身寄りなき高齢者 生活支援進む…NPO、自治体など 「連絡先」「火葬」引き受け
2025年11月08日読売新聞
頼れる親族がいない一人暮らしの高齢者が増えています。緊急連絡先の引き受け、死後の事務手続きなど、身寄りなき人たちの困りごとに対応するため、NPO法人や自治体などが取り組みを始めました。65歳以上の人口がほぼピークを迎える2040年に向け、国も全国的な支援の枠組み作りに向けて動き出しています。(板垣茂良)
「もしもの時心強い」
「もしものことが起きても、頼れるところができたのは心強い」
そう話すのは、愛知県東海市の市営住宅で一人暮らしをする男性(82)だ。7月、同県知多市のNPO法人「知多地域権利擁護支援センター」と契約を結び、「くらしあんしんサポート事業」の利用を始めた。見守りや死後の火葬といった事務を担ってくれる事業だ。
男性は47歳で離婚した後、地元の岡山県を離れ、愛知県内の製鉄所で長く働いた。別れた妻や息子2人とは長らく会っていない。
センターと契約したのは、実家の墓に入ることを諦めたからだ。6月に帰省した際、先祖代々の墓に入りたいと兄に伝えたところ、「墓を管理する親族から難色を示された」と明かす。
サポート事業の対象は、身寄りがいなかったり、男性のように親族がいても協力が得られなかったりする高齢者らだ。60~80歳代の12人(10月1日現在)が利用する。
基本サービスには、電話や自宅訪問による見守り、入院や介護施設に入所する際の緊急連絡先の引き受け、火葬に伴う手続きなどが含まれる。料金はサービスの利用を開始する年齢で異なり、59歳までに始めると月6000円、95~99歳なら月1万5700円だ。追加料金を支払えば、遺言作成の支援や、自宅に残った家財の片付けもしてくれる。
センターが、知多半島の9市町を対象にサポート事業を始めたのは昨年10月。知的障害者や認知症の高齢者の権利や財産を守る成年後見などの本来業務を通じて、身寄りがない高齢者からの相談が増えたと感じたという。
センターは、地域の高齢者らが2か月に1回集まる「互助会」の運営に協力している。お茶を飲んで交流するほか、遺言の書き方などを学んでおり、事業の利用者にも参加を呼びかけている。
センターで事務局長を務める金森 大席だいすけ さん(43)は「亡くなった後の不安を取り除くだけでなく、生きている間の孤独や孤立といった課題にも寄り添いたい」と話す。
身寄りのない高齢者の生活課題に対応する事業は、川崎市や大阪府枚方市などの自治体も行う。
対象者増加の見通し
日本総研の推計では、子も配偶者もいない高齢者は40年に688万人になる。未婚率の上昇や家族関係の希薄化を背景に、24年(371万人)の1・9倍に膨らむ。
岡元真希子・副主任研究員は「身寄りなき人の人生の終盤を支えるには、血縁以外の多様な担い手を増やしていかなければならない。親族の存在を前提とした公的制度や、賃貸住宅の契約といった商習慣を見直すことも必要だ」と指摘する。
国も対策に乗り出した。厚生労働省は9月、身寄りなき高齢者が病気になった際や亡くなった後の手続きを支援する全国的な仕組みの具体案を、専門家会議で示した。
地域の社会福祉協議会や社会福祉法人、NPO法人が、金銭管理などの日常生活支援、入院・入所のほか、葬儀や納骨などの手続きをサポートする。利用料は担い手がそれぞれ設定し、困窮者らは無料や低額で利用できるようにする。早ければ、27年度にも始まる見込みだ。
全国社会福祉協議会(東京)の高橋良太・地域福祉部長は「ニーズの高まりに応えるには、経験豊富で専門知識を持つ人材の確保や育成が欠かせない。相続人捜しや火葬・埋葬を担う市区町村も、積極的に関わる仕組みにしていくことも大切だ」と指摘する。
参入増え 契約トラブルも
身寄りのない高齢者を支援するため、入院時などの身元保証や死後の手続きを有料で引き受ける民間事業者が増えている。全国に400社以上あるとされ、新規参入も相次ぐ。
ただ、規制する法律や監督省庁がなく、契約を巡るトラブルも起きている。国民生活センターによると、サービスに関する相談は昨年度に420件と、5年前の3倍に増えた。業界に対しては「人の弱みにつけ込み、高額な料金を取る」といった見方もある。
業界の健全化やサービスの質の向上につなげようと、東京や大阪などの6事業者は8月、一般社団法人「全国高齢者等終身サポート事業者協会」(東京)を設立した。
同協会理事長で、行政書士の黒沢史津乃さん(52)は「社会的信用を得るため、契約や解約の方法、預託金の管理などについて、協会として厳しい基準を設けて認証し、高齢者が安心してサービスを選択できる環境を整えたい」と話す。