「高齢者等終身サポート事業」とは?業者とのトラブルも?

2025年11月26日NHK


1人暮らしの高齢者は、5年後の2030年には900万人に迫り、2040年には1000万人を超えると推計されています。

頼れる身寄りがいない高齢者をどう支援していくか。「高齢者等終身サポート事業」の役割の重要性は高まっています。

一方で、提供する業者とのトラブルも報告されています。
サービスの内容と注意点をまとめました。

Q.そもそも「高齢者等終身サポート事業」ってどんな事業?

A.身寄りがいない高齢者や、家族や親族がいても身近に頼れる状況にはない高齢者などを支援する事業です。
民間の事業者がサービスとして行っていて、主に3つの種類があります。

▼「身元保証」
病院に入院するときや介護施設に入所する時などに求められる身元保証を行うもの。

▼「死後事務」
本人が死亡した後の葬儀に関する手続きや、遺品の整理、電気などの公共料金や携帯電話の解約など。

▼「日常生活支援」
通院や買い物への送迎や付き添い、定期的な見守りや生活費の管理など。

これらの手続きのうち一部については、判断能力が不十分な人や経済的に生活が厳しい人などは、公的な支援が利用できます。

しかし、公的な支援の対象ではなく、支え手がいない高齢者は多くいて、大手シンクタンクが公表した推計では、高齢者全体のおよそ7割、実に2467万人にのぼるというデータもあります。

このため、こうした人たちが家族や親族を頼らず、1人で手続きを行う場合に民間のサービスが選択肢となっていて、いま需要が高まっているんです。

Q.どんな事業者がサービスを提供しているの?

A.福祉法人のほか、司法書士事務所や葬儀業者、銀行など、さまざまな業種が参入しています。
総務省が、令和5年公表した調査では、全国で少なくとも400あまりの事業者が確認されています。

回答が得られた事業者のうち、▼事業開始から「5年以下」が半数以上にのぼったほか、▼従業員が「10人未満」が8割弱を占めていて、経験がまだ浅く、小規模な事業者が多いとみられています。
また、これらのサービスについては、事業者を直接、監督・指導する省庁や法律は定まっておらず、許認可や届け出も必要ないのが現状です。

利用者とのトラブルも確認されていて、事業者のサービスの質の担保が課題になっています。

Q.実際、どんなトラブルが確認されているの?

A.国民生活センターに寄せられた利用者からの相談の例です。

▼70代女性
「1人暮らしで身寄りもなく、サービスを行っている葬儀業者に連絡して死後の葬儀や遺品整理の代金を業者に支払った。しかし、業者に預けていた自宅の鍵や土地の権利証が紛失したほか、寄付を求められて信用できなくなった」

▼80代女性
「孤立死すると近隣に迷惑がかかると思って業者と契約し90万円を支払ったが、その後、来訪もなく何もしてくれなかった。解約には、解約料が50%かかると言われ納得できない」

ほかにも、「病院への送迎サービスを契約したのに、『忙しい』と断られた」とか、「サービスの内容を理解できないまま、高額な契約をしてしまった。解約したい」といった相談が、寄せられているということです。

国民生活センターによると、2024年度の相談件数は420件となり、10年前の(2014年)99件と比べて、4倍以上に急増しています。

Q.国はどんな対策をしているの?

A.国は令和6年、事業者が守るべきガイドラインを策定しました。
利用者が事業者を選ぶ時の目安にしてほしいとしていますが、罰則などが定められている訳ではなく、強制力はありません。

こうしたことなどから、業界団体による独自のルール作りや勉強会などで、事業者全体のサービスの質を向上させ、信頼性を高めようという自主的な取り組みに期待が寄せられています。

Q.サービス利用時、どんな点に気をつけて事業者を選べばいい?

身寄りのない高齢者の問題に詳しい日本総合研究所の沢村香苗研究員に話を聞きました。

チェックリストの活用を
沢村さんは、国のガイドラインで示された事業者の「チェックリスト」を参考にすると良いと言います。

例えば、▼契約内容は書面で渡しているか、▼利用者が前払いした預託金の額や根拠は明確になっているか、事業者の運転資金とは別で管理をしているか、▼解約方法の具体的な手続きは明確に示されているか、といった項目があげられています。

リスク分散を
また、経営破綻などのリスクがあるためすべてを1つの事業者と契約するのではなく、必要なサービスに応じて「依頼先を分散」することも考えられるといいます。

価格の安さに注意を
安価な料金設定がされている場合も、注意するべきだといいます。
提供されているサービスは「福祉」ではなく、「ビジネス」である点を理解することが必要で、価格の安さだけで事業者を選ぶと、納得できるサービスが受けられない可能性があります。

日本総合研究所沢村香苗 研究員
「自分が必要としている手続きや支援のすべてを、こうした民間の事業者が解決してくれる訳ではありません。公的な福祉サービスと民間のサービスをうまく組み合わせ、時には地域や知人の助けを借りることを考えてみるのも大切です」