高齢者見守りに電波活用 沖縄電力子会社が実証実験

2022年03月17日日経新聞

 
身近になった無線通信網「Wi-Fi(ワイファイ)」や家庭の電力使用状況から、遠隔で高齢者の健康状態を把握する試みが始まった。沖縄電力子会社や、送配電事業者の東京電力パワーグリッド(東電PG)が取り組んでいる。高齢者の見守り技術は様々あるが、個人のプライバシーに配慮しながら、精度よく見守れると実証できれば、普及が進む可能性がある。

沖縄電力などが出資する「おきでんCplusC(シープラスシー)」(沖縄県宜野湾市)は2021年12月、Wi-Fiを活用して人の活動や睡眠の質などを推測する実証実験を始めた。宜野湾市、沖縄市、豊見城市に住む65歳以上が対象で、22年1月末時点で207人が参加している。

高齢者の自宅に直径約10センチメートルの専用デバイスを数個設置した。玄関、リビング、寝室などに置いたデバイスでWi-Fiの電波を送受信し、その波長のデータから高齢者の活動量や睡眠時の呼吸を検知する。

異常があれば家族や行政に連絡が届く。参加者には専用タブレットも配り、行動を記録してもらうことで検知の精度を確認する。

活用したのは米スタートアップのオリジンワイヤレスの技術だ。独自の人工知能(AI)を使い、大きな動作から微細な変化まで高精度で検知できる。例えば「トイレに行った」「外に出かけた」などの移動情報から徘徊(はいかい)していないかどうか確認できる。就寝時の胸の上下の動きから睡眠の質も分かる。

Wi-Fiの信号は同心円状にくまなく広がり物体にぶつかると跳ね返る。デバイス間で信号をやり取りしやすいという。

おきでんCplusCの上原康志ゼネラルマネジャーは「利用者がデバイスを気にせず、普段通りの生活をしてもらえる点も有利だ」と話す。従来の見守りシステムでは、カメラを使い映像で生活状況を把握する方式もあった。これでは「監視されている気持ちになる」。

まずは月額1000円程度のサービスとして23年度の実用化を目指す。オリジンワイヤレスは家庭用Wi-Fiルーターに搭載する研究も進めている。「比較的安価に提供でき、さらに普及も進むだろう」と上原氏は期待する。

一方で、課題も残る。Wi-Fiは障害物の影響を受けやすく、ノイズが増える可能性がある。重要なデータを選択的に抽出し、AIで解析できるかが鍵だ。今回の実証実験の結果を生かし、精度向上を目指す。

東電PGは国立循環器病研究センターと協力し、高齢者の認知症を予測しようと取り組んでいる。21年10月に家庭の電力使用データをもとに、AIを活用して認知機能の低下を予測するモデルを開発した。

分電盤に小型センサーを取り付けて「いつ、どんな家電を、どれだけ使用したのか」を分析する。例えば、夏や冬なのにエアコンの電力使用量が少ない場合、何か異変が起きている可能性があると判断する。

19~20年にかけて宮崎県延岡市の高齢者に研究に参加してもらい、78人を対象に解析した。予測モデルの精度は82%だった。23年度以降の事業化を検討する。
高齢化の進展で認知症患者は増えているが、認知症の半数以上を占めるアルツハイマー病は根本治療法がまだない。異変が早く分かれば早期受診につながる。効率的な支援ができる可能性も高まり、遠方に住む家族の安心にもつながる。

AIが専門で見守り技術に詳しい電気通信大学の高玉圭樹教授は「生体機能を検知するセンサー技術がいろいろ出てきた。高齢者の病気や生活習慣の改善にいかにつなげるかが重要だ」と話す。

さらに「診察時に医師が、患者の自宅での過ごし方を詳細に把握するのは難しい。データの裏付けがあれば正確な診断に役立つ。オンライン診療もよりスムーズになるはずだ」と指摘する。