広がる身寄りのない高齢者支援 日本ライフ協会問題
2016年2月12日朝日新聞
身寄りのない高齢者の暮らしを支えるとうたって集めたお金を流用した公益財団法人「日本ライフ協会」の運営が行き詰まった。高齢化に伴い入院時の身元保証などを引き受ける事業のニーズは高まっているが、契約する際には注意が必要だ。
■入院から葬儀まで
民事再生法の適用を申請した日本ライフ協会が9日、大阪市内で開いた債権者向けの説明会には、預託金を預けている高齢者ら約230人が詰めかけた。
破産する可能性を問われた保全管理人の弁護士は「ベストは尽くすが、絶対にないとは言えない」と説明。出席者は「だまされた」「公益認定した政府の監督責任は問えないのか」といった怒りの声をあげた。預けたお金がすでに減っていることに加え、同協会が存続できなければ新たな身元保証人の確保が必要になる。「すぐ解約したい」という一方、事業継続を求める声も相次いだ。
同協会の基本プラン(約165万円)では、日常生活の見守り、入院や施設に入所する際の生涯にわたる身元保証、葬儀・喪主代行などのメニューが並ぶ。とりわけ身元保証のニーズは高く、インターネットで「高齢者の身元保証」と検索すると、こうしたサービスを請け負う団体やNPOを数多く探し出せる。
こうしたサービスは、なぜ必要になるのか。司法書士でつくる公益社団法人「成年後見センター・リーガルサポート」が2013年に全国603カ所の病院や介護施設を対象に調査した結果、入院や入所時に身元保証人などを求める病院や介護施設は9割を超えた。このうち3割は身元保証人がいないと入院や入所を「認めない」と答えた。
同法人の川口純一副理事長は「かつては家族や親族が身元保証人になってくれたが、どんどん関係が疎遠になっていき、誰にも頼めない高齢者が増えている。入院できないのでは、と心配する人が民間団体などを頼っている」と分析する。
厚生労働省令などでは、身元保証人がいないことを理由に介護施設への入所を拒否してはならないと規定する。だが、ルールは徹底されておらず、「どうしても身寄りのない人には複数の団体を紹介している」(大阪府吹田市)などと自治体側も身元保証の団体に頼っているのが現状だ。
ログイン前の続きただ、身元保証の団体をめぐるトラブルも起きている。国民生活センターによると、「支払った預託金150万円を解約しようと申し出たが、3カ月以上経っても返金がない」「パンフレットには葬儀代が20万円とあったが、請求書を見ると30万円になっていた」といった預託金に関する相談が全国の消費生活センターに寄せられている。
■契約時に徹底確認を
どうしても身元保証の団体に頼らざるを得ない事態になった時は、どんな点に気をつければいいのだろうか。NPO法人「シニアライフ情報センター」(東京)の池田敏史子代表理事は、利用できるサービスや費用の確認を契約時に徹底することを勧める。
日本ライフ協会は預託金の管理方法が問題になった。同協会が公益財団法人に認定されたのは、弁護士など独立した第三者に管理を任せる契約だったから。ところが会員約2600人のうち約1600人分は、同協会が預託金を直接管理していた。同協会の代理人によると、流用された預託金はこの直接管理していた分だけだという。
池田さんによると、弁護士などに管理を任せる仕組みなら相互チェックも働くため、より安全性が高い。ただ、余分な管理費の負担が生じる。民間団体の中には、預託金をその団体が直接管理して費用を抑えているところもある。
途中で解約した場合に先払いをした費用がいくら返ってくるのかも確認しておく必要がある。一定のサービス利用を超えた時点で追加金額を請求する団体もある。最初に預かった金額を一部返還しないこともあるので要注意だ。
さらに、体調が悪くなった時などの緊急時に誰が来てくれるのかを事前に確認しておくことも大切だ。日頃から接している団体の担当者が来るのか、提携している別の事業所から派遣されるのかで、安心感が違ってくる。
契約内容が複雑なため、契約書を弁護士などの専門家に見てもらうことも池田さんは勧める。「自分の身を守るためにしっかり確認を。利用者自身も情報収集に努めなければならない」
日本ライフ協会は公益財団法人なので預託金管理をめぐり内閣府から勧告を受けたが、民間団体には監視の目が行き届かない。政府もこうした団体の実態を把握できていない。高齢者の生活支援に詳しい高橋紘士・高齢者住宅財団理事長は「こうしたサービスをチェックする仕組みが非常に弱い。身寄りがなく、それなりに資産があって自助・自立の意識が高い高齢者がトラブルに巻き込まれてしまいがちな状況で、対策の検討が急務だ」と指摘する。(井上充昌、友野賀世、中村靖三郎)
●日本ライフ協会
身寄りのない高齢者の身元保証や生活支援をする「みまもり家族」の事業で2010年に公益財団法人と認定された。急激な事業拡大などで経営が悪化し、将来の葬儀代などとして集めた預託金を人件費などに流用。総額約9億円の預託金に約4億8千万円の不足を生じさせ、大阪地裁に今月1日、民事再生法の適用を申請した。負債総額は約12億円超に上る。全国17カ所に事務所があり、会員は約2600人。