孤立・孤独をなくす「エイジテック」が日本の高齢化社会を救う

2019年12月17日DIAMONDonline

 

 日本でも高齢者を対象としたテクノロジーの開発、いわゆる“エイジテック”(AgeTech)が盛んになる兆しがある。高齢者支援サービスの自動化や省力化、介護支援、安否確認、健康状態の管理、診断支援、遠隔診療など、さまざまなサービスが検討されている。その多くは高齢者一人一人の行動を見守り、ビッグデータとリアルタイムの情報から個々人の行動を分析し、改善策をAI(人工知能)を使って判断・提案する仕組みだ。

 一方で、高齢者を支援すべきタイミングで、なかなかそれが行われないケースがあることも浮き彫りになった。

 今年相次いだ大型台風によって発生した浸水災害のニュースでは、高齢者の住民が泥にまみれた部屋の掃除を、疲れた体にむち打ちながら続ける姿がテレビ画面に何度も映し出された。そうした方々にとってこれからの一番の課題は住宅再建だが、鉄腕アトム並みのロボットでも現れない限り、高齢者が自力で再建することは難しいだろう。災害に関しては、エイジテックはまだ無力なのである。

 期待されるのは公共サービスの提供に加えてボランティアの支援だが、数が足りないばかりでなく、被害状況の把握や支援のニーズと支援者のマッチングがうまく機能していない。地域の職員が歩き回って情報を集めたり、役場の掲示板に住民ニーズを書き込ませたりするような、前近代的な方法で運用されている状況だ。

 テレビ報道による情報伝達は、視聴者の興味をそそるニュースが優先され、しかも即時性が要求される。役所による牛歩の情報収集もテレビによる刹那的な情報伝達も、被害者と支援者をつなぐことには向いていない。ある被災地で東南アジアからのボランティアが大活躍したというニュースがあったが、東南アジアとの橋渡しをしたのは、役所やテレビではなくSNSだったという。

社会の思い込みが壁に

 自然災害で被災し、復旧に苦労する高齢者の方々の存在を知ると、現代日本に本当に必要なエイジテックはどういうものかが分かってくる。それは孤立や孤独をなくすエイジテックだ。

 高齢者の一人一人が多くの人とつながれば、お互いに助け合い、支援することができる。一方通行ではない双方向のコミュニケーションが基本で、それはコミュニティー形成にもつながる。高齢者による情報発信、相互コミュニケーション、コミュニティー形成が鍵を握る。

 一見違う事象のように思えるが、高齢者を標的にした振り込め詐欺がなくならないのも、高齢者の孤立、孤独が根本原因だろう。コミュニティーから外れて孤独であれば、電話口の向こうにいる詐欺集団に簡単にだまされてしまう。特に最近の過疎化や核家族化により、高齢者が家の固定電話に出るときには一人でいることが多く、コミュニティーのバックアップがない。

 固定電話は、かつては家族というコミュニティーの外部とのゲートウェイだった。だから、怪しい電話は撃退できたし、抑止効果があった。それに、孤立は詐欺に引っ掛かりやすいばかりでなく、認知症や老化を早めることも知られている。

 エイジテック発展の鍵は、高齢者自身に懸かっている。

 孤立、孤独を防ぐことに関しては、個人にひも付いたスマートフォンの活用が不可欠だ。高齢者がスマホの利用方法を学び、積極的に使うように、高齢者自身が変わらなければならない。

 だが、それを阻んでいるのは高齢者自身ばかりではなく、若年層や中年層たちが抱く「お年寄りは弱者であり、テクノロジーに疎く、学習もしないので、保護、支援するべき存在だ」という思い込みだ。この思い込みを払拭できたとき、高齢者による、高齢者のためのアプリやサービスも次々と開発されるようになるのではないだろうか。

 これは夢物語ではない。実際、私が関わっているあるベンチャー企業は、創業者と役員のほとんどが「高齢者イノベーター」だ。彼らは日米の大手企業の役員やトップを経験した事業経営のプロと、認知症に造詣の深い専門家や医師などだ。認知症の危険度を科学的に分析・予知し、その発症を遅らせるためのトレーニングを開発、提供している。チャレンジ精神は若い起業家たちに負けていない。

 もちろん、高齢者の中にはテクノロジーが苦手な人も多いだろう。しかし、それは中年層、若年層でも同じことだ。どの年齢層でも、テクノロジーのマーケティング理論でよく知られている技術普及曲線が存在する。

 新しい技術を応用して新たな価値を創造しようとする「イノベーター」、価値を見いだせば新しいものでも積極的に取り入れる「アーリーアダプター」、周りに付和雷同する「マジョリティー」、そしていつまでもかたくなに古いものから抜け出せない「ラガード」などはそれぞれの年齢層で見られる。高齢者のアーリーアダプター層が他のマジョリティー層を引っ張ればいいのだ。

若者に頼るな

 先に挙げた高齢者イノベーターたちは、創業後間もない頃から有力企業と提携し、まずはアーリーアダプターの高齢者と中年の高齢者予備群へのアプローチを計画している。

 アーリーアダプターを探すことは非常に重要だ。例えば被災地で前向きに頑張る高齢者を見つけられれば、エイジテックのアプリを提供してコミュニティーへの関与を支援できる。それがきっかけで他の高齢者たちを巻き込みながら、若い力を集め、住宅再建を加速させられるのではないか。

 最後まで付いて来られない高齢者はいるだろうが、それはもともと行政が支援する対象者だ。自助努力する高齢者が増えれば、行政が本当の弱者に差し向けられるリソースはむしろ増えるはずだ。

 高齢者は、減り続ける若者の支援だけを頼りにするのはやめよう。「高齢者の、高齢者による、高齢者のためのエイジテック」により、若者との交流を活発化させれば、日本の高齢化社会に新たな風が吹くに違いない。