マスク時代 新技術蓄積…高精度顔認証やAI、次のビジネスへ発展期待

2022年05月07日読売新聞


 コロナ禍を受け、電機大手などが「マスク生活」に対応した商品や技術の開発に注力している。欧米を中心にマスクの着用解除が進むが、コロナ禍の2年余りで培った知見やノウハウを“次の一手”に生かそうと、将来を見据えた取り組みも広がっている。

◇聴覚障害者支援

 NECと大阪メトロは4月、大阪・梅田のエキナカ店舗に、マスクをしたままでも個人を認証し、決済もできる設備の試験導入を始めた。12月までの実証実験で、待ち時間の削減や、来店頻度の向上などの効果を検証する。

 すでにNECは、マスクをしていても99・9%以上の精度で顔を認識できるシステムを開発しており、担当者は「利用者に利便性を認識してもらい、導入店舗を拡大していきたい」と期待する。

 三菱電機は、マスク着用で相手の口元が見えず、会話に困る聴覚障害者を支援するため、話した言葉をスマートフォンなどの画面上に表示できるアプリを開発した。これまで高齢者施設などに導入した実績がある。

◇先行きは不透明

 だが、こうした技術の前提となる「マスク生活」が、いつまで続くかは不透明だ。

 調査会社のグローバルインフォメーションによると、世界のマスク市場は2019年以降急拡大し、22年に251億ドル(約3兆3000億円)に達すると予測する。その後は需要が落ち着き、27年には8分の1以下の30億ドル(約3900億円)まで縮小する見込みだ。

 最近では、欧米を中心にマスクの着用を義務化する規制の緩和が進んでおり、今後は各国でも「脱マスク」が広がる可能性もある。

◇ロボット応用も

 そうした中、コロナ禍で考案した商品や技術を、次のビジネスに生かそうとする企業も出始めた。

 マスクの製造を手がけているシャープは今春、マスクの着用に伴う肌荒れの悩みに応えるため、電機業界では異例の化粧品事業に新規参入した。美容関連の知見を蓄積し、23年以降には、理美容家電と連携したビジネスへと進化させる展望を描く。

 顔の約7割がマスクで見えなくても、90%以上の精度でポジティブやネガティブといった表情を認識できるAI(人工知能)を開発したのがKDDI総合研究所(埼玉県)だ。今後は、ロボットなどへの応用を想定している。

 オムロンは4月、マスクを着けたまま顔を識別できるソフトウェアを発売した。「感情や行動などのセンシング(感知)へと進化させていきたい」(担当者)との考えで、将来的には心身の不調などを読み取る「メンタルケア」や人の目に代わる介護見守りサービスなどへの展開を目指す。