高齢者見守り体制急務 / 岩手県
2019年03月01日読売新聞
県が2011年度に策定した復興基本計画は今年度末で終了する。新年度からは県の全施策を示した次期総合計画(19~28年度)の主要項目として引き継がれ、新たな段階に入る。一区切りとなる今、復興基本計画の進捗しんちょくと課題を検証し、解決への糸口を探る。
■名簿作成に壁
釜石市平田にある災害公営住宅「県営平田アパート」(126戸)。釜石湾を望む小高い丘に立つ7階建てには、市内外から104世帯が入居している。自治会長(74)は、名前が書かれていない表札の部屋の前で立ち止まり、ため息をついた。「ここには誰か住んでいるはずだけど……」。入居者が高齢者かどうかも不明だ。
県によると、平田アパートの高齢化率は37%。自治会長らは火事などに備え、助けが必要な入居者を知りたいと、これまで住民名簿の提供を県に求めてきた。
粘り強い交渉の末、今年に入り空き室の場所だけは教えてもらえた。だが入居者情報については「ノー」。県建築住宅課は「提供には自治会が把握したい個人情報の確認や保管方法などの協議が欠かせない」と時期尚早というのが理由だ。現在、県営の災害公営住宅25団地のうち、名簿を保有する自治会は5団地。いずれも県の提供を受けられず、自主的に作成した。
平田アパートも自治会で名簿を作ることを模索しているが、過去に住民同士のトラブルが起きており難しい。当面は集会所で週1回開いている体操教室やお茶会など住民が顔を合わせる場を通じて関係作りを進めるつもりだ。
「それでも」と自治会長は言い、訴える。「孤独死などの問題が起きるまで役所は動かないのか」
■自治会も高齢化
県によると、災害公営住宅の整備率は昨年末現在、95・4%で、県の復興基本計画の進捗度を測る指標ではA評価だ。入居者約8700人のうち、65歳以上は約3900人で高齢化率は44%。独り暮らしの高齢者も約1500人で見守りが喫緊の課題となっている。
見守りの主な担い手となるのは自治会だ。だが個人情報の保護や役員の高齢化といった壁が立ちはだかる。
■ICTで安否確認
そうした中、ICT(情報通信技術)を活用した見守りに乗り出した災害公営住宅がある。
山田町営の山田中央団地(146戸)は昨年10月、高齢者自らが安否を外部に知らせるシステムを導入。公益財団法人さんりく基金の研究事業として、県立大の小川晃子教授(社会福祉学)が取り組んでいる。
高齢者は平日に1回、固定電話やスマートフォンで1(元気)や2(少し元気)などのボタンを押すだけで、体調が県社会福祉協議会の運用サーバーに登録される。3(具合が悪い)を選べば町社協の生活支援相談員が電話をかけ、4(話したい)ならば相談員が自宅へ向かう。現在は団地の60~80歳代の20人が利用している。
ICT導入の背景には、見守りを担う自治会役員の高齢化がある。町によると、団地の高齢化率は66%で、役員の平均年齢は70歳を超える。町社協は「団地の高齢化率は限界集落並みで、互助は既に成り立たない。社協も人手不足で、効率的な見守り体制作りは今後さらに重要になる」と指摘する。