AIスピーカーを高齢者の話し相手に! お役所仕事を変える「パブリテック」の取り組みとは

2019年01月08日FNNPRIME

 
フィンテック、ヘルステック、エドテック。
テクノロジーを活用した新たなサービスが続々と生まれる中、地方自治体にもこの動きが広がっている。

地方自治体と言えば、「お役所仕事」で融通が利かず手続きは煩雑と言われるが、テクノロジーの力を借りて行政サービスの質を高めようというのが「パブリテック」の試みだ。パブリテックを全国でも先駆けて取り組んでいる、神奈川県鎌倉市を取材した。

「オッケー、グーグル。今日の天気はどうかな?」

鎌倉市内に住む丸尾恒雄さん(80)は、奥様と二人暮らし。丸尾さんは、昨年10月より市が民間企業と連携し行っている「AIスピーカー」の実証実験に参加している。企業側が高齢者60世帯に、「ちょっとしたお話相手」としてAIスピーカーを無償提供した。

AIスピーカーに声がけすると、鎌倉の天気予報や地元イベントを教えてくれたり、ラジオ体操や落語も聞かせてくれる。また、AIスピーカーには防災機能が加わっていて、台風などの際に市の防災情報を知ることもできる。

認知症予防にも

丸尾さんが日常的に使っているのは、タイマーによるアラーム設定だ。

「朝昼晩の薬を飲む時間にセットすると、飲み忘れることが無いからね」

丸尾さんが住む住宅地は約50年前に造成されたもので、住民の高齢化率は45%を超えている。中には一人暮らしで普段会話がない生活を送っている高齢者も多く、AIスピーカーと話すことは認知症の予防にもつながるという。

今後も市はAIスピーカーの実証実験を拡大しつつ、見守り機能などを検討していく予定だ。

「見守り合いプロジェクト」もスタート

一方、テクノロジーは子ども子育て世代に対する行政サービスにも活用される。

市では、現在約100人の不登校の児童を抱えており、公立の小中学校の生徒を対象に、テクノロジーを活用した在宅学習の環境を整備している。また、子どもや高齢者の「見守り合いプロジェクト」も年度内にスタートする予定だ。子どもや高齢者が行方不明になったとき、その人の顔写真を半径2キロ以内(範囲は変更可能)のアプリ利用者に送って捜索に役立てようというものだ

こうしたパブリテックの推進者である、鎌倉市長の松尾崇氏はこういう。

「鎌倉は『共創』の街づくりを柱に、住民の生活をより豊かにすることを目標として掲げているんですが、やはり行政で出来ることは限界があります。いまテクノロジーの進歩と変化がある中で、民間の取り組みをいち早く取り入れていくことが重要であると感じています」

鎌倉は高齢化率が全国平均より高い。そのため高齢者向けサービスの向上が課題だが、一方で高齢者はテクノロジーを嫌う人も多い。これについて松尾市長は、「人にやさしいテクノロジーであることが大切」だという。

「高齢者にはスマホは絶対持ちたくないとおっしゃる方が意外と多いのですが、テクノロジーは高齢者向けサービスに親和性があるので、より積極的に活用いただけることが必要だと思っています。たとえばAIスピーカーを使うことは、今までやってきた生活の延長線上で実感できる良さがあります。高齢者が自然と入っていけることがポイントです」

煩雑な行政手続きも電子化へ

高齢者に限らず住民にとって行政手続きは煩雑でわかりにくい。問い合わせれば「たらい回し」、書類不備で「二度手間」はしょっちゅうだ。 国では行政手続きの電子化を進めているが、鎌倉市ではそれに先駆けて民間企業と連携し、年度内に行政手続きの煩雑な部分を順次電子化する予定だ。たとえば、自分の状況に応じた手続き内容を市役所に問い合わせなくてもスマホで事前に確認できるようになり(既に実施済み)、申請書類を自宅で入力して市役所のプリンターで出力できるサービスも始まる。

「3年以内を目標にパブリテックに関する様々な取り組みをやっていきます。テクノロジーという言葉が前面に出ず、住民がふと気が付いたら生活が豊かになっていたという形で実現出来たらと思います」(松尾市長)

パブリテックの動きは、茨城県つくば市などにも広がっている。自治体同士が横で連携しながら、この動きを今後も広げていくことが重要だ。