どう確保する!?東京の民生委員
2019年05月09日NHK
令和元年の今年、私たちの生活に関わる人たちが全国一斉に改選されます。
1人暮らしのお年寄りや生活保護を受けている世帯の支援などにあたる民生委員です。
3年の任期が終わるのは11月末。
そこに向けて、全国の自治体は次の候補者選びを進めています。
東京で活動する民生委員は全国最多のおよそ1万人。
次の担い手をどう確保するか、今、大切な時期を迎えています。
【知ってますか?民生委員】
都内の区市町村がそれぞれ発行する広報紙。
今月号を開いてみると、多くの自治体が民生委員の特集を掲載しています。
民生委員とは、民生委員法に基づく非常勤の地方公務員。
児童委員も兼ね、高齢者や生活保護を受けている世帯の見守りや子育ての世帯の支援などに、無報酬であたっています。
民生委員の11月末の任期終了に向けて、区市町村は7月下旬までに候補者を東京都に推薦する予定です。
その後、厚生労働大臣の委嘱を受けることになっています。
このうち、中野区は今月号の広報紙で3ページにわたって特集を組み、どのような活動をしているのかを詳しく紹介しました。
というのも、中野区の民生委員の定員は309人ですが、任期途中で辞める人や亡くなった人もいて、現在は20人が欠員しているそうです。
区の担当者は、「まずは、多くの区民に活動を知ってもらうことが大切。興味を持ってもらい、民生委員の担い手が増えることにつなげたい」と話していました。
【欠員800人超!上限年齢の引き上げも】
民生委員の欠員は、中野区に限ったことではありません。
3年前の改選時、都内の民生委員の定員は1万776人でした。
これに対し、実際に委嘱されたのは9940人で、改選の段階ですでに836人足りませんでした。
また高齢化も進み、平均年齢は63.9歳。
70歳以上の委員も15%あまりに上りました。
高齢化の中で、若い世代の担い手が見つからない。
都は今回の改選から、委員の年齢の上限を、これまでの「73歳未満」から「75歳未満」に引き上げることにしました。
元気な高齢者の方が増えているということもありますが、現在の民生委員の人に引き続き、活動を担ってもらおうという苦肉の策とも言えます。
【担い手確保の鍵は“1期目”】
民生委員をどのように確保するのか。
都は昨年度、検討委員会を設置し、必要な対策を議論しました。
民生委員を対象に行った調査で、担い手がいない理由として最も多かったのが、「民生委員に限らず地域団体の役員のなり手がいない」。
次いで、「職務が大変、忙しいというイメージがある」、「職務が十分に理解されていない」などがあげられていました。
検討委員会では、委員の負担軽減が必要だという意見に加えて、1期目で辞めてしまう委員をどのように支えていくのかという課題が出されていました。
都の担当者は、「改選ごとに辞める委員は2割ほどいる。しかし、任期を重ねるほど、委員になってよかったという人は増えている。こんなに大変なら委員をやらなければよかったと思わないように、委員どうしが支え合える環境を作ることが大切だ」と話していました。
都は今年度、個別に活動する委員がチームを作ることで経験やノウハウを共有する取り組みや、活動のマニュアル作成などを行う場合に、費用を補助する制度を設け、委員のサポートを強化しようとしています。
【コーチ制度で支える】
1期目の民生委員を支えるためには何が必要なのか。
現役の民生委員に聞いてみました。
文京区で25年間にわたって、民生委員と児童委員を務める下田和惠さん(71)。
下田さんは、まず孤立感をなくすことが大事だと考えています。
下田さんが委員を務める文京区の大塚地区では、35人の委員のうち、9人が1期目の委員です。
この1期目の委員には、3期目のベテラン委員を“コーチ”として配置しています。
地域の人たちが抱える生活の悩みは多種多様。
1期目の委員からは家庭訪問の方法や会話のコツなど、細かな相談が次々と寄せられると言います。
コーチ制度は、対応する民生委員自身が困ったときに、気軽に相談でき、1人で悩まないようにするための配慮です。
さらに、同じ時期に民生委員になった人どうしの“同期会”も作ってもらうようにして、互いに活動を支え合い、民生委員の孤立を防ごうとしています。
【重要性増す民生・児童委員】。
下田さんは、民生委員に加えて、児童委員の役割がますます重要になっていると感じています。
地域の児童館と連携して、虐待を受けているとみられる子どもを守ることや、不登校の子どもを抱える保護者と学校の間を取り持つことにも取り組んできたといいます。
そのために、地域の保育所や児童館などをまわって、すぐに意見交換できるような関係を築くようにしています。
下田さんは「地域の人に『いてくれてよかった』と言ってもらえることがいちばんうれしい。民生委員・児童委員は、地域の皆さんと行政のつなぎ役だと思ってもらいたい」と話していて、12月以降も6期目の民生委員として活動する予定です。
【まずは活動を知ろう!】
東京でも、人口が2025年にピークとなり、高齢者だけの世帯は2050年には265万世帯にまで増えると予想されています。
そして、認知症の高齢者やひきこもりの人たちの支援、児童虐待の防止など、民生委員のニーズはますます増えていくと思います。
しかし、地域のつながりは希薄化し、オートロックのマンションも増えています。
民生委員という存在が理解されていないために訪問を拒否されるなど、活動しにくい環境になっているといいます。
そんな中でも、取材をした民生委員のみなさんが、「地域のさまざまな年代の人と出会えることがやりがいだ」と話していたことが印象的でした。
今月は、都内の各地で民生委員の活動を紹介するイベントも開かれます。
3年に一度の民生委員の改選をきっかけに、私たちを支えてくれている民生委員の活動に目を向けてみませんか?