバーに保存してくれる機能が付いている。なので、スマホアプリで自動録画された動画のキャプチャー画像一覧を見るだけでも、何時に起きて、いつ食事をしたかなどが大体分かる。電話をかけて応答がないときも、LIVE映像で無事生活している様子を確認すれば安心できる。

 カメラ自体にもマイクとスピーカーが組み込まれているので、電話の替わりにカメラを通して会話することも可能だ。曜日を勘違いし、玄関でデイサービスの迎えを待ってしまっている母に、「今日はお休みの日だよ」とカメラから呼びかけたり、帰宅時に「お帰りなさい」と声を掛けたりすることもできるようになった。

センサーを3つ取り付けるだけで格段に安心になった

 カメラによる安否確認を補完してくれるのが各種のセンサーだ。実家では3つのセンサーを取り付けている。すべてSwitchBotという、スマートホーム化製品を多数出しているメーカーのものだ。

 一つめは玄関の開閉センサー。1個1980円と安価なのに、動体センサーと照度センサーまで内蔵した優れもので、設置は両面テープでドアの両側に貼り付けるだけ。これに約4000円の「SwitchBotハブミニ」を組み合わせると、玄関ドアが開いたり、玄関に誰かが近づいたりするだけで私のスマホに通知が届くようになる。

 この導入で、日時を勘違いしたままで遠方のかかりつけ病院にタクシーで向かってしまうという事態をほぼ阻止できるようになった。

 二つめは人感センサー(2480円)で、トイレに設置している。母がトイレに入るたびスマホに通知が届くので、仕事の途中にそれをチラ見すれば、母が無事生活していることが分かる。

 三つめのセンサーは温湿度計(1980円~)で、リビングと寝室に設置した。離れた場所からでも室温が確認でき、一定温度を上回ったり下回ったりした場合にアプリ通知が届く設定ができる。室温が30℃を超えているようなら、電話してエアコンをつけるよう促し、なかなかつけてくれない場合にはエアコン自体を遠隔操作することもできる。

リモコン操作が危うい母も、音声操作には慣れた

 このエアコン遠隔操作に必要なのが「スマートリモコン」と呼ばれる製品だ。さまざまな家電製品の赤外線リモコンを登録し、スマホアプリで操作するとリモコンに替わって赤外線信号を発信し家電を動かすというもの。離れた場所からエアコンやテレビなどを操作できるので、実家見守りにとって強力なアイテムとなる。

 先ほど紹介した「SwitchBotハブミニ」もスマートリモコンの一つ。温湿度計と連携させれば「一定温度以上でエアコンをON」といった自動化設定もできるし、スマートスピーカーとの連携で「OK Google、電気をつけて」など、声だけで家電や照明機器をコントロールできるようになる。リモコン操作が危うくなっていた母だが、音声操作にはすぐ慣れた。夜中にトイレに行くときには寝室の電気を声だけでつけることができるようになり、転倒リスクも抑えられたと思う。

玄関も2つの製品で「スマート化」できる

 今回、実家スマートホーム化を進めるにあたり、母の生活上の課題を思いつく限り書き出してみた。その一つに「来客対応」があった。足が弱った母は、玄関まで手すりを伝いながら歩いていくのがしんどく、居留守を使うことが増えていた。結果、母を心配して訪れてくれた知人まで追い返す羽目になり、宅配荷物もいつまでも不達のままだった。

 また、転倒して動けなくなったときなどは、近くに住む母の知人や近所の人に手を貸してもらいたいところだが、親戚でもないのに鍵まで預かってもらうというのは相手にとっても負担が大きすぎる。

 そこで導入したのが「スマートドアベル」と「スマートロック」だ。ここ数年、さまざまなメーカーから新製品が発売され、2021年にはGoogleがNestブランドのドアベルを発売し、今春にはAmazonがグループ会社Ringのスマートドアベル「Ring Video Doorbell 4」を日本で発売開始した。

 Ring Video Door bellは人が近づいてくると動体検知で自動的に録画を開始し、スマホにも通知が届く。そしてチャイムが押されると、実家リビングに置いたAmazonのディスプレー付きスマートスピーカー「Echo Show 5」に玄関前の映像が映し出され、来客対応可能となる。

 母はデイサービスに行って留守にしたり、寝ていて気付かなかったりすることも多いので、その場合には私がスマホアプリで応対する。近所の人が回覧板を持ってきたときには、次の人に回してもらうお願いもできる。また田舎なので、生協や宅配便の配達員も顔なじみの人がほとんど。その場合にはスマートロック(後述)で玄関の鍵を遠隔解錠し、玄関の中に荷物を入れてもらうようにしている。

 SwitchBotロック(9980円)は、鍵の内側のつまみにかぶせて貼り付けるだけで取り付けられる。スマホアプリの操作でつまみを90度回転させ、鍵を開け閉めしてくれる。鍵のつまみの厚みに応じてアダプタを変え、土台の高さもネジで調整できるので、さまざまな形状の鍵に使える。強力両面テープで貼り付けるだけなので賃貸物件でも問題ない。外側は今まで通り物理的な鍵を使って開け閉めできるし、内側もスマートロック本体のつまみをひねれば施錠できるので、高齢の親を困惑させることもない。単に「スマホアプリでも開閉操作できる」というだけだ。

 手動開閉した履歴や、現在施錠されているかどうかもスマホアプリで確認できるので、防犯や鍵かけ忘れ防止にもなる。

最初は「防犯」目的で導入して、徐々に慣れてもらおう

 問題なく暮らせていると思っていても、介護開始の「Xデー」はある日突然やってくる。脳梗塞で倒れ発見が遅れたり、転倒骨折で長期入院したりすることになれば、それを境に元気だった親が突然「寝たきり」になることもあるだろう。

「まだ必要じゃないかな」と思っても、そこは転ばぬ先のつえ。心身ともに元気なうちに、見守りテック導入をぜひ検討してほしい。

 また、ネットワークカメラもスマートドアベルも、防犯に役立つ製品だ。「見守り」目的で親に渋られそうなら、まずは「防犯」としてこのあたりから導入提案してみるのはアリだ。私の実家でもネットワークカメラは当初防犯目的で導入しており、旅行時や親の入院時などにスマホアプリで実家の映像を見せ、「留守中の猫の見守りとしても便利」となじんでもらった経緯がある。

 スマートリモコンとスマートスピーカーを導入すると、家電や照明機器を音声操作できるようになる。これは、体が思うように動かなくなってくる高齢者にとって便利なもの。早くから慣れておけば先々、本人も家族も楽になる。

 離れて暮らす高齢の親の見守りやサポート、そして介護は、40~60代にとって重たく憂鬱(ゆううつ)な課題だが、実は最新のIT機器やサービスをうまく活用することで、減らせる負担もある。老いは近い将来、私たちにもやってくる。認知機能や身体機能の低下に直面したとき、それらを活用することでより便利で快適な生活を送ることもできるだろう。AIも飛躍的に進化して、認知症になっても意外と困らない社会が実現しているかもしれない。

 次回は、高齢者の生活をスマートスピーカーなどを活用してサポートする方法について紹介したい。