IoTと遠距離介護の最新事情 センサーで睡眠・入浴見守る「自立型シニア向け住宅」 各住戸にセンサー設置、それを本部のスタッフが遠隔で見守る仕組み

2022年08月10日ZAKZAK


日本は世界で最も早く高齢化が進んでいる国といわれているが、79歳以下で介護認定を受けていない元気な高齢者の割合は約8割を占めている。「自立して活動的に暮らしている高齢者らは介護施設に入るのをためらうことが多い。でも、介護をする家族からすれば、親に一人暮らしをさせるのは不安と思っているケースも少なくありません」

高齢者の介護に詳しい遠距離介護支援協会代表理事の神戸貴子さんは、そう話す。

そうした遠距離介護の家族の不安を減らすような高齢者向け住宅が登場し、選択肢が増えている。ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)技術によって見守り機能を補完した高齢者賃貸住宅「シニアアップデートマンション ライフケア吹田」(大阪府吹田市)もその一つだ。

同マンションでは各住戸にセンサーを設置し、それを本部のスタッフが遠隔で見守る仕組みを確立。常駐の介護スタッフを置かないことで入居費用も下げた。

高齢者が倒れたり、急病を発症したりするのは睡眠時や風呂場が多い。同マンションを運営する会社の高木俊彦さんが説明する。

「ベッドのマットレスの下に、寝返り、呼吸、心拍をリアルタイムでモニターするセンサーを敷いています。異常を検知すると見守りセンターに通知され緊急対応が行われます。毎日の測定したデータは自動記録され入居者も閲覧でき、体調管理に役立てることができます」

また、高齢者にとって冬場のヒートショックによる死亡事故が多いといわれる浴室にも、それを防ぐための技術が使われている。浴槽の下に、入浴中の心拍、呼吸、体動をチェックするセンサーが設置されており、心拍が乱れるなどの異常が検知されるとアラームが鳴り、異常事態と判断されると自動的に排水が始まる。

「風呂場で溺れないように、1分足らずで腰の高さまで排水されます」と高木さん。この排水システムを設置しているのは日本中で唯一このマンションだけという。異常時には本部に通知がいき、入居者の応答がなければ、オートロックの一時解除キーを発行し、救急隊員がスムーズに居室に入れる仕組み。

入居者の70代の女性は「高齢者施設にいたときは食事や就寝時間も決められ、自由に外出もできなかった。ここでは規則に縛られないから気楽。気兼ねなく外出もできます」と楽しそう。80代の女性は「以前の一人暮らしだと風呂場で溺死しないかと心配だったけど、ここでは不安なく入浴できます」と語る。

同マンションでは「部屋の中に閉じこもらず、身体活動や社会参加も重要」との観点から、フラワーアレンジメント教室のほか、子供たちを招いて子供食堂も開催。このようにさまざまなことに配慮した施設なら遠距離介護をする家族も安心かもしれない。

遠距離介護支援協会の関連団体「わたしの看護師さん」でも、全国規模で独自の介護サービスを展開し、高齢者の生活を支え、遠距離介護の家族の負担を減らしている。同協会の神戸さんは「親の一人暮らしは心配でも、まだ元気なうちは最新テクノロジーの見守り機器と一緒に暮らす方法もあります。人と触れ合い、思い思いの生活をすれば、健康長寿にもつながることでしょう」と話している。