「OK グーグル」が高齢母の生活を変える 家電スマート化で快適に【実家見える化】

2022年02月09日Impress Watch


スマートホームというと「ITに馴染んだ世代の最先端住宅」という印象があるかもしれませんが、実は最も必要としているのは高齢者です。

年をとれば足腰が弱るもので、夕方電気をつけようとちょっと立ち上がるだけで痛みが走りますし、判断力と認知機能が低下すれば、「たくさんの文字列が並ぶもの」の操作が苦になります。

その結果、今まで問題なく使えていたTVやエアコンのリモコンを前に使いこなせずフリーズ状態になってしまうことも。もしそれが「OK Google、電気をつけて」「Alexa、エアコンをONにして」と声だけで操作できたら、高齢者にとってどれだけ楽でしょうか。

真夏の暑い日に家の中で熱中症になってしまうのも高齢者です。ネット経由で家電を遠隔操作できれば、離れて暮らす家族がエアコンを操作することもできます。

スマートホームのために照明器具もエアコンもわざわざ買い換える必要はありません。わずか数千円の「スマートリモコン」や「スマートプラグ」を追加するだけで、既存家電を簡単にスマート化できます。
前回は、ネットワークカメラによる「見守り」を紹介しましたが、今回は家電製品のスマート化で高齢な親の生活がどう変わるのか、実際の導入体験をもとにレポートします。

第1回:高齢親の遠隔見守りにネットワークカメラを設置
第2回:スマートホーム化アイテムで高齢者宅を安全&快適に
第3回:実家をDIYスマートホーム化する

スマートホーム化が足腰弱った高齢者に必須な理由

「転倒」なんていうのは世代関係なく誰でもあることですが、年を取ってからの転倒は、時に命取りになったり、寝たきり生活のきっかけになることもあります。

高齢者になると反射神経の衰えから頭を床に強く打ち付けてしまったり、骨の強度も弱っているため簡単に骨折してしまうからです。骨折からの治りも遅く、何日も寝ている間に筋力が落ちて動くのがさらに辛くなり、悪循環で寝たきりになってしまうなんてことも。

加齢で足腰が弱ると、ちょっと立ち上がるだけでも一苦労。私の母も足が悪く、家の中でも手すりにつかまらないとふらついて転倒してしまいます。

立ち上がる時の膝と太ももの痛みに悩まされ、日没後に室内が暗くなっても電気をつけずぼーっと過ごしたり、日中カーテンを閉め切ったままということも増えました。本人によれば、立ち上がるのが億劫で何もする気がなくなってしまうとのことなのですが、暗いままの部屋では立ち上がろうという意欲もさらに低下してしまいます。

今回のテーマであるスマートホーム化によって実現することのひとつに「音声コントロール」があります。「Alexa、電気をつけて」「OK Google、音楽をかけて」と呼びかけると、スマートスピーカーがその音声を解析し、連携している家電製品を操作したり、インターネット上から情報を集めて伝えたりしてくれる機能です。

音声コントロールができるようになると、調理中やゲームで手がふさがっていてもエアコンを入れたりタイマーをかけたりすることができてとても便利ですが、高齢者にとってはさらに大きな価値があります。

それが転倒防止であり、身体を自由に動かせないことによる苦痛や不自由さからの解放です。

辛さを我慢して身体を動かさなくても音声操作だけで照明をつけることができ、暗い中で壁スイッチやリモコンを探し動き回る必要がなくなります。また、寝室にスマートスピーカーを置けば、そこから別の部屋のエアコンを操作することもできます。

寒い冬の朝なら、スマートスピーカーでエアコンをオンにして、リビングが温まった頃に布団からでていけば楽ですし、自動化設定を使えば、本人が指示を出さなくてもセンサーや室温の変化に応じて照明やエアコンを最適化することもできます。認知症が出始めた高齢者にとっては心強いサポートになるでしょう。

暑さ感じぬ親に「エアコンをつけて」と口うるさく言ってしまう

昨夏は残暑が根強く、9月に入っても30度超えの日がありましたが、なぜだか母は「暑い」とは感じません。

暑さが辛くないこと自体は羨ましいのですが、人が暑さ寒さを感じるのは身体を守るのに欠かせないセンサーでもあり、それを失うと熱中症や低体温症になってしまうリスクがあります。実際、母も熱中症で救急搬送されたことがあります。

「お母さん、30度超えたら必ずエアコンをつけて!また熱中症になっちゃうから」何度この言葉を繰り返したことか。

ちゃんと室温を気にしてもらおうと、テーブル上の温度計に「30度を超えたらエアコン」と書いたメモを貼り付けたところ、次に帰省したらそのメモが剥がされていました。

「なんで剥がしちゃったの?」

と聞くと、ぷいと顔をそむけた母からこんな返事が返ってました。

「人をボケ老人扱いして」

そこではっとしました。それまでは適当に聞き流されていると思っていましたが、エアコンについて口うるさく言うたびに母は不満を溜め込んでいたのです。

正直、認知症の初期症状は出ているのですが、本人にその自覚はありません。ただ、日付がわからなくなったり、娘が同じ注意を何十回も繰り返すようになり、「自分はどうなってしまっているのだろう」という漠然とした不安を抱えていたようです。

私も「熱中症予防は母の命を守ることだから」という思いから、つい強めに言い過ぎてしまいましたが、本人に暑さ感知センサーがないのだから「熱中症になる」「エアコンつけろ」と口やかましく繰り返しても無理なこと。

もう口うるさく言うのはやめよう。母に適切なコントロールを求めること自体が間違っている。

そうではなく、母の代わりに自分が遠隔でエアコン操作できるようにしたり、あるいは室温に連動して自動化できる方法を考えればいいのだ、ということに気がつきました。

買い換え不要!スマートリモコン導入で既存家電をIoTに

・音声コントロール:母がもっと楽に照明や家電製品を操作できるようにする
・遠隔操作自動化:熱中症や火災防止のため実家のエアコンやこたつを遠隔操作自動化できるようにする

この2つの目的で導入したのが「SwitchBotハブミニ」という、いわゆる「スマートリモコン」と言われるもので、DIYスマートホーム化において核となるアイテムです。

様々な家電製品をスマホから一括操作可能にするスマートリモコン(右)
まだスマートリモコンを使ったことがない方向けに、どういった製品なのかを簡単にご紹介したいと思います。

●スマホを家電製品のリモコン替わりにする
赤外線リモコンで操作できる家電製品を登録することで、スマートリモコンが代わりに赤外線信号を発し、エアコンのオンオフや温度変更をしたり、テレビのチャンネルを変えたりしてくれます。スマートリモコンに操作のためのボタンはついておらず、実際の操作で使うのはスマホアプリです。

今はエアコンにテレビ、照明、扇風機、ロボット掃除機とあらゆる家電製品にリモコンがついていて、時にテーブルがリモコンカオスになります。それをスマホで一括操作してしまおうというのがこの製品です。「リモコン取って」などと言わなくても、家族それぞれのスマホがリモコン代わりになるメリットもあります。

●スマートスピーカーと連携させれば音声操作も
さらにスマートスピーカーと連携させれば、家電を音声で操作することもできるようになります。

「OK Google、電気をつけて」
「Alexa、エアコンの温度をあげて」

スマートホームのイメージといえばこれでしょう。最新IoT家電でなくても、このスマートリモコンを導入すれば、赤外線リモコンで操作する家電製品の大半が音声操作可能にります。

●遠隔地から家の中の家電製品が操作でき自動化も
実家スマートホーム化において重要なのはここから。スマートリモコンはWi-Fi経由でインターネットに接続しており、スマホアプリでの操作は外出先からでも可能です。つまり、同居していない家族が、自分のスマホやスマートスピーカーから実家のエアコンを稼働させることもできるのです。

また、この「SwitchBot ハブミニ」という製品は、その名の通りハブとしてSwitchBot製品群を連携させる役割も果たしており、SwitchBotの温度計や開閉センサー、人感センサーをアプリに登録してハブミニと連携して使うことで活用法もぐんと広がります。

例えば、実家リビングの室温が一定を超えた時に自分のスマホアプリに通知が届くよう設定しておけば、必要に応じてエアコンを遠隔操作でオンにできます。また、一定室温になったらエアコンを自動で稼働させたり、玄関ドアの開閉センサーをトリガーに、エアコンや照明、こたつなどをまとめてオフにするといった自動化設定も可能です。人感センサーに反応して天井照明をつける、ということもできます。

79歳の母もあっという間に慣れた「OK Google エアコンをつけて」

「高齢者にスマートスピーカーなんて使いこなせるのかしら」と懐疑的な方もいるかもしれません。数年前からスマートスピーカー「Google Home mini」を導入していた私の実家でも、ほとんど活用されていませんでした。

今回スマートリモコンを導入し、「エアコンをつけて」「電気をつけて」など覚えるべきコマンドが増えましたが、意外にも母はすぐに覚えて馴染んだようです。今まで問題なく使えていたスマホやTVリモコンの操作にも支障をきたすようになっていただけに、正直なところこれは私にとって驚きでした。

カーテン開閉も音声操作できるようにしたところ「これは便利」と喜んでくれ、室温や太陽の傾きに応じてマメに開け閉めするようになりました。

とはいえ「OK Google」部分は忘れてしまうことも多かったので、養生テープに油性マジックで書いて、いつも座るテーブルの上に貼り付けています。

「なんでもすぐに答えてくれてすごい」
「一体どんな人がやっているのだろう」

とも話していたので、母は向こうに人がいる認識なのかもしれません。

母「いつもありがとうね、これからもよろしくね」
Google「どういたしまして」

なんて会話も耳にしました。

壁スイッチだけの天井照明は“指ロボット”がオンオフ

先ほど「赤外線リモコンのある製品ならだいたい登録可能」と書きましたが、実家は築40年の古い一戸建て。新築時はブラウン管テレビの時代で、天井照明にもリモコンはついていませんでした。

リモコンがなく壁スイッチのみで操作する天井照明を、スマートリモコンに登録して遠隔操作や音声操作を可能にする方法は、以下のような方法があります。

●アダプタリモコン後付けアダプタ
1つ目はアダプタを使う方法です。天井ソケットと照明器具の引掛けシーリングの間にリモコンの受信機がついたアダプタを挿入することで、リモコンによる操作が可能になります。

●リモコン付き電球・蛍光灯
照明器具はそのままで、電球や蛍光灯をリモコン付きのものに変えるという方法もあります。

ただ、実家リビングの照明はシャンデリアタイプでアダプタ挿入はできず、ランプ部分も5つに分かれているので、全部をリモコン付き蛍光灯に置き換えるのはちょっと現実的ではありませんでした。

●壁スイッチを物理的に押す指ロボット
そんな時は、SwitchBotから発売されている「指ロボット」の出番です。これはスマホアプリで操作すると、アームが伸びて物理的にスイッチを押してくれるという、リモコンがない様々な家電製品をインターネット経由で操作できるアイディア商品です。

こちらはSwitchbotスマートプラグという製品。コンセントと家電製品の間にとりつけることで、同じくリモコンがない製品のオンオフを遠隔で操作できます。

ルーティンを自動化~寝室で「おはよう」でリビングのエアコンON

「さっき言ったばかりじゃない」
「何度も言ってるのに」

とつい言いたくなってしまいますが、歳とともに記憶力や注意力が衰えてゆくのは仕方がないこと。長い人生の大切な思い出が詰まった脳は、HDDの残容量がほとんどないパソコンのようなものと考えたほうがいいかもしれません。

忘れて当然ということを前提に、それでも支障が発生しないよう「ルーティン作業を自動化」すれば、見守り役の家族はもちろん、親本人もストレスから解放され、安全と快適さが実現しますし、親との関係も穏やかで良好なものになります。実際、私がそうでした。

問題はどう設定するか。特に自動化のきっかけとなる「トリガー」を何に設定するかは頭を使うところです。

今回トリガーのひとつとして使ったのが「OK Google、おはよう」です。朝起きた時に寝室でこう言えば、その日が何日で何曜日なのか、あと当日の予定や天気を教えてくれるよと説明し、ベッドから見える位置に「OK Google おはよう」と書いて貼りつけておきました。

日にちや時間がわからなくなる日時見当識障害である母にとって便利な機能だったのでしょう。朝起きて「OK Google おはよう」と言うことが習慣化しました。

この「OK Google おはよう」でどんなアクションをするかは、アプリ「Google Home」で設定することができます。

そのアクションの中に「エアコンをつける」を含めることで、母が寝室で「OK Google おはよう」と言えば、自動的にリビングのエアコンが稼働開始するようにしました。母が着替えてリビングに辿り着く頃にはポカポカ温まっているので、寒さで身体がこわばって転倒するリスクも減らせます。

トリガーを開閉センサーや人感センサーにするという方法もあります。例えば、玄関扉に取り付けた開閉センサーのボタンを外出時に押すと、エアコンや照明、こたつやIH調理器などのスイッチがオフになる、という自動化設定を組んでおけば、外出時に消し忘れを心配する必要はなくなります。時間で設定するタイマー自動化もいいでしょう。

室温をネット越しに確認してエアコンを遠隔操作する

少々地味ながら、インターネット経由でデータが確認できる「温湿度計」もあると便利なアイテムです。

SwitchBotの温湿度計は、ハブミニと組み合わせることで、遠隔地からも室温変化をチェックすることができます。一定の温度を超えたらスマホアプリに通知がくる設定も可能で、室温をトリガーとしてエアコンをオンオフするといった自動化アクションを設定することもできる。

私は一定温度を超えた時と下回った時にLINEが来るよう、「IFTTT(イフト)」というサービスを使って設定しました。IFTTTとはWebサービスを連携させるサービスで、アプリをインストールすれば誰でも簡単に自動化プログラムを組み立てることができます。

夏場は一定温度を越えた時にLINEが来るよう設定して、必要に応じて電話でエアコンをつけるよう促したり、遠隔操作でエアコンをつけるようにしました。

母は暑さには鈍感ながら、冬は寒がりで暖房は必ずつけるため、室温変化を見ればいつ起きたのかがビジュアルでわかります。

体調が悪ければリビングに来ず寝室で寝っぱなしになるので、一日の大半の室温があがらないまま。逆に遅くまでずっとリビングにいる時も注意が必要で、寝室に行かず寝てしまっている可能性もあります。

そんなわけで、実家の状況を「見える化」するツールのひとつとして、この温湿度計は非常に有効でした。

母のスケジュール管理アシスタントに

転倒と同じくらい母の現状で憂慮していたのが「日にちがわからなくなる」という日時見当識障害です。

わからないというのは正確ではなく、実際には「今日は11月10日水曜日」など、誤った日時&曜日を頭にインプットしていました。

その結果、連日のように「明日病院なのにどうして帰省しないの」と電話がかかってきたり、あるいは診察日ではない日にタクシーを呼んで、片道30キロもある病院に向かってしまったりしたことも。往復15,000円越えのタクシー代出費も痛いし、間違ったバスに乗って隣町で保護されたこともあり、深刻な問題でした。

この問題の解決に寄与してくれたのがスマートスピーカー「Google Home mini」です。

「OK Google おはよう」と言えば今日が何日で何曜日なのかを答えてくれ、その日の予定も読み上げてくれます。母も音声で「今日は何日」と言われると、誤って思い込んでいる日時がちゃんと正しく上書きされるようです。

さらにリビングには、ディスプレイ付きの「Google Nest Hub」を導入しました。「スマートディスプレイ」とも呼ばれるもので、Amazonからも多種サイズの製品が発売されています。

こちらは、音声だけでなく文字で日時や予定も表示してくれるのでより強力な効果を発揮しました。まさにスケジュール管理アシスタントです。「今週の予定は」「今月の予定は」などと言えば、翌日以降の予定も確認できます。

母のスケジュールをオンライン登録するのはもちろん私の役目。もともと紙のカレンダーに通所リハビリやヘルパーがくる定期予定の他、通院日時や美容院の予約日、福祉施設のショートステイなど書き込んでいたのですが、それだと私が不在な時に新たに決まった予定は書き込むことができません。

Googleカレンダーなら遠隔で予定を登録できるし、「今日の予定は?」と聞くだけで母も簡単に確認できます。親が毎週楽しみに見ているテレビ番組があれば、その放送日時を登録するのもいいでしょう。「今日の予定は?」と聞いた時に何も返ってこないとがっかりしてしまうので。

IT技術を使ってストレスを溜めない生活を

今までできていたことが、次第にできなくなっていく。

自分の記憶も次々と霧散し、今日の日付すら「それは違う」と娘に否定される。

もどかしさと不安で「もうイヤ」と涙をこぼす母親を見ていると切なくなるし、明日は我が身と自分自身も憂鬱な気持ちになります。

ただ幸い、これから老いを迎える私たちは、外部脳としてサポートしてくれるIT技術を活用することができます。高齢者特有の課題を解決し、その生活を快適にするための技術を「エイジテック」「シニアテック」などと呼ぶそうです。

一人暮らしの親のため今回試行錯誤したことで、スマートホーム化のメリットも実感でき、IT技術を賢く活用すれば、将来自分の記憶力・判断力・身体機能が衰えても、さほどストレス溜めずに暮らせそうな気がして安心しました。

次回は家の中と外界との重要な接点「玄関」のスマート化と「防犯」を紹介します。