30~40代の「孤独死」壮絶な後始末に見えた現実 今の日本では誰に起こってもおかしくない

2019年04月01日東洋経済

 
特殊清掃、略して“特掃"――。遺体発見が遅れたせいで腐敗が進んでダメージを受けた部屋や、殺人事件や死亡事故、あるいは自殺などが発生した凄惨な現場の原状回復を手がける業務全般のことをいう。そして、この特殊清掃のほとんどを占めるのは孤独死だ。拙著『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』の中から、近年増え続ける孤独死の特殊清掃現場を追った。

かつてはアウトドア派だった40代男性の孤独死

現役世代の孤独死も実は深刻な問題になっている。現役世代は、その存在すら周囲から認知されておらず、孤独死しても長期間放置されることが多いからだ。

孤独死の8割を占めるのが、ごみ屋敷や医療の拒否などの緩やかな自殺と呼ばれるセルフネグレクトだ。

10年以上にわたって原状回復工事(特殊清掃)に携わる武蔵シンクタンクの塩田卓也氏は、孤独死とセルフネグレクトについてこう語る。

「現役世代の孤独死現場の共通点は、薬、インスタントラーメン、お酒、タバコが見つかることなんです。ほとんどがセルフネグレクトですね。パワハラや離婚、病気などをきっかけにして、孤立して家に引きこもるようになり、セルフネグレクトに陥ってしまう。個人的な考えですが、孤独死が全部本人の責任なのかというと、そうではないと思うんですよ」

認知症などが要因となってセルフネグレクトになる高齢者と違って、現役世代は、人生の重要な局面でつまずいた結果、孤独死を迎えてしまうケースが多いのである。

その一例をご紹介したい。

現場は、さいたま市にある3階建てのペット可のマンションで、亡くなったのは糖尿病とうつ病を患う40代の男性だった。男性は数年前から生活保護を受けていたらしい。

塩田氏がマンションの前に着くと、小型犬を抱えた中年女性が、不安そうな目で待ち構えていた。

「すいません、下の階に住んでる者なんですけど、あの部屋の中に猫がいるはずなので、生きているか、見てもらえますか」(女性)

「わかりました」(塩田氏)

部屋の中は、電気が切れていて、窓という窓がプラスチックの段ボールで、遮蔽されていて真っ暗だった。男性は、光を一切閉ざして、外部からの者をはねつけるような生活をしていた。

そのため、塩田氏は、頭に付けていたLEDのヘッドライトの光を頼りに部屋に入らざるをえなかった。

部屋の中は、ツーンとした死臭が充満し、大量のハエが、飛び回っている。殺虫剤を吹きつけて、歩みを進めると、奥にはベッドがあり、黒い体液の人型がくっきりと浮き出ていた。男性はベッドでうつ伏せになって突然死したのだった。

玄関の下駄箱の上には、水槽があり、その中から甲羅らしきものが見えた。それは小さなミドリガメだった。よどんで酸っぱいような腐臭を放つ水槽に目を凝らすと、亀は水の中で必死に手足をバタつかせていた。

「こんな環境でも生きていたんだ」と塩田氏は思った。

居間には、小さなケージがあった。見るとその中で、白いウサギが息絶えてぺちゃんこになっていた。ケージの横には、ラビットフードの袋が横倒しになっていて、中を見ると空っぽだった。

後でわかったことだが、男性が亡くなって、死後3カ月が経過。部屋の片隅には、男性が過去に趣味にしていたカラフルな高級ロードバイクが何台もほこりを被っていた。

棚の上にあったアルバムを見ると、20代の頃、男性はクラブチームに所属し、メンバーと一緒に満面の笑顔を浮かべていた。筋肉が隆々として、ガッチリとしたいわゆる体育会系で、生き生きとした表情で仲間と肩を並べていた。

その横には、当時付き合っていた女性だろうか、ボブヘアの可愛らしい女性とディズニーランドでピースしているツーショットの写真が並んでいる。

40代になって完全に引きこもるように

男性に変化が起こったのは30代の中頃だった。この頃から、サラ金の請求書と精神科の請求書が目立つようになる。男性はうつ病を患い、会社を欠勤しがちになり、サラ金で借金を始めたらしかった。

そして、ついに退職。貯金が底をつき、生活保護を受けることになったらしい。

かつてアウトドアが趣味だった男性は40代になると、仕事を辞めて完全に部屋に引きこもるようになった。そして、昼夜逆転の生活を送り始め、太陽の光を完全に遮断するようになったと塩田氏は推測する。最後は、亀とウサギと猫を伴侶として、生活していた。

床には亡くなる寸前まで遊んでいたとみられるポータブルゲームと大量のゲームソフトが乱雑に転がり、枕元から、寸前まで服用していたと思われる抗うつ剤や睡眠薬が見つかった。

猫と亀がかろうじて命をつないでいた

塩田氏が猫を探していると、ユニットバスのほうで「カタン」という音がしたため、見ると突然、黒に白ブチの猫が飛び出し、足にすり寄ってきた。猫はやせこけていたが、緑色の目には力が宿っていた。

「ニャーニャー」猫は、か細い声で鳴き、塩田氏にまとわりつく。

すぐに抱きかかえて、キッチンにあったキャットフードと水を与えた。猫は、がむしゃらにフードに食らいついた。臭いに慣れてきて、周囲を見渡すと、状況がわかってきた。

どうやら猫は男性が亡くなった後、ミドリガメの水槽の腐った水を飲み、封が空いていたラビットフードを食べて、3カ月もその小さな命をつないでいたらしい。

塩田氏は、あばらの浮き出た猫の背中をそっとなでた。

「お前、よく生きていたな」

その温もりに、えも言われぬ感情が押し寄せ、胸が詰まった。

自分も、この猫のように、強く生きていきたい――。そう思った。

孤独死の現場では、後に遺されたペットが犠牲になっていることが少なくない。その多くは飢え、渇き、壮絶な苦しみの中で死んでいく。

どんな過酷な環境でも、最後まで生きようとする命の営みを目の当たりにして、塩田氏は心打たれずにはいられなかったという。

マンションで待ち構えていた中年の女性の部屋を訪ねて、猫と亀が生存していたことを伝えると、引き取りたいと言ってくれたので、渡すことにした。猫は女性の手に抱かれて、安心したかのように目を細めた。

今から猫と亀を動物病院に連れていき、健康診断をしてもらうという。塩田氏は費用の負担を申し出たが、「私が好きでやっていることだから」と頑として受け取ろうとはしなかった。

塩田氏は今も猫砂を女性に定期的に送り、支援を続けている。

この男性のように、現役世代で孤独死する人には、思いもよらぬ場面で、人生の歯車が狂い、挫折し、そのまま立ち上がれなくなった人が多い。中には、30代や40代という働き盛りで孤独死する人も少なくない。塩田氏は、現役世代の孤独死についてこう語る。

「僕が手がける案件では、高齢者よりも現役世代の孤独死が圧倒的に多いんです。そして、4人に3人は男性ですね。女性は人付き合いがうまいけど、男性は、一度つまずくと閉ざしてしまう。僕自身、孤独死で亡くなった人の気持ちは理解できるんです。

僕は、父親の虐待を受けて、施設で育った。自分の母親に本気で甘えたことがないし、つねに親族には遠慮していたから、人生でつまずいて自暴自棄になる人の気持ちはすごくよくわかる。パワハラに遭ったり、暴力的な身内がいたら委縮したり、引きこもったりしちゃうだろうなと思うんですよ」

遺族が拒否したため、この費用の全額は大家の負担となった。塩田氏によると、この清掃費用をめぐって、大家と遺族が熾烈な争いを繰り広げることも珍しくないのだという。

人との交流がない人が増加

「平成27年版高齢社会白書(全体版)」によると、60歳以上の高齢者全体で、毎日会話をしている人が9割を超えているのに対して、1人暮らしの男性は約3割、女性は約2割が、2~3日に一度以下となっている。

しかし、近所付き合いに関して見てみると、一人暮らしで、「つきあいがほとんどない」と回答した女性はわずか6.6%であるのに対して、男性は17.4%と極端に高い。60歳以上の一人暮らしの男性は、近所付き合いや人との交流がなく、頼れる人がいない人が多いというのが現実なのである。

このデータは高齢者に限ったものだが、孤独死は現在の高齢者だけでなく、これから高齢者となる私たちにも身近な問題である。生涯未婚の場合だけではなく、結婚したとしても残された側はいつか必ず1人になる。

単身世帯が右肩上がりで増え続ける現在、孤独死は誰の身に起こっても不思議ではない。現に塩田氏のもとには、毎日何件も、ひっきりなしに不動産業者や遺族から電話で依頼が入る。これから春になり、気温が上がると、その件数は冬場の何倍、何十倍にも膨れ上がる。

「孤独死する人は、やはり人と疎遠になっている人が多いですね。僕は1人で亡くなるのは悪いことではないと思うんです。でも、早く見つかったほうが部屋のダメージも、ご遺族や大家さんの費用の負担も少なくて済む。本来であれば、自分たちのような仕事はなくなったほうが社会のためにもいいと思うんですよ」

塩田氏は、鳴りやまない電話対応の合間に、そうポツリとつぶやいた。増え続ける孤独死にさまざまな思いを抱きながら、事件現場特殊清掃士たちは、今この瞬間も、過酷な孤独死現場に向き合い続けている。