介護のICT化に注目 センサーで異常察知…データで質高いケア

2022年07月20日毎日新聞


 情報通信技術(ICT)を活用し、介護の省力化や効率化を図る「介護のICT化」に注目が集まっている。福岡市博多区にある麻生医療福祉専門学校福岡校では今春、最新の見守りシステムを導入した「ICT介護実習室」を新設し、専門科目を開講した。同校の教育現場を取材し、「ICT介護人材」育成の最前線を紹介する。

 6月初旬、同校6階にある介護施設を模した実習室で、ICTを学ぶ講義の第1回が開かれた。介護現場の負担軽減・質向上システムを開発する「コニカミノルタ」(東京)の前嵩西(まえたけにし)涼子さん(48)がこの日の講師。天井には同社が開発した見守りシステムの行動分析センサーが設置され、前嵩西さんが特徴を説明した。

 行動分析センサーは人工知能(AI)が高齢者の動きを分析。転倒、離床などがあれば、ケアする職員側のスマートフォンのチャイム音が鳴り、室内の様子が映像で通知される仕組み。高齢者がケアコールを押しても、スマホに映像が映り、瞬時に状況を把握できる。スピーカーを通じて会話も可能だ。

 「コールが鳴っても職員が一斉に駆けつける必要はありません。様子を見ながら適切なケアを判断できます」。前嵩西さんが実際にスマホを操作しながら説明すると、生徒からは「すごい」「画期的」と驚きの声が上がった。

 同校では今年度から介護福祉士を養成する介護福祉科(定員40人)でICT教育を取り入れた。生徒たちは今後、機器の取り扱い方法を学ぶ他、機器の導入で現場がどう変わるかを考えるグループワークにも取り組む。

 日本は高齢化が進み、65歳以上の人口は2020年10月時点で3619万人。総人口に占める割合は28・8%に達する。厚生労働省によると、「団塊の世代」全員が75歳以上になる25年には約32万人の介護職員が不足するとされている。福岡県第3の都市、久留米市の人口に匹敵する規模だ。

 介護人材の不足に対応するには業務改善が必要で、その切り札がICTだが、操作に不慣れな介護スタッフも多く、導入に二の足を踏む施設も少なくないという。

 そこで、同社は今後の介護の担い手となる若者にICTの役割やメリットを理解してもらおうと、19年から東京都の専門学校でICT介護授業を開始。今年度からは麻生医療福祉専門学校や宮崎県の高校でも取り組んでいる。

講義ではデータ活用や分析の重要性も学ぶ。前嵩西さんは食事や、服薬などのケア記録も手元のスマホに入力して情報が蓄積されれば、データに基づいた質の高いケアが可能になる点も強調。「ICTをうまく活用すればケア記録を手書きで残すといった間接業務が減り、対話やケアなどに時間を割くことができる」と生徒に訴えた。

 同校介護福祉科の教員、吉水美穂さん(45)は9年間、特別養護老人ホームで働いた経験を持つ。「介護現場の悩みは、介護記録の作成などの間接業務に忙殺され、高齢者とゆっくり関われないこと。生徒にはICTを使って、生まれた余裕をいかに高齢者に還元できるかを考えてもらいたい」と話す。

 「介護のICT化」が広がれば、きつい・汚い・危険の「3K」職場として敬遠されがちな介護職のイメージアップも期待される。同校の実習室は外部見学も受け付けており、吉水さんは「介護の新たな魅力を発信できれば。見学を通して介護職を選択する人が増えるとうれしい」と話している。