離島の課題解決にICT活用 教育や高齢者見守り 瀬戸内海の男木島

2022年01月26日毎日新聞

 

 瀬戸内海に浮かぶ男木島(高松市)で、「男木島スマート交流プロジェクト」の実証実験が進んでいる。移住者やUターン者が主体となり、情報通信技術(ICT)を活用して島ならではの教育コンテンツや高齢者を見守る仕組みを構築し、離島が抱える課題の解決につなげたい考えだ。

 「ブーン」と音を立て、島内の里山「荒神(こじ)林(ばし)」からドローンが飛び立つと、子どもたちが「ヤッホー」と空に向かって手を振った。

 高松市立男木小中学校の児童生徒は22日、ドローンが撮影したライブ映像を手元のノートパソコンで確認した。島の集落や空き家の調査を手がけてきた建築家、安部良さんが東京都内から遠隔で授業に参加し、「上から見ると(地形が)盛り上がっているね」と解説した。

 同じ日には高精細なソニーの通信機材「窓」を使って新屋島水族館(同市屋島東町)と男木島をつなぐ「遠隔郊外学習」も実施した。大きな画面の向こう側でフンボルトペンギンが走り回り、飼育員が「暖かいところに住んでいます」と説明。男木小学校の山口陽太郎さん(1年)は「飛んでいるドローンとペンギンが見られて楽しかった」と笑顔で話した。

 高松市は、住民と事業者が協力し最先端のまちを作る国の「スーパーシティ」構想の特区指定を目指し、生活基盤のデジタル化に取り組んでいる。2021年8月から国の離島支援事業の男木島スマート交流プロジェクトが始まり、島出身で14年に家族でUターンした福井大和さん(44)が代表を務めるICT関連企業「ケノヒ」、NTTドコモ四国支社など3社と協力して調査や実験を行っている。

 プロジェクトが目指す目標の一つ目は、島の教育機会の充実だ。男木島は10年に始まった瀬戸内国際芸術祭を契機に移住者が増え、休校していた男木小中学校が14年に再開した。福井さんによると、島の人口約150人の3分の1を移住世帯が占める。ただ、児童生徒数は現在9人にとどまっており、保護者からは「同世代の子どもや若者と関わる機会が少ない」との声が上がっている。

 そこで、プロジェクトには香川大の学生が協力。男木島と市内のキャンパスを「窓」でつないで交流したり、直接現地を訪れたりして子どもの学びをサポートしている。経済学部の得能理加さん(1年)は「最新技術で遠隔で会えるのが良い」、創造工学部の松井知輝さん(4年)は「子どもたちの自主性を伸ばしたい」と話す。

 二つ目の目標は、島の人口の約6割を占める高齢者の見守りだ。「住み慣れた島を離れたくない」「あまり干渉されたくない」といった声に配慮し、高齢者の日々の「活動量」を数値化するユニークな活動を行っている。

 実験では高齢者10世帯の玄関ドアに開閉回数を計測するセンサーを設置し、開閉1回につき「1点」をカウントする。地元の社会福祉協議会や診療所と連携し、地域のイベントに参加したり、診療所を訪れたりした場合は「10点」など点数を加算。合計ポイントの増減により、「家に閉じこもりがち」などの異変を察知する。

 見守りシステムを運営する東京都内のベンチャー企業「Geolonia」最高執行責任者(COO)の西川伸一さん(40)は、16年に家族で男木島に移住し、子ども3人が小学校と保育園に通っている。「高齢者の活動を計測して抽象化したデータを活用し、プライバシーに配慮した緩やかな見守りを実現したい」と語る。

 高松市デジタル推進部の小沢孝洋部長はプロジェクトについて「島民自らが参加事業者となっているため、個人データの利活用も含めて住民の理解が得られやすいのではないか」と話す。今回の実証実験は1月末で終了する。市は成果を検証し、「スーパーシティ」構想などでサービスの実現を目指す。