一人暮らし高齢者に自治体が配食サービス 弁当手渡し安否も確認

2019年01月09日中日新聞

 
 一人暮らしの高齢者宅に自治体が食事を届けるサービスが広がっている。体調や自宅の立地などの関係で買い物が大変な高齢者の利便性が向上するだけでなく、配達担当者が高齢者宅を頻繁に訪れるため、こまめな安否確認にもなっている。食事と一緒に安心感を受け取れるサービスとして、高齢者の評判も上々だ。

 「あ、お弁当だ」。インターホンが鳴ると、愛知県一宮市で一人暮らしをする六畑美佐子さん(79)の声が弾んだ。

 六畑さんは、昨年十一月に自宅で段差につまずいて転んで頭を打ち、硬膜下血腫で約二週間入院。翌月上旬に退院してから、市の配食サービスを利用し、毎日、昼食を届けてもらっている。

 配達を担当するのは、高齢者福祉施設「ウエルコートみづほ」の職員ら。弁当の調理や配達の事業を、市から委託されている高齢者施設や弁当店などの十三事業者の一つだ。この日は同施設の嘱託職員、石部孝彦さん(77)が届けた。ふたを開けると、中身はあんかけのかに玉や、サトイモの煮物など。「栄養バランスも彩りもよくて、毎日楽しみ」と六畑さんはほほ笑む。本人負担は一食二百五十円で、残り三百八十円は市の負担だ。

 六畑さんは要支援1で、入院前は歩いて約七百メートル離れたスーパーへ買い物に行っていた。退院後もヘルパーに買い物や入浴などを手伝ってもらいながら一人暮らしを続けているが、「また倒れるかもしれないと不安は大きい。毎日弁当を届けに来てくれる人がいると、本当に心強い」と話す。大みそかや元日もサービスはあり、六畑さんも利用した。

 石部さんは、約十年前から弁当を配達している。これまでに二回、配達時にお年寄りが倒れているのを見つけて、救急車を呼んだ。「自分も高齢なので、一人暮らしの心細さはよく分かる。安否確認も兼ねて、配達時には立ち話をして様子が変わっていないか注意している」と話す。

 市がサービスを開始したのは二〇〇〇年。高齢者の食事の不便を解消するとともに、安否確認を充実させるのが目的だった。そのため、弁当は原則、手渡しで、利用者に会えなかったら市に連絡する。連絡を受けたら市職員は土日祝日も含めて、家族に連絡したり自宅を訪れたりして安否を確認する。一七年は、食事や水分を取れずに寝込んでいた八十代女性ら二人が、配達した事業者からの連絡によって救急搬送されて助かった。

 一五年十月の国勢調査によると、市内約十六万世帯のうち六十五歳以上の一人暮らしの世帯は一万三千四百四世帯。〇五年の七千二百七十九世帯から倍増している。それに伴いサービスを受ける人も年々増えており、本年度は約二千人が利用している。

◆補助金出し委託、財源が課題

 自治体による同様のサービスは、各地に広がっている。

 愛知県西尾市は、昼食のみで二〇〇〇年に開始したが、利用者らの要望を受けて本年度から夕食も届けている。利用できる日数も週に最大五日だったが、本年度から週七日にし、毎日利用できるようにした。要支援1以上の人が対象で、一日一食まで二百五十円を市が補助し、委託した業者が配達している。

 東京都練馬区も、最大週三日まで昼食と夕食を提供している。区から業者への補助があり、配達の費用に充てられているが、一食四百四十~六百七十円の弁当代は利用者が負担している。

 奈良女子大生活環境学部の中山徹教授は「高齢者の単身世帯が増えており、今後、こうしたサービスの需要はますます高まる。しかし、利用者が増えると事業の財源をどうするかという問題が生じてくる。配達にかかる費用を介護保険でまかなえるなどの仕組みも、考えていく必要がある」と指摘する。