「すれ違いIoT通信」で地域見守り、NICTが無線ネットワーク構築技術を開発
2019年09月20日ITmediaエンタープライズ
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)のソーシャルICTシステム研究室は2019年9月19日、Wi-SUNとWi-Fiを活用する無線ネットワークの構築技術を開発したと発表した。同年10月から富山県黒部市在住の高齢者世帯を対象に、地域の見守りと電子回覧板の実証実験を実施する。
Wi-SUNは、Wi-SUNアライアンスが策定した、IoT(Internet of Things)向けの国際無線標準規格。通信速度は100kbps程度で、マルチホップ通信と呼ぶ中継ネットワークを構築して広いサービスエリアを構築できる。国内では免許不要で利用できるため、スマートメーター向けに普及している。
ソーシャルICTシステム研究室は、今回の無線ネットワーク構築技術に向けて、IoT無線ルーターを開発した。Wi-SUNを活用したすれ違い通信機能を備え、宅内や地域の業務用車両に設置した端末どうしが接近して電波が届く範囲内に入ると、自動で情報を共有する。
「すれ違い通信見守り」で広い地域を「ゆるくつなぐ」
このIoT無線ルーターは電池を内蔵せず、USBポートを介して、一般的なUSB電源アダプターなどから給電する。無線通信機能としては、Wi-SUNを基に開発した独自のすれ違い通信機能に加え、Wi-FiとBLE(Bluetooth Low Energy)4.0に対応する。OSにはLinuxを採用し、データの送受信通知やルーターに保存されている情報をWi-Fi経由で取得するためのWeb APIを備える。
10月に始める実証実験では、IoT無線ルーターとともに「つぶやきセンサ」を配布し、見守り対象世帯に設置する。つぶやきセンサは玄関ドアの開閉を監視し、開閉の頻度が極度に低下している状況を検知すると「外出頻度が低い」と判断して家屋外にビーコンを発信する。つぶやきセンサの発信したビーコンは、近接したIoT無線ルーターが自動で取得する。例えば、IoT無線ルーターを載せた業務用車両が付近を通りかかるだけで、外出頻度が低い世帯の情報を自動で取得できる。
同実証実験では、比較的広い範囲をカバーするWi-SUNの機能とより多くのデータを送受信できるWi-Fiの機能を組み合わせて利用する。具体的には、まず、周辺を走行する車両が、電子回覧板の配信を希望する世帯の拠点情報を取得する。次に、その情報に基づいて、配信希望世帯にWi-Fi通信が可能な範囲まで近づいて、社会福祉協議会からの電子回覧板を配信する。
既存のシステムとの違いとして、NICTは「今回構築する地域ネットワークは、NICTが提唱する地域のデータを地域で消費する『データの地産地消』の概念に基づいた地域ネットワークの構築を実現する設計になっている」という。実証実験は、地域に散在する異分野・異業者の資源を横断的に“ゆるくつなぐ”手段として実施していくとのこと。