「ここで5軒目。どこも門前払いされました」肩を落とす80代→高齢者に部屋を貸さない業界に違和感→R65不動産という挑戦
2022年02月06日デイリー
日本は平均寿命が世界一長い長寿国であるにもかかわらず、高齢者の住まい探しは超難関といわれる。家賃の滞納に、孤独死、ゴミ屋敷化…高齢者が住まうことで起きるかもしれないトラブルを懸念する家主は多く、「高齢者には貸さない」が不動産業界では一般的になっている。しかし、不安を解消する「見守りサービス」を開発し、65歳以上の住まい探しに特化した不動産業者がある。
■「こんなに元気なのに…」高齢というだけで門前払いする業界に違和感
「不動産業界には、高齢者には部屋を貸さないという前提があります」
こう話すのは、65歳からの住まい探しを専門に支援する不動産会社、株式会社R65(東京)代表取締役の山本遼氏。
山本さんが大学新卒で愛媛県の不動産会社に勤めていたとき、こんなエピソードがある。
「県内の不動産会社で仲介業務をやっていたときのことです」
真夏のある日、賃貸で部屋を探しているという80歳代の女性が訪ねてきた。ひとり住まいをしようとする高齢者には身寄りがないか親族が遠くに住んでいることが多く、家主さんは孤独死や家賃の滞納などを心配して貸したがらない。
山本さんも断ろうとした。だが、その女性は開口一番こういった。
「ここで5軒目です。どこも門前払いされました」
断れなくなった山本さんは、知り合いの不動産会社や大家さんなど合わせて200軒ほどに電話をかけまくった。結果、紹介できる物件はたった5つしかなかった。
あらためてその女性を見ると、とても元気そうだ。現役で仕事もやっているという。にもかかわらず、なぜ賃貸住宅を借りることができないのか?
山本さんは、何かが根本的におかしいと感じた。誰もがいくつになっても好きな場所に住み、豊かな暮らしが送れるようにしたい。その願いが、R65不動産を起業する動機になった。
■事故物件化しないように「見守る」サービスを開発
高齢者に物件を貸したくないと考える家主が最も不安に思うのは、やはり孤独死だという。
入居者が不幸にして遺体で発見された場合、家主や管理会社は親族を探して連絡したり残置物の処分をお願いしたりと、本来の業務ではない煩雑な作業が発生する。また、部屋に残った汚れや臭いを消す作業にも出費を強いられる。
〔令和元年度住宅確保要配慮者等の居住支援に関する調査研究報告書〕と〔宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン〕によると、部屋で孤独死した人がいても、次の入居者へ知らせる義務はないそうだ。そうはいっても、近所から噂を聞くだろう。
「そんな不安を排除できれば、高齢者に貸してもいいよという家主さんはいらっしゃいます」
こう話すのは、R65不動産で広報を担当する飯田鉄弥氏。
R65不動産では、電気の使用量をモニターする方法で高齢者を孤独死させない見守りシステム「あんしん見守りパック」を開発して、実際に運用している。
人には朝起きてから夜寝るまで、1日のうちいつ電気を使うというパターンがある。そのパターンをAIが記憶する。ふだん電気を使う時間になっても使われないとか、日中ほとんど電気を使わないなど、いつもと違う状況を察知したら「異常あり」と認識して、あらかじめ登録したアドレスへメールを発信する。異常事態に、なるべく早期に対処するための仕組みだ。
この方法だと、室内にセンサーを取り付ける必要がないので工事費がかからない。入居者も「見張られている」という違和感をもたずに済む。入居者はあんしん見守りパックに原状回復費と空室保障費の保険料を足して月額980円を、家賃に上乗せして支払うだけ。
このシステムを導入してから、R65不動産の物件情報への掲載を希望する家主が増え、入居を希望する高齢者からの問い合わせも月に40人ほどあるという。
■メールや直筆の手紙で感謝の気持ちが届くことも
いわゆる高齢者と呼ばれる年代の人たちは、遠くへは引っ越さないという。
「ほとんどの人が、いま住んでいる地域内で物件を探そうとします。何軒もの不動産業者に断られ続けた末、弊社にたどりつくパターンが多いです」
そして、めでたく物件が見つかって引っ越した後に、メールや直筆の手紙で「ありがとうございました」と感謝の気持ちを伝えてくれる人もいるそうだ。
R65不動産では原則として65歳以上を対象に賃貸物件を紹介しており、高齢者がペットと一緒に暮らせる物件も扱っている。また実際には、65歳より若い人の物件探しをすることもある。
そもそも不動産業界でいう「高齢者」とは、何歳以上を指すのだろうか。
「弊社では社名の通り65歳以上の方を対象にしていますが、他社の中には50歳代から『貸さない対象』にしているケースがあります。でも、いまはそういう前提も徐々に緩みつつあって、高齢者を受け入れなきゃいけないねという雰囲気は業界全般に感じます」
R65不動産では、そういう雰囲気が業界の当たり前になればいいと願っている。
「ノウハウを他社に真似されて高齢者がどこの不動産会社へ行っても物件を借りられる社会になってほしい」
極論をいえば、R65不動産が必要なくなることが目標だという。