戸別にごみ収集 詳細な生活実態調査

2006年11月04日 東京新聞

 都会での一人暮らし高齢者の増加に伴い、社会問題としてクローズアップされてきた孤独死。東京都内でも、手探りながら対策に乗り出す自治体が目立ってきた。縦割り行政を見直し、高齢者の生活を知って地域ぐるみで見守る-。
動きだしたさまざまな取り組みの一方で、プライバシー保護など共通の課題も浮かぶ。 

 トイレが1日使われないと警備員が出向く緊急通報システム、相談員が定期的に電話する訪問電話、戸別訪問でのごみ収集-。港区は、一人暮らしの高齢者の安否を確認するため、さまざまな取り組みをしている。

 ところが、それぞれの担当窓口間の情報交換がなく、小さな異変に気づいても孤独死に気付かない恐れがあった。

 同区は、こうした縦割りの弊害を改めようと、部署を横断した検討会を設けようとしている。保健福祉支援部高齢者支援課を核に保健福祉課、みなと保健所生活衛生課、五カ所の総合支所などの責任者が情報を共有する方法を話し合い、孤独死対策を充実させる。

 こうした横断組織は、新宿区にもあり、杉並区も設ける予定だ。

 港区高齢者支援課の矢崎博一課長は「行政だけでは限界があり、消防や警察、社会福祉協議会や民生委員などの協力が不可欠だ」と言う。

 しかし、各機関の情報には、個人情報もある。ある民生委員は「われわれは守秘義務を守り責任を持ってやっている。福祉団体や自治会、ボランティアもいいが無責任では困る」と、安易な情報共有に警鐘を鳴らす。

 近所の顔見知りの力を借りるのが効果的だと考えるのは国立市。介護保険課は、来年度中に地域ぐるみの高齢者見守りネットワークを構築することを目指している。

 くにたち北高齢者在宅サービスセンターの武田隆治所長は「年代を超えた地域づくりとして取り組むべきだ。子どもの見守りに高齢者の力を借りてもいい」と提言する。

 しかし、こうした構想には不安の声も。約10年前から一人暮らしや寝たきりの高齢者を支援してきた同市老人クラブ連合会の大作秀隆会長は「他団体との連携を求められても、会員自身が高齢で余力がない」と戸惑う。ある自治会長は「回覧板の受け取りさえ拒否するケースが増えた」と近所付き合いが消えつつある現状を訴える。

 まずは現状把握をと、70歳以上の一人暮らし高齢者らの生活実態調査に今月着手したのは江東区。03年度にも緊急連絡先などを調べたが、今回は「週1回以上外出しているか」などさらに細かく聞き取る考えだ。高齢福祉課の若井利博課長は「潜在的な見守り対象者を浮かび上がらせる狙いもある」と説明する。

 「『1人で死んでもいい』と言う人もおり強制的に介入はできない。ただ地域が気にかけている中で1人で死んでも『孤独死』とは言わないと思う。誰にも知られず、気にされず、という状態をなくしていければ」。三年前から調査を続ける墨田区高齢者福祉課の担当者は、経験を踏まえてそう話した。


行政だけでは限界 空閑(くが)浩人・同志社大助教授(社会福祉学)の話

 孤独死の問題は福祉の一分野、一領域の対応では解決できない深刻さがある。行政が縦割りを超えて連携し、情報共有を図っていこうという取り組みは評価できる。ただ、対象は行政サービスの網の目から漏れている人だ。相談に来てくれるのを待つのではなく、積極的に出向いていってかかわりを持たねばならない。新組織を作っても行政だけでは限界があり、住民をいかに巻き込むかが今後の課題となるだろう。


生きてる間が大切 小谷みどり・第一生命経済研究所主任研究員の話

 1人で亡くなることを覚悟して生きている人は意外と多い。「孤独死させない」と言われても「余計なお世話」と受け取られる可能性もある。行政の着眼点がどこにあるかだ。死のあり方よりも、生きている間の孤独感を解消することが重要だ。何日たって発見されたのが何人になったと、死の瞬間にばかり注目していても意味はない。見守り事業も生きがい対策としてとらえ直すことが必要だ。