79GHz帯ミリ波センサーで姿勢推定、富士通がカメラ不要の見守り技術

2022年08月01日日経XTECH


 富士通は、一般的なミリ波センサーで取得した点群データから人の姿勢を高精度に推定できる技術を開発した。病院や介護施設に導入すれば、カメラを設置しなくてもきめ細かな見守りを実現できる可能性がある。同社は、実証実験を通して同技術の効果を検証するとともに精度の向上を図り、2023年度中のサービス化を目指す。

 新技術で用いるのは、国内電波法に準拠した79GHz帯のミリ波センサー。同センサーは、安価に導入できる、個人の特定が可能な情報を取得するリスクが低い、といった理由から見守り用途への応用が期待されているものの、1回の照射で取得できる点群データが粗く、従来は人の姿勢を高精度に推定できなかった。

 そこで同社は、(1)粒度の粗い点群データから細かい点群データに拡張する技術、(2)姿勢の推定を高度化する大規模データセットと人工知能(AI)モデル、(3)行動分析技術との連携による詳細な行動分析、の3つを組み合わせることで、転倒などの確実な検知を実現した。

 (1)は、電波を複数回照射して取得した大量の点群データから、人の姿勢を推定するのに適した点群データを選定し、粒度が細かい点群データへの拡張を可能にする技術。同社は、人の姿勢が時系列の点群データとして表現できることに着目し、この点群データ拡張技術を開発した。
 (2)は、拡張した点群データを基に、さらに高精度に姿勢を推定するためのもの。約140人から約50種類の異なるシーンでの行動データを収集し、点群データと人の関節点の3次元座標情報を対応させて、データセットを構築。このデータセットに基づいて高精度な姿勢推定AIモデルを開発した。

 (3)には、約100種の基本動作データを組み合わせて人の複雑な行動を分析できる行動分析技術「Actlyzer(アクトライザー)」を活用した。(1)(2)とActlyzerを連携させれば、検知した姿勢の変化がベッドから立ち上がったときの転倒なのか、それとも歩行時の転倒なのかなど、前後の行動を含む詳細な分析が可能になる。

 富士通Japan(東京・港)と鳥取市は2022年2月、新技術の前身となる技術を用いて、鳥取市営住宅において1人暮らしの高齢者を見守る実証実験を実施。プライバシーに配慮した住民の状況監視で、同技術の有効性を確認した。同年6月には、富士通が川崎市と共同で、福祉製品・サービスの開発と改良を支援する川崎市の施設「Kawasaki Welfare Technology Lab」(通称:ウェルテック)内の模擬環境ラボにおいて、起床をはじめとするさまざまな動作時の機器の反応や通知反応などを検証した。その結果をふまえて同年8月以降、高齢者施設において実証実験を実施する予定だ。