孤立介護者どう支援 足並みそろわぬ官民の情報共有 広島の「老老介護」殺人事件1年

2022年05月21日中國新聞


 広島市安佐北区亀山地区で、地域コミュニティーから孤立する自宅介護者をどう支援するかの模索が続いている。「老老介護」の末に高齢の夫が承諾を得て妻を殺害した事件から1年が過ぎ、地元団体は苦境に陥っている人のSOSのサインを見逃すまいと、苦労を語り合う会を設けた。一方で、見守りの訪問を拒まれて支援に結びつかないなど課題もある。

 妻や親を介護する高齢者たち4人が12日、地元の一般社団法人まちづくり四日市役場の古民家に集った。悩みやストレスを抱えて介護を頑張ったものの気力が湧かなくなる「燃え尽き症候群」に陥った経験や、介護する家族のために作る手料理について、区職員たち5人と意見を交わした。

 今年1月に始まった「かめやまケアメンの会」。事件後、老老介護に悩む男性から「自分の境遇と同じ」との相談が同法人に寄せられたことが背景にある。スタッフの出口勝美さん(67)は「地道に活動を続け、当事者同士がもっと交流できるプログラムを考えたい」と話す。

 事件を踏まえ、上大毛寺(かみおおもじ)町内会などの地元組織は、亀山地区の高齢者世帯の見守り訪問に取り組む。半年間活動し、「私は大丈夫」などと支援を断る人にどう関わり続けていくかという課題が浮かんでいるという。

 町内会世話人の横田公荘(こうそう)さん(71)は「家に閉じこもりがちな高齢者の大半から『放っておいてくれ』と言われ、電話にも出てもらえない」とこぼす。個人情報の保護が壁になり、行政との情報共有も進まず、支援に向けた官民の足並みがそろわないとも感じている。

 高齢化率が4割以上の町内会もある亀山地区。団地には高齢者夫婦だけの世帯も多く、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛や地域行事の中止で、関わりが希薄な世帯の孤立は一層進んでいると横田さんは不安を募らせている。

 広島文教大(安佐北区)の小川真史教授(介護保険)は「事件が起きた地域で、介護支援の新たなつながりが生まれたのは意義深い」と強調。個人情報の取り扱いについて「保護するだけでなく、有効活用へシフトするべきだ。守秘義務を守り過ぎると情報共有が進まず、当事者が求める支援につながらない」と指摘し、行政と住民が連携する必要性を説いている。

 <老老介護の承諾殺人事件> 昨年4月30日午前8時ごろ、広島市安佐北区亀山5丁目の自宅で、介護に疲れた夫=当時(72)=が承諾を得て妻=同(80)=を殺害した。広島地裁の公判で、がんを患いながら献身的に介護してきた夫が「今日死ぬか」と問いかけ、妻から「ええよ」と返事があり、犯行を決意した経緯が明らかになった。懲役3年、執行猶予4年の判決が確定した。