「人ごとでない」高齢者の孤独死、地域の見守りどこまで

2019年11月24日朝日新聞

 
 高層マンションが立つ滋賀県栗東市のJR栗東駅周辺。大阪駅まで1時間弱、名神高速道路のインターチェンジもある好立地から京阪神のベッドタウンだ。

 人口は約7万人で1990年比で1・5倍増。高齢化率(65歳以上が占める割合)は4月現在、県内19市町で最も低い18・7%。20%未満は同市だけで、若い世代が多いことを物語る。

 しかし駅から1キロほどの住宅街(小平井2丁目)を見ると状況は異なる。自治会長の芳賀(はが)隆弘さん(77)によると、高齢者宅が多くて空き家も増加。「十分に自治会活動ができない」

 芳賀さんは5月、民生委員から「独り暮らしの高齢者と連絡がつかない」と聞いた。警察に連絡しアパートの部屋に入ると亡くなっていた。死後3日以内。独り暮らしの芳賀さんは「人ごとではない」と感じた。
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 市内には4月時点で、約2700人の独り暮らしの高齢者がおり、この2年で250人ほど増えた。半数以上が75歳以上の後期高齢者だ。芳賀さんは7月、2010年度から栗東、草津、守山、野洲の4市が大阪ガスセキュリティサービス(大阪市)と運用する「緊急通報システム」に申し込んだ。

 自宅の電話回線につないだ機器のボタンを押すと、同社の窓口担当者につながる。担当者が救急車を呼ぶか、事前登録した近隣住民らの「協力員」に連絡して様子を見に行ってもらう高齢者の見守りシステムだ。

 利用料は月1200円で、栗東市は原則月700円を助成している。芳賀さんは「何かあった時を考えると安心できる」と話す。

 家族や近所の知人ら3人の登録が必要だが「家族がいない」「頼みにくい」という理由で、1人だけの登録や独り暮らしの高齢者同士で登録し合うなどの運用もしている。市長寿福祉課の担当者は「独り暮らしの高齢者が増えれば制度が維持できるか不安」と言う。
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 独り暮らしの高齢者が亡くなった後、死因などを調べる医師の体制にも課題がある。病死と分からないまま遺体が見つかったり、医師の診療がない状況で死亡したりすると、警察は事件性の有無を調べる「検視」をする。医師が立ち会って死因を調べる「検案」もして死体検案書を作成する。
 主治医が駆けつけて死亡診断書を出せば、検案は不要になる事例もあるが、独り暮らしの高齢者は主治医がいないケースも多い。

 県警によると、18年度は1656人を検視した。うち65歳以上の単身居住者は368人で、09年度に比べて1・8倍増。検視件数も2割以上増えている。

 市内の開業医、木築野百合(のゆり)さん(60)は長年、草津署からの検案依頼を引き受けてきた。夜間・休日を問わず、診察時間などを調整して続けてきたという。

 警察が検案を依頼する医師は、すぐに駆けつけられる地域の診療所などの開業医が中心だ。ただ、その地域に住んでいないことも多く、検案が出来る医師が限られているという。

 このため県医師会は研修会を開くなどして、多くの医師が少しずつ検案に関わる体制を強化している。約1600人が会員で、木築さんは「1人の医師が年1回協力すれば、誰かに負担が集中しない」と話す。

 木築さんは「自治体が定期的な検診を促すとともに、保健師らが自宅を訪問したり、独り暮らしの高齢者に主治医をつけたりする取り組みも重要になる」と指摘している。