孤独死した30代女性の部屋に見た痛ましい現実 男8割、女2割、現役世代も多い切実な問題だ 

2019年06月09日東洋経済

  
わが国では、年間約3万人が孤独死している。そこで浮かび上がるのは、人生でつまずき、崩れ落ちてしまった人々の姿だ。男性に比べて数は少ないが、女性の孤独死はとくに痛ましいケースが多い。

若年層女性の孤独死現場の特徴について、特殊清掃業である武蔵シンクタンクの塩田氏はこう語る。

「孤独死した女性の部屋には、使わないままホコリがかぶっている化粧品があることが多いんです。何らかのつまずきをきっかけに、家に引きこもってしまい、人に会う機会がなくなり、人を家に招き入れないから部屋が汚くなる。ゴミをため込むので、片付ける気力や動機付けが、なくなってしまうんです。それでセルフネグレクトに陥ってしまう」

セルフネグレクトとは、自己放任という意味で、ゴミ屋敷や、医療の拒否、過度な不摂生など、自らを追い込むことから“緩やかな自殺”とも呼ばれている。

このセルフネグレクトが孤独死の8割を占めている。

ある30代の女性は、2LDKの分譲マンションの一室で孤独死。遺体が見つかったのは、死後3カ月だった。

塩田氏が、居間に入ると、棚の上に数多くの陸上競技大会でもらった、トロフィーや表彰状が飾られていた。かつて、女性は陸上競技の選手だったらしい。

リビングの棚には、大会で華々しくゴールした瞬間のゼッケンをつけた写真が飾ってあり、そこには爽やかな表情で汗を流す女性の姿があった。

女性は20代で職場結婚して一人娘を出産。しかし、その後アルコール依存症が原因で、離婚。娘の親権は夫に渡ってしまったらしい。離婚後は、貯金を切り崩しながら、家に引きこもるようになる。床にはウイスキーの空き瓶が無造作に投げ捨てられており、亡くなる寸前まで女性がお酒を手放さなかったということがうかがえた。

塩田氏が遺品整理をしていると、禁酒に関する本やカウンセリングの資料などが部屋の片隅でホコリをかぶっていた。女性はなんとか、アルコール依存症から立ち直ろうと1人で葛藤していたのだ。

女性が亡くなっていた場所は、トイレだった。便器と床のタイルには、大量吐血した生々しい痕跡があり、バケツをひっくり返したような、塩田氏も驚くほどの量だった。

その血痕は、トイレから冷蔵庫までつながっていて、苦しくてのたうち回り、玄関まで助けを求めようとしたのだろうと、塩田氏はすぐに察知した。

「ご遺族である弟さんにお話をお聞きすると、故人様は、離婚後、子供と離れ離れに暮らしていた寂しさから、さらにアルコールに溺れるようになったみたいなんです。弟さんも、故人様と喧嘩してからずっと疎遠になっていたようで、誰も頼る人はいなかったみたいです。
僕も一度、離婚しているので、子供となかなか会えない辛さは、人ごとではないんですよ。故人様の過去の切なさと寂しさを思うと、胸が締めつけられました。故人様のケースだと、もし家族が同居していたり、頻繁に訪ねてくる人がいれば、病院に搬送されて、一命を取り止められたかもしれないと思いますね」

部屋の机には、多くの薬が置かれてあり、診断書には、「肝硬変」と書かれてあった。

棚の片隅には、母の日に娘からもらったと思われる似顔絵や、遊園地で娘と2人で写っている写真が、飾られてあった。離れ離れになってしまった子供へ抱き続けていた女性の愛情を感じて、塩田氏は思わず涙してしまったのだという。

孤独死する人には、離婚後の男性が多い。しかし、女性も、離婚や恋愛などでダメージを受けて、ゴミ屋敷化したり不摂生になったり、セルフネグレクトへ陥ってしまうケースが後を絶たない。離婚後、誰も支える人がいなくなり、孤立を深めた女性の大きな精神的ダメージは計り知れず、なんとも切なくて胸が苦しくなる。

4割を占める現役世代の孤独死

この女性のような現役世代の孤独死は決して珍しいことではない。

日本少額短期保険協会・孤独死対策委員会は、今年の5月17日に最新の孤独死レポートを発表した。

それによると、孤独死者の平均年齢は61歳で、さらに高齢者に満たない年齢での孤独死の割合は、5割を超え、20~50代は4割弱を占める。孤独死は現役世代の問題だという重い事実を示すものだ。男女比は、8対2。つまり、男性のほうが、圧倒的に多い。

孤独死者の第一発見者は、最も多いのが不動産管理会社、オーナーである。家賃の支払いが滞ったり、郵便物が溜まっていることに気づき、孤独死の発見につながる。また、近隣住民からの異臭や郵便物の滞留により、発覚するケースもあるらしい。

また、このレポートが極めて深刻な現実を突きつけているのは、近親者が本人を心配して孤独死を発見しているのではなく、職業上の関係者をはじめとする近親者以外の者が発見していることが多数を占めると指摘していることだろう。

つまり、故人が生前から親族や他者とのつながりが希薄で孤立し、たとえ亡くなったとしても、その臭いでしか遺体が発見されないというなんとも痛ましい現実が浮き彫りになる。

現役世代が離婚やパワハラなどでつまずくと、誰にも気づかれずに、そして誰からも手を差し伸べられることなく孤立し、健康状態の悪化などによって、ひっそりと命を閉じていく。

その実感は、昨年の夏から、実際に私が特殊清掃の業者とともに、孤独死現場に入り取材を重ねた内容と一致する。ふとした人生でのつまずきが、一気に本人を孤立へと追い込み、社会から隔絶したまま、孤立、孤独死してしまう。それは、私自身も含めて、誰の身にも起こりうることだ。

さらにこのレポートでは、孤独死が増える季節を割り出している。

1月、7月、8月が最も多く孤独死が発生するのだという。孤独死は、暑さと相関関係がある。
事実、梅雨明けから9月まで、特殊清掃業者はひっきりなしに稼働している。朝から夜まで夜通しで、働き続ける。

孤独死を3日以内に発見するのは4割

セルフネグレクトに陥った人の家はゴミやモノ屋敷などが多く、夏場はゴミも凄まじい熱を持つ。さらにエアコンをつけていなかったり、そもそもエアコンがなかったりなどで、熱を持ったゴミの中で、若くして息絶えてしまう。夏場は遺体の腐敗の進行が速いので、周囲が異様な臭いを察知し、警察や管理会社に通報し、遺体が見つかるのだ。

注目すべきなのは、孤独死の発見までの日数が17日とあまりに長いということだ。なんと、3日以内の発見はわずか4割にとどまっている。これは故人が生前、親族や友人などとつながりがなかったということを示している。さらに30日以上経過して発見される割合は、全体で14.3%にも上る。

実は、半年以上も遺体が発見されないという孤独死は、珍しいものではない。

私の取材では、30代の男性の遺体が3年間放置されていたというケースがあった。現役世代のため、地域の見守りもなく、本人が周囲から完全に孤立。さらに賃貸住宅でご近所付き合いもなく、部屋は離れ小島と化しており、家賃は口座から自動引き落としだったため、誰も異常に気づく者はおらず、長年発見されることがなかった。

遺体の腐敗は、蛆→蠅→蛹というループを何度も繰り返す。しかし、さすがにここまで経過してしまうと、遺体はミイラ化し、臭いそのものも減少し、発見することがさらに困難になる。

ある特殊清掃業者はこの現状について、「孤独死した人の部屋は、ゴミ屋敷だったり、まるで、そのお部屋だけが世間と隔絶されたりしたかのように、別世界になっている。周囲では、日常生活が営まれているのに、その人だけ存在しないかのような扱い。

でも、本人も生前は精神的にも肉体的にもおそらく、苦しんでいたという痕跡が見てとれるケースがほとんど。孤独死現場に携わるたびに、胸が張り裂けそうになる。孤独死対策においては、高齢者ではなく、現役世代こそが、最も目を向けるべき層だ」とため息を吐いた。

私の調査によると、わが国では1000万人が孤立状態にあり、団塊ジュニア、ゆとり世代が、実は最も孤立しているという世代でもある。

今後孤独死は、東京・練馬で起こった元農林水産事務次官の父親による長男刺殺事件で、注目を集めることになった「8050問題」(中高年の引きこもりを高齢の親が養っている状態)や、孤独死予備軍ともいえるロスジェネ世代の孤立の問題とも深くリンクしてくるだろう。

いまだ手つかずのままになっている現役世代の孤独死――。国などの行政機関がその実態把握に乗り出すのはもちろんのこと、社会の構成員である私たち、1人ひとりが、もっと目を向けていくことを切に願う。