【余生をどこで】(4)「施設並み」見守りに制度の壁

2019年07月18日西日本新聞

 
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の中には、医療機関と連携し、たんの吸引などの医療的なケアやみとりまで行う重度者向けの事業所もある。こうしたサ高住なら、認知症患者にも十分対応できるのでは‐。「いえ、認知の具合は重くても、要介護度に反映されなくなっているので…。介護現場も、経営的にも、苦労しているのが実情です」。福岡市博多区でサ高住「スマイル板付」(40戸)を運営する株式会社社長の矢田部理さん(44)は苦笑いを浮かべる。

 ●手間が反映されず

 スマイル板付は開設して4年半。デイサービスと訪問介護の事業所を併設、入居者に介護保険のサービスを行う。当初から同ビル内にクリニックを併設する医療法人と提携し、寝たきりで要介護5の人でも24時間ケアできる態勢が整う。

 介護保険制度では、サービスを提供する事業所への介護報酬は、利用者の要介護度が重いほど高い。ただ徘徊(はいかい)を繰り返すなど認知症が進んでも、車椅子で動けたりすると要介護2など「比較的重くない」と判定されるケースが少なくない。

最近はスマイル板付でも要介護1、2の人が増え、直近の平均要介護度は2・8。中には車椅子で頻繁にビルの外に出て徘徊する人もいて、そのたびに職員が捜し回る。「寝たきりの方より、認知症の方の見守りのほうが正直、人も手もかかる」(矢田部さん)にもかかわらず、「手間のかかり具合」が要介護度の判定に加味されないため、事業所の人件費負担が重くなる構図だ。

 矢田部さんは「万が一事故に遭ったら危ない」と判断。車椅子で外に出られないよう、やむなく玄関のスロープにひもで「柵」を付けるなど安全対策をした。「住居なので出入りは自由にしたいですが…。安全を守るためには仕方ないです」とジレンマを口にする。

 ●乏しい有償の意識

 入所者の要介護度に応じて一律定額で介護報酬が入る特別養護老人ホームなどの「施設」と異なり、あくまでサ高住は「住宅」だ。

 家賃や併設事業所への介護報酬などを除けば、サ高住側の収入は、安否確認や生活相談などの基本サービス費のみ。それら以外の見守りなどに掛かる「手間賃」は本来は有償サービスとなる。月額に一定程度上乗せしたり、「20分500円」などの時間制にしたり、各サ高住が設定している。

 しかし現場では、特に開設当時は「職員が施設と同じ感覚で入居者を世話してしまい、料金を請求しなければいけない、という意識が、職員にも経営側にも乏しかった」と矢田部さん。無償でのサービスが半ば日常化していたことも、経営が安定しなかった一因との見方だ。「国がもともと想定していたように、サ高住は比較的元気な人向けの受け皿とし、より手厚い見守りが必要な人は介護施設やグループホームに移ってもらうなどのすみ分けを、もう一度明確化していくしかないのでは」

 ●住み替えは難しく

 ただ国土交通省によると、全国のサ高住入居者のうち、手助けが必要な認知症の高齢者が既に4割を占める。「見守りが常時必要な方を受け入れる特養などの施設は地域によってはまだまだ十分ではない。そもそも『住み慣れたサ高住で最後まで人生を送りたい』という本人や家族のニーズも多い」。そう指摘するのは、一般社団法人・高齢者住宅協会のサービス付き高齢者向け住宅運営事業者部会福岡支部(25社)支部長の穂満光男さん(61)。「現在のサ高住の入居者に対し、現実的に負担増や住み替えを進めていくのは容易ではありません」

 例えば月額約15万円のサ高住に、自身の年金の範囲内で入居していた人が、月額約20万円に値上げされたら‐。体は元気な認知症の高齢者でも、払えなければ退居を余儀なくされる。比較的所得が低い人は、そもそも入居できなくなる。

 「少ない人数でも入居者を見守れるよう、併設事業所の職員との兼務を認めるなど、現行では認められていないサ高住の制度改正も必要になってくるのでは」と穂満さん。「いずれにしろ、国と事業所の双方が知恵を絞っていかなければならない局面です」

 国が普及を始めてまもなく8年。サ高住は岐路に立っている。