MIXIが一審で敗訴 特許侵害訴訟で揺れる「子ども見守りサービス市場」で何が起きているのか
2026年03月13日CNET Japan
ITを活用した子どもの見守りサービス市場が拡大している。富士キメラ総研の予測によると、2024年度の市場規模は前年度比18.4%増の116億円、2030年度には281億円に拡大するという。
同市場の拡大を特に牽引しているのがGPS(全地球測位システム)を搭載した専用の通信端末だ。「BoTシリーズ」を展開するビーサイズ(神奈川県横浜市)や「みてねみまもりGPSシリーズ」を展開するMIXIなど、複数の企業がサービスを投入して徐々に競争が過熱している。
だが、この市場がいま、訴訟で揺れているという。ビーサイズの八木啓太社長に話を聞いた。
──MIXIに対して複数の特許侵害訴訟を起こしていますね。
現在、MIXIに対して7件の特許侵害訴訟が進行中です。BoTトークには位置情報だけ把握できる「GPSプラン」(月額480円)と音声のやり取りも可能な「GPS&トークプラン」(月額680円)があります。
私たちはサービスごとに対応端末を買い替えずに済むように、同一端末で複数のサービスを選択できる切り替え機能の特許を持っています。本日、この特許に関して東京地方裁判所で第一審判決が出て、MIXIに対する特許侵害賠償命令が出ました。まずは私たちの主張が認められましたが、今後も訴訟が続く可能性があります。
もともとMIXIとの間でコミュニケーションが無かったわけではありません。最初の接触は2019年10月10日です。当時、私たちは「BoT」という子どもの見守り製品を発売して2年半が経過したころでした。
MIXI側から「業界で首位に立たれている貴社と協業や事業連携についてディスカッションさせていただきたい」と連絡をいただきました。当時、MIXIはまだGPS型の見守りサービスには参入していませんでした。
10月30日16時、NBF渋谷イーストを訪ねると、ファウンダーの笠原健治さんも同席され、「出資したいがどのような事業なのか」というヒアリングを受けました。この事業の強みや弱みなどお話をさせていただき、最終的な出資条件が「株式の過半数以上をMIXI側が持つ」というオファーだったため、私たちとしてはそこまでは考えていないということでその場は終わりました。
振り返ればこのとき、NDA(秘密保持契約)を締結した上でお話すればよかったと反省しています。その後、「進捗がでましたら改めて連絡させていただきます」とFacebookメッセンジャーでご連絡いただきましたので、当社としては進捗を待っている認識でいました。
それから約1年後、MIXIから「みてねみまもりGPS」が発表されました。プロダクトの形状がミリ単位でそっくりで、ビジネスモデルやサブスクリプションの料金体系、端末の価格、アプリのUX(ユーザー体験)、Webサイトの訴求文言などあらゆる点が私たちのプロダクトと類似していて、驚きました。
私たちはこの市場のパイオニアだったため、模倣される立場であったことは認識していました。MIXIだけでなく他社も模倣してくる状況にありました。そのため、私たちは絶えず新しい技術を研究開発し、新機能を追加したり、新商品を出したりして、他社との差別化を図る努力を重ねてきました。
結果、現在では20件以上の特許を取得しています。そのうちの7件について、MIXIによる特許侵害の疑いを認識し、2024年からMIXIとの間で協議を始めましたが、模倣を止めたり侵害を認めたりする改善が見られなかったため、私たちとしてもやむなく訴訟という手段に踏み切るしかありませんでした。
私たちが研究開発を進めて新しいイノベーションを起こそうと努力しても、大企業から特許を侵害されたり、訴訟の争いにすり替えられたりすれば、健全な競争市場ではなくなります。
模倣そのものは一つの戦略だと思います。ただ、特許侵害は違法行為で許容されるものではないと考えています。この市場は前向きな技術競争を通じて子どもの安心・安全な環境をどのようにつくっていくかを切磋拓磨して考えていかなければならない。
市場が健全性を失ってしまえば、最も脅かされるのは子どもの安心安全な環境です。再度、市場を健全に戻していく必要があると考えています。
──複数の訴訟が進行中とのことですが、最終的にどこを目指しているのでしょうか。
私たちとしては、やはり対話を通じて解決することが一番だと思っています。ただ、これまでMIXIと対話を重ねてきましたが、なかなか合意できず、時間だけが過ぎていったため、現在のような状況に至っています。
私たちとしては和解案も提示しています。プレーヤー同士が訴訟という本来の競争ではないフィールドで争いを続けているよりも、互いに合意形成をした上で市場が形成されていくほうが健全な市場に戻ると思います。両社が健全な市場競争下で事業を継続できる形を目指して今後も話し合いをしていくつもりです。
──先ほどMIXIだけでなく他社からも模倣されていると言及がありました。MIXIとは別でも訴訟が進んでいるのでしょうか。
別で進行しています。こちらも事前に対話を重ねてきましたが、やむなく訴訟に踏み切らざるを得なかったという経緯があります。ただ、こちらについても訴訟ではなく、対話によって市場の健全化を図りたい。できれば、和解が望ましいと考えています。
──もともとBoTが生まれた背景を教えてください。
自分に子どもが生まれたことがきっかけです。ビーサイズの祖業は家電製品の開発・製造です。LEDのデスクライトやスマホの充電器などを製造して販売してきました。
2015年に子どもができ、自分の子どもの頃のようにいろんなところを駆け回って冒険してほしいなと思う一方で、現状、手放しで送り出せる世の中でもない。子どもが安心安全に冒険できる環境をどうにかつくれないかと考えて生まれたのがBoTシリーズになります。出だしから非常に好調に事業が拡大したため、現在ではメインの事業に据えています。
──市場シェアの推移を見ていると依然としてビーサイズがトップシェアを誇っていますが、MIXIがかなり追い上げてきています。MIXIは家族アルバムサービス「みてね」の世界累計利用者数が2500万人を突破するなど、子育て市場で盤石の顧客基盤を築いています。子どもの見守りサービスを展開する上ではこの上なく強い気がします。
MIXIの戦略と私たちの戦略は異なりますし、他社のことについて発言できる立場でもありません。ただ、私たちのGPSを用いたサービスの創造性や、品質、技術力が優れているからこそ、トップシェアを取れているのだと思っています。
その上で、健全な競争を通じて追い上げられているのであれば、それは私たちの力不足だと思います。ただ、私たちの特許を侵害してシェアを伸ばしているのであれば、それは是正されるべきです。
MIXIには、大手ならではの資金力があります。現状をそのままにしていたら、私たちがどれだけ優れたものを出していったとしても特許侵害と力業で押し切られてしまいます。その意味でも早く手を打たなければならなかった。
今回の訴訟でも勝訴しましたが、厳しい状況には変わりありません。このままではスタートアップが起こすイノベーションが大手企業によって阻害されるあしき前例が生まれてしまいます。
──ビーサイズは100%独自資本です。大手に対抗する上でも外部からの出資を検討しないのでしょうか。
可能性としては常にオープンに考えています。MIXIとも前向きにお話させていただきましたし、日本の大手メーカーや米国のIT企業からの打診に対しても前向きに考えています。
2024年10月から米国でもサービスを開始し、今後はさらにグローバルに展開していきたいと考えていますし、そのためにも米国、欧州、中国で特許を出願して持っています。
今後は高齢者の見守り市場にも展開を考えています。スマホがなかなかフィットしない世代でもありますし、社内でも研究開発を続けています。日本は少子高齢化の課題先進国でもありますから、日本市場にしっかりとフィットしたサービスとして磨き上げることができれば、グローバルでも必ず受け入れられると信じています。
おそらく今回のように、大企業とスタートアップの間で特許侵害があったとしても資本力でねじ伏せられるといった顕在化していないケースは数多くあると思います。日本のプレーヤーが米国で起きたイノベーションの後追いをするだけの構図は、結果的には日本のプレゼンスを下げてしまう。
日本からグローバルでも通用する新しいイノベーションを起こしていきたいし、そのためにも日本は健全な市場であってほしいと切に願っています。