第6部「孤独大国」(4) センサーで遠隔「見守り」 話し相手はロボット
2019年02月20日47NEWS
「動きを感知しました」。2018年10月のある朝、堺市の団地に1人で暮らす井上恵美子(75)が冷蔵庫からペットボトルを取り出した瞬間、大阪府内の別地域に住む長男(47)の携帯電話にメッセージが届いた。冷蔵庫の扉のセンサーが反応したのだ。
団地を運営する大阪府住宅供給公社は65歳以上の入居者を対象に、民間企業と組んで高齢者見守りの実証実験に取り組んでいる。トイレなど毎日使う場所に振動センサーを取り付け、開閉の際や、逆に一定時間を過ぎても反応がないと親族に通知する仕組みだ。
心臓に持病がある井上はここ数年、入院や手術を繰り返している。「何かあったときのことを考えると心強い」
公社による実証実験の背景には団地住民の高齢化がある。1973年に完成した郊外型の団地で、住民の半数近くが65歳以上。公社が管理する府内の団地全体では2017年度に高齢者の孤独死が14件あった。
公社の担当者は「見守る家族も、見守られる高齢者も、センサーだと負担感が少ない」と話す。実験で効果が認められれば有料のサービスとして普及を図る。年金暮らしでも利用しやすいよう、料金は月額180円程度に抑えられる見通しだ。
単身高齢者の「安心」を支えるのにICT(情報通信)機器の活用は今や基本。みずほ情報総研チーフコンサルタントの羽田圭子は「うまく使えばICTは孤独の解消につながるが、あくまで手段。個人差もあり、ニーズに合ったサービスや機器を選んで使いこなす必要がある」と話す。
「ボッコちゃん、おはようございます」。東京都練馬区の住宅街の一軒家で女性(87)が語り掛けた。手に取ったのは、ユカイ工学(東京)が開発したコミュニケーションロボット「BOCCO(ボッコ)」だ。
日々の体調、血圧、歩行距離、その日の出来事など1日に話し掛ける回数は10~20回。日中は居間の卓上に置き、就寝時には枕元に持って行く。
女性が話し掛けた内容は文字化され、ケアマネジャーと警備会社セコムの担当者に届く。ボッコからは「薬を飲みましたか」「気を付けて散歩に行ってらっしゃい」と定期的にメッセージも。「服薬の自己管理ができるようになった人もいる」とセコムの担当者。
最大の効用は「話し相手」が得られる点だろうか。女性は言う。「ロボットだからいくら話しても気遣いは要らない。それに、ボッコちゃんに聞いてもらうとストレスがなくなるの」