松下電工の「みまもりネット」――高齢者安否、低負担で確認

2002年11月14日 日本経済新聞

 松下電工は12月に高齢者の安否確認サービス「みまもりネット」を発売する。
センサーで在室状況を感知して、携帯電話で自動的に知らせる仕組み。自社系列の老人ホームで実際にシステムを運用してきた実績が生かされており、経済的・心理的に高齢者に負担をかけないように工夫がされている。

 ヒットを予感させる第1の点は簡便さだ。1人暮らしの老人が使うトイレや寝室などに、1つずつセンサーを置いておく。どこの部屋にいたかの1時間ごとのデータを、1日1回、携帯電話を通じて利用者の手元に届ける仕組み。

 センサーは8個まで設置でき、在室情報はトイレを「T」、リビングを「L」、ベッドを「B」とすれば「LBTB」というような文字列で1時間に12文字まで表示できる。これらの情報は最大8カ所にあてて自動送信される。利用者(家族)が自分から電話し、状態を知ることもできる(月100回まで)。

 携帯電話さえ持っていれば、センサーのセッティングや文字設定などは松下が担当する。

 部屋のセンサーの情報は、赤外線で高齢者宅に1台置いた送受信機へ飛ばし、そこから携帯パケット通信で、松下電工のデータセンターを経由して利用者の手元まで届く。

 赤外線で情報を飛ばすので、高齢者宅で配線工事などは一切不要。「機械が苦手」「家が古くて」という人でも楽だ。サービス業界を研究しているある大学教授も「カメラで常時監視されることを嫌う高齢者は多い。これは普及しやすい条件をそろえている」と評価する。

 ヒットを予感させる2つめが価格の安さ。契約料は1万5000円、基本サービス料は月額3000円(センサー2個の場合。センサーを1個増設するたびに月300円増額)、それに通信費がかかる。

 こうした安否確認システムといえば画像が送られてくるイメージなのを、松下電工はあえて文字にした。「技術的には可能だが、画像で伝えられる情報は一瞬だけ。文字情報だと通信費は月1000円程度で済み、画像だと何倍にもなる」と説明する。

 実際、1人暮らしの親を抱える人というと、40歳以上が主体。費用は彼らにとってそれほど高いものでもないだろう。

 利用者のランニングコストを下げる工夫はほかにもある。センサーに入れる電池は、通常1年しか持たないといわれてきたのを、機械を省電力タイプにしたほか、産業用の電池を使うことで、4年間持つようにした。今後利用者向けに取り換え用として1個500円程度で提供する考えだ。

 3番目の特徴は情報提供の細かさだ。毎時間ごとに、どこに行ったかが分かり、利用者が「今日はトイレに行く回数が多いな」「起床が遅い。病気では」と、きめ細かい情報から自分で判断できる。

 ただ「異常発生時に知らせてほしい」という声が出ることも予想される。同社は「技術的に不可能ではないが、判断基準設定が難しい。機械任せでなく利用者に判断してもらい、親に直接電話してもらうことで、コミュニケーションを促したい」としている。
 松下電工は今年6月に社員40人を対象に試験的にサービスを提供した。「これなら払える、高くないと好意的な反応が多かった」という。実際のサービス開始は12月。どこまで受け入れられていくのか注目点となる。


ザ・ライバル、象印、東ガス、NTTなど競う

 ライバルとして想定されるのは象印マホービンの「みまもりホットライン」と、東京ガスの「みまも~る」だ。

 「みまもりホットライン」は家の電気ポットに無線通信器を取り付けて、電源を入れたりお湯を使ったりすると、NTTドコモのパケット通信網を通じて、同社のサーバー(兵庫県明石市)経由で、利用者のパソコンや携帯電話に利用状況が通知されるというもの。30分ごとに情報を更新、1日2回指定した時刻に知らせてくれる。契約料は1万5000円で、基本利用料は月額3000円。

 「みまも~る」は、東京ガスのガス使用自動通報サービス「マイツーホー」のオプションサービス。これもガスの利用状況から、携帯でもパソコンでも安否を確認できる。
 加入手数料として5000円、利用料は月額1470円かかる(ただ今年12月までに申し込む場合は加入手数料が無料)。
 これらはともに機器を手軽に取り付けられて、ライフライン使用状況から安否が確認できる点で、共通しているが、生存情報以上の細かい情報が分からないのがネック。

 おもしろ商品としてはntt西日本とタカラが8月に発売した「FII-RII」がある。これは自宅にカメラ付きロボットを置き、携帯電話で指示すれば、部屋の中の静止画像を送ってくれたり、赤外線で照明を消したり、ビデオのスイッチを入れたりできるもの。

 価格は2万4800円と手ごろだが、「常に部屋のパソコンを起動させておかなければならないほか、パソコンへのソフトのインストールも、初心者では無理なぐらい難しく、手間がかかる」(大手電機メーカー部長)と、実際の使い勝手には疑問符がつく。

 静止画像が利用できないとはいえ、必要最小限の情報を、なるべく低いコストで提供できているという点で、松下電工のサービスは一歩リードしていると言えるだろう。

(日経産業消費研究所研究員 中井豊、詳細は「日経新製品レビュー25号)


開発者から、ヘルパーの意見参考に

 松下電工新事業推進部新事業営業企画グループの田中智幸技師の話
当社は1998年から多角化の一環で有料老人ホーム「ナイス・ケア大和田」(大阪府門真市)を運営している。今回の商品はそこで毎月ヘルパーと意見交換しながら構築してきたシステム「ケアモニタ」がベースになった。
 高齢者は「こんなことで電話するのは悪い」と子供に遠慮しがち。気づいたときには重病で床にふせっていたということも珍しくない。一般向け商品にするにあたり、高齢者に気を使わせることなく、自動的に行動記録を毎日連絡する方式をとった。もちろん送受信機に緊急用ボタンも付け、携帯電話に自動送信もできるよう配慮した。
 現在1人暮らしの高齢者は65歳以上に限定すると330万人。2005年までに400万人に増えるといわれている。
 「親の調子がおかしいのではないか」と子供が判断する能力は、機械をはるかに上回る。これで親子のコミュニケーションをもっと深めてほしいというのが願いだ。



「みまもりネット」サービス終了のお知らせ 2009年3月2日