高齢者見守り+宅配、かざすだけ 日新システムズ

2019年09月25日日経新聞

 
日新電機子会社の日新システムズ(京都市)は在宅高齢者向けに、専用のカードをかざすだけで買い物やタクシー配車、遠方の家族に連絡できる端末を開発した。10月から富山県の黒部市社会福祉協議会(社協)と共同で実証実験を始める。端末の利用状況に応じて高齢者が元気かどうか把握しやすくなり、地域の「見守り」の効率化も後押しする。

開発したのは固定電話ほどの大きさのICT(情報通信技術)端末。非接触カード読み取り機、スピーカーと音量調整ダイヤル、大きなボタン1つを備える。携帯電話の通信網に接続して使うため、高齢者自身がインターネット利用などの契約をする必要はない。

タクシーを呼びたい時は「移動案内」カード、食料品の宅配を頼みたい場合には「買い物」カードをそれぞれ使う。カードをかざせば、社協や生活協同組合などに自動的に連絡が行き、高齢者との会話に慣れた担当者から自宅の固定電話または携帯に電話がかかってくる仕組みだ。

タクシーを依頼する場合、社協の担当者が高齢者に行き先などを確認したうえでタクシー事業者に連絡する。高齢者が使う端末にはタッチパネルなどはついておらず、IT機器に不慣れな人でも直感的に使うことができる。

10月から黒部市社協や国立研究開発法人情報通信研究機構と共同で、実証実験を開始。同市の後期高齢者40世帯に端末を設置し、機能性や地域サービスがどの程度使いやすくなるかを検証する。

端末には高齢者が元気に暮らしているかを確認する「見守り」の役割も持たせる。「社会福祉協議会」カードをかざせば社協から電話連絡が来る仕組みで、暮らしの困りごとなどを相談できる。

「家族」カードを使えば登録された親族に通知する。カードの利用が一定期間ない場合などは、必要に応じて社協の担当者らが訪問する。ごみの日の案内や災害の危険が迫っていることを音声で伝える機能もある。

社協は地域の高齢者の生活状況の把握に努めている。端末の導入を通じて地域のサービスの利用状況を知り、高齢者の効果的な支援に役立てる狙いもある。

日新システムズは電気機器や太陽光発電関連技術などを手掛ける日新電機の子会社で、2019年3月期の売上高が約36億円。制御や組み込みシステム分野に強く、今回の端末開発に生かした。

黒部市での実験を通じて、同社は端末を貸し出したり、販売するなどして収益にすることを検討する。同様の簡易サービスを開発する動きはほとんどないと見られ、他の地域にも展開して事業の柱の一つとしたい考えだ。

この仕組みは社協や生協などサービス提供側の協力が不可欠だ。黒部市の場合、端末から送られた高齢者のメッセージに素早く的確に対応できる見込みで「機器を使うことで支援する側も支えやすくなる」(黒部市社協の小柴徳明総務課課長補佐)。同じような環境整備に意欲的な地域の掘り起こしが、普及のカギを握りそうだ。