IoTと遠距離介護の最新事情 最新機器も不可能な介護保険外のサービス 弁当配達と同時に薬の服用もお手伝い
2022年08月12日ZAKZAK
公的介護保険制度が導入されて今年で22年目を迎えた。「このサービスの恩恵を受けている高齢者は多いが、遠距離介護をする家族にすれば、介護保険の枠内では、手の届かないサービスも少なくありません」と話すのは、高齢者の介護に詳しい遠距離介護支援協会の代表理事、神戸貴子さんだ。
その一つに、薬の服用がある。お薬カレンダーの日にちごとのポケットから、薬を高齢者に手渡すとなると、介護保険外のサービスになり、ヘルパーの担当業務を超える。この行為は、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)の技術を駆使しても、また家庭用ロボットに頼んでも、そこまで徹底させるのは難しい。遠距離介護の家族にとって、薬の飲み忘れの管理は大きな課題となっている。
それを可能にしているのはやはり〝人〟だ。畑違いの弁当屋さんが事業に一役買っている。
「うちのサービスは、契約者の了解があれば、お年寄りの自宅の中に入り、本人に直接、お弁当を届けます。お薬カレンダーを利用しているお宅では、ヘルパーさんは介護保険の縛りでできないが、私たちはその縛りはなく本人の希望があれば、無償で薬を渡しています」
在宅配食サービス「ニコニコキッチン」練馬中央店(東京都練馬区)のマネジャー、吉田悟司さんが同店のサービスを説明する。
配達の際、自宅に入るには鍵を空けなければならない。ここで活躍するのは、ハイテクではなく、アナログなキーボックスだ。同店ではこれを貸し出し、その中に家の鍵を保管する仕組みを考案した。
「お弁当を届けるだけでなく、ケアマネジャーさんやヘルパーさんとも密接に連携し、介護計画の会議にも参加しています」(吉田さん)
この連携により、それまで連絡していなかったケアマネジャーとつながり、介護用ベッドやシルバーカーをそろえてもらい、家の中の手すりの設置にもつながる。ヘルパーとつながれば、掃除をしてもらい部屋がきれいになる。デイサービスに通うようになれば、友人や話し相手を見つけ、孤独な生活から脱却することができる。
弁当を定期的に届けている中で、高齢者の異変を発見したこともある。
「お弁当を届けても応答がなく、家の中からシャワーの音が聞こえたので、おかしいと思ったら、風呂場で倒れており、救急車を呼んで、助けることができました。また別のケースではトイレで倒れて動けない人を救助したこともあります」(吉田さん)
同店ではこのほか、ペットボトルのふたの開栓、電球の取り換えなども無償で行っている。昔、放映された青春ドラマの「何でもやる会社」の現代版のようなきめ細かいサービスだ。
神戸さんは関連団体「わたしの看護師さん」も手掛け、介護保険では対応できないサービスをいくつも提供している。病院の付き添いは遠距離介護だと、いつも一緒に行くことは難しい。ケアマネジャーによる介護計画の中に入っていればヘルパーが付き添えるが、それは診察室の外まで。「わたしの看護師さん」では、診察室の中まで付き添い、医師の診断を聞き、家族に報告するサービスを提供している。
「介護を家族だけで完璧にしようとすると、疲弊してしまう。最新機器に頼るところはそれに頼り、機器ができないことは外部のプロに頼り、遠距離介護の家族の負担を減らすことが大切になってきます」
神戸さんはこのように話している。