宅配食や御用聞きで「高齢者見守り」—シニア層に照準を合わせるコンビニ業界
2016年1月26日nippon.com
コンビニ店舗では、日常生活に必要な雑貨や食料品、郵便切手からたばこまで販売し、店内にはセブン銀行のATMもある。地域密着型であり、自宅周辺にこうした便利な店があれば、スーパーより多少値段が高くても、ついつい利用してしまう。そのコンビニが食事の宅配サービスにも本腰を入れ始めた。かつての地元の酒屋さんなどが行っていた「御用聞き」業務の様相も見せている。
消費者の自宅まで届けるのは、日替わり弁当や総菜など日常生活に密接なものだ。食事の宅配サービスに参入している業態は少なくないが、コンビニ業界でもセブン-イレブンのほかファミリーマート、ローソンなどが参入している。
ファミリーマートでは高齢者専門の弁当宅配のフランチャイズ「宅配クック123」を展開。宅配料は無料、一食だけでも注文可能、正月三が日を除き年中無休で、ご飯とおかずをセットにした普通食から、塩分控えめ・低タンパク、やわらか食などのメニューをそろえ、一食600円~800円程度で提供している。宅配サービスにはセブン-イレブンがヤマト運輸、ローソンが佐川急便と提携している。
「生活インフラ」として“買い物難民”にも対応
コンビニ業界最大手のセブン-イレブンは現在、国内に約1万8000のフランチャイズ店舗を持つ。未進出の県や過疎地、離島などは別として、セブン-イレブン・ジャパンの子会社で「お届けサービス」の運営を手掛けるセブン・ミールサービス(2000年設立)の青山誠一社長は、食事の宅配サービスのねらいについて次のように語る。
「高齢化社会の進行などで、最近では近くのコンビニにすら自由に行けない高齢者も多く、“買い物難民”の言葉も登場しています。社会環境の変化の中で、来店客を待つだけでなく、店舗から外に出ていく必要性が高まってきました」
セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長が打ち出した方針が、“近くて便利”な生活インフラとしてのコンビニの社会的役割だ。そうした認識を強める契機となったのが、2011年3月の東日本大震災だった。
「コンビニが特に被災地などでライフラインとして評価され、地域住民に利用していただいたことで、品揃えとサービスの見直しに取り組みはじめた」と青山社長は言う。「都市部であっても困っている人は在宅の1人暮らしのお年寄りや、体の不自由な人ばかりではなく、子育て中の主婦層の中にも宅配ニーズがあることが分かった」
最近全国紙に『その日、わが家の 玄関がセブン-イレブンになった。』というキャッチコピーの広告が掲載された。配達日の前日(一部の商品は当日)までに欲しい商品をネットや電話、ファクスで申し込めば、近隣のセブン-イレブンの店員が自宅まで届ける。500円以上の注文は配達料無料、年中無休のサービスだ。
それ以前に、「セブンミール」で主眼を置いていたのは健康志向に沿った「減塩」や「低カロリー」などだったが、高齢者や子育てママにまで目配りする生活インフラとしての役割を強化している。セブンミールの場合、食事の宅配サービスを受けるには、会員になる必要があるが、現在その数は全国で74万人に上るという。
人繰りの問題などフランチャイズそれぞれの事情もあるので本部からの強制はないが、現在、全国の店舗の約8割で宅配サービスを行っている。提携しているヤマト運輸の協力もあるが、その多くは店舗の従業員が顧客の自宅まで届けている。利用者の6割は60歳以上で、地域に密着したきめ細かなサービスは利用者に喜ばれている。
この宅配サービスは2013年度で売上高が前年度の倍の250億円。2015年度中には500億円を目指す計画だ。
年中無休の営業体制がコンビニの強み
順調な売り上げ拡大の背景には、社会事情の変化に加えて、セブン-イレブン側での高齢者向けの人気商品の品ぞろえや季節ごとの商品など消費者ニーズに合ったたゆまぬ商品戦略がある。特に健康志向が強い高齢者向けには、管理栄養士が監修してカロリーや塩分に配慮した日替り弁当を用意している。
「セブン・ミールサービスはあくまで、フランチャイズ店の御用聞きや品ぞろえのお手伝いをしているだけ」と青山社長は語るが、日替りの宅食サービスでも惣菜セットのカロリーや塩分の調整、要望に応じたご飯の量の増減など、高齢者に寄り添ったメニューを工夫している。
宅食業界の中には土日を休業とするところもあるが、コンビニ業界の強みは年中無休に近いサービスが可能な点だ。それだけ「生活のお手伝い」が可能という。高齢者は季節ごとの催事を大切にするので、クリスマスやお正月に照準を合わせて「プレミアム商品」を準備するなど、季節ごとに消費者ニーズに合った品ぞろえの工夫も怠らない。
高齢者見守り活動で自治体と提携
時代の変化に対応したコンビニの進化はめざましい。宅食サービスなどが結果的に地域で1人暮らしの高齢者を見守る機能も果たしている点に、各地の自治体も着目している。
セブン-イレブンは2013年11月に福岡県と高齢者の見守り事業「見守りネットふくおか」の協定を締結した。それ以降、行政側からの問い合わせが多く、2015年9月末段階で、福岡、大阪、千葉県などの164の自治体と「高齢者見守り活動に関する協定」を結んでいる。10月には、埼玉県内で初めて熊谷市と協定を結び、今後も自治体からの要請が増えることが予想される。
主に見守り活動が中心だが、食事のお届けを通じて始まった活動は日々増えている。セブン-イレブンでは、コンビニ店舗での高齢者雇用にも積極姿勢を見せている。「話し相手が少ない高齢者にとって、コンビニで店員らと交わす日常の会話は貴重なコミュニケーションの機会で、コンビニ店舗自体が地域社会の拠点となりつつある」
食品を扱う宅配ビジネスの市場規模は、各種調査によると拡大傾向にある。生協や有機野菜などを扱う業者に加え、これまで店舗営業のみだったスーパーも買い物客への宅配サービスに乗り出している。背景には、女性の社会進出や高齢化・過疎化による「買い物弱者」の増加があるが、大手スーパーやコンビニの拡大を受けて、かつて地元で「御用聞き」の主役だった酒屋さんなどが減り続けていることも挙げられる。
セブン-イレブン、イトーヨーカドーなどを傘下に収めるセブン&アイ・ホールディングスは、地域社会と連携した高齢者支援に力を入れている。
変化するお客の要望を見極める
セブン-イレブンは1970年代の開業当初、文字通り営業時間が「午前7時から午後11時」までだった。それがバブル期の1990年代以降、全店舗の80%超が「24時間営業」体制をとりはじめた。「コンビニはご近所のお客さまに育ててもらい、ここまで成長した」(青山セブン・ミール社長)という。シニア層に照準を置いたサービスにはそうした経緯もある。
地域のコンビニ店舗の従業員たちが「セブンミール」の弁当などを宅配し、御用聞きサービスを行えば、「次に来る時には○○も持ってきて…」といった追加注文も入る。顧客に密着した宅配サービスの副次的なメリットでもある。「お客様が要望されることが変化していくので、それを見極めながら今後もそれに対応したサービスを考えていく」と青山社長は語る。バリエーションはいくらでもある。
高齢化社会が進む中でコンビニ業界にとっても、シニア向けビジネスには追い風が吹いている。統括する本部とフランチャイズ店とのタッグによるシニア向け市場戦略は、宅食サービス以外でも展開されそうだ。