愛知)ある「孤独死」が変えた地域 町内会長の決断

2019年04月11日朝日新聞

 
 2006年秋、愛知県安城市城南町で独り暮らしをしていた男性が「孤独死」した。遺体が発見されたのは死の約1週間後。町内会長はショックを受けた。男性とは顔見知りだった。「同じ町内で孤独死が起きるなんて」。決心した。二度と孤独死を出さない町を作ろうと。

 「でも、何から手を付ければよいのか、さっぱりわからなかった」。当時の町内会長、藤野千秋さん(77)は振り返る。石油会社のサラリーマンを定年退職後、退屈しのぎに町内会の活動に携わり、04年に会長になっていた。でも自分の住む町なのに、どこにどんな人が住んでいるのか知らないことに、気づいた。

 「孤独死」から1年後に手探りで始めたのが、「支え合いマップ」作りだ。

 まず、ご近所同士の情報をもとに、災害時などに支援が必要な人の家をリストアップした。高齢者夫婦や独居、障害者のいる世帯を、色分けしてマップに落とし込み、それぞれ隣人らに支援をお願いした。約500軒の町内を20~30軒ごとに分け、各区域の住民に「世話焼きさん」を決めた。

 マップの情報は町内会の内部にとどめていたが、町全体で支援が必要な場合は情報を広く共有しなければいけない。プライバシーの問題にぶち当たった。

 町内を一人歩きする認知症の高齢女性がいた。家族も、気づかないうちに外出するので困っていた。地域で見守る必要があると考えた藤野さんは、家族に「プライバシーも大切だが、命が一番大事」と情報公開の必要性を訴えた。

 「最初は戸惑った」と、要請を受けた北川弘巳さん(78)は思い返す。「当時は、母親が認知症だと周囲に知られるのが恥ずかしかった」と打ち明ける。家族会議を開いた。結論は「家族だけで支えるのは限界。オープンにして皆さんに手助けしてもらおう」。

 家族で母親の名前や顔写真、認知症の状態、連絡先を載せたチラシを作り、町内会で配ってもらった。その後、北川さん自身も町内会で「マップ」作りに参加することになる。いまや藤野さんの良き相棒だ。

 その後も、課題が見つかるたびに、地域住民による解決の糸口を探ってきた。他人の家の中をのぞく発達障害の中学生がいると母親と相談して情報を公開、町全体で見守るようにした。視覚障害者の夫婦には日常的な散歩や買い物に付き添う態勢を作った。

 藤野さんは、マップ作りの効用を①町内の課題を発見・確認する②当事者の了解のもと、情報を公開することで地域で問題を共有して解決する主体性が生まれる③地域だけでは解決が難しい場合、福祉のプロである市社会福祉協議会に相談する連携が生まれることだという。
 町内会長は16年に交代したが、いまも毎日、町内会の事務所に顔を出す。自主防災会の会長として災害時に要支援者を支える態勢作りなどに取り組む。「課題があるとわかったら、すぐ行動したくなる」

 あれ以来、町内で孤独死は起きていない。