孤独死は怖くない! 「孤立ゼロ」掲げた条例も登場…対策の最前線
2019年07月29日AERA dot.
悲惨なイメージがつきまとう孤独死。少子高齢化で急増していて、将来に不安を感じる人も多い。でも、死ぬときはみんな一人。他人や地域社会とつながる力を磨いて精神的に自立すれば、恐れることはない。自治体も見守り対策などを強化している。孤独死なんて怖くはないのだ。
誰にもみとられずに自宅で亡くなる孤独死が増えている。東京都監察医務院によると、東京23区内の65歳以上の一人暮らしで、自宅で亡くなった人の数は2016年に3179人。10年前から7割増えている。
少子高齢化で一人暮らしの高齢者は増え続けている。内閣府の「高齢社会白書」によると、17年現在、65歳以上の高齢者のいる世帯は2378万7千世帯で、このうち単独世帯は全体の26.4%を占める。
一人暮らしの高齢者数は1980年には男性約19万人、女性が約69万人、65歳以上の人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%だった。それが2015年には男性約192万人、女性約400万人になった。65歳以上の人口に占める割合は男性13.3%、女性21.1%まで上がった。
生涯結婚しない人も目立っている。国立社会保障・人口問題研究所によると、日本人男性の50歳時点の未婚率(生涯未婚率)は15年時点で約23%、女性も約14%に上った。男性はほぼ4人に1人、女性は7人に1人が生涯結婚しない時代になっている。
離婚率も00年以降は約35%と高止まりしている。従来のような親子や夫婦で一緒に暮らす家庭は、どんどん減っているのだ。
ニッセイ基礎研究所は30年には3世帯に1世帯が単身となり、200万人の高齢者が社会的に孤立した状態になる恐れがあると予測する。
「何もしなければ孤立のリスクは一層大きくなるでしょう。互いに依存する度合いが高い夫婦や、他人に干渉されることを好まない人、仕事優先の志向が強い人ほど孤立するリスクが高い傾向があります」
一人暮らしの高齢者は、社会とのつながりが薄くなりがちだ。退職によってそれまで付き合いのあった同僚や知人と疎遠になる。現役時代は仕事が忙しく、近所付き合いなど地域との関係が薄かった人も多い。こうした人たちにとって、孤独死は深刻な問題だ。
内閣府の調査では、一人暮らしをする60歳以上で孤独死を身近に感じると答えた割合は、「とても感じる」「まあ感じる」を合わせると45.4%に達した。一人暮らしの高齢者の半分近くが不安を感じている。
こうした状況を知ると、「やっぱり怖い」と思った読者もいるだろう。でも、心配しすぎることはない。国や自治体も対策に乗り出している。
神奈川県横須賀市は昨年5月、自分が入る墓の所在地などを市に登録できる事業を始めた。収入や資産が少ない市民を対象に、生前のうちに低額で葬儀の契約を結べる「エンディングプラン・サポート事業」もあり、行政が「終活」を積極的に支援している。
北見万幸・福祉専門官は狙いをこう語る。
「最近は身元が判明しているにもかかわらず、遺体の引き取り手のないケースが増えました。墓があるはずなのに場所がわからず、無縁仏として納骨されることもあります。墓の登録事業を通じて、こうした事態を少しでも減らしたい」
登録事業では、墓参りをしたい人が市に問い合わせれば、場所を教えてもらえる。開始後約1年で登録者は約150人に上る。
昨年秋に亡くなった一人暮らしの男性の事例では、埼玉県に住むめいから、「おじと連絡が取れない」と問い合わせが葬儀前にあった。
「緊急連絡先として登録されていた友人3人とも連絡が取れ、葬儀に参列してもらうことができました。登録している墓の所在地や、遺言の保管場所も伝えることができた。登録事業がなければ無縁仏になっていたかもしれません」(北見さん)
東京都足立区は「老い支度読本」や「エンディングノート」を住民向けに配っている。親族の連絡先や残す財産、希望する葬儀の形式などを書き込むことができる覚書ノート。急に亡くなっても本人の意向がわかり、死後の手続きもスムーズになる。
足立区では高齢者の遺体が長期間経ってから見つかる事件があり、孤独死や高齢者の所在不明問題への対策に力を入れている。区が持っている高齢者についての個人情報を町会や自治会に提供し、地域で見守り活動ができるようにする条例を12年に制定した。今では「孤立ゼロ」を掲げ、70歳以上の一人暮らし世帯などを対象とした実態調査や戸別訪問、ふれあいイベントなどをしている。
「区民一人ひとりが、老後の備えを考えておく必要があります。周りの人の見守りや気配りも重要。何か変わったことがあれば、『おせっかい』と思われてもいいので、医療や介護といった必要な支援につなげてあげてほしい」(足立区の島田裕司・絆づくり担当課長)
こうした見守り支援や安否確認の窓口整備は、全国に広がっている。これから導入する自治体もあり、一人暮らしでも行政や地域と結びついて孤立しにくくなっている。
企業も負けてはいない。離れて暮らす高齢の親らの見守りサービスが充実している。自宅に取り付けたカメラやセンサーなどを使って、高齢者の暮らしぶりを確認できる。警備会社や電力・ガス会社のほか、家電メーカーなども参入。調査会社の富士経済によると、見守りサービスの市場規模は18年は75億円で、25年には6割増の124億円に成長すると見込む。
損害保険会社は、賃貸物件のオーナーや入居者本人向けに、孤独死が起きた場合に部屋の原状回復や遺品の整理などをする商品を販売している。
行政や企業の取り組みは進んでいる。私たちにできるのは、孤独死に対する考え方を見直すことだ。