増加の一途をたどる独居高齢者…法律、福祉、医療、葬祭の専門家が連携して支援
2025年09月25日BUSSINES JOURNAL
●この記事のポイント
・トリニティ・テクノロジーが展開する「おひさぽ」は、高齢者の生活・終末期・死後までを一気通貫で支援する新サービス。
・身元保証や死後事務など、家族に頼れない不安を解消し、株式会社ならではの持続可能な仕組みを構築。
・法律、福祉、医療、葬祭の専門家が連携し、「一人でも安心して生き、安心して旅立てる社会」を目指す。
日本は世界でも類を見ない超高齢社会に突入している。2025年には団塊世代がすべて75歳以上となり、医療・介護・生活支援の需要はますます増える。その中で顕在化しているのが「頼れる家族が身近にいない」という課題だ。
独居高齢者は増加の一途をたどり、病院や施設入所の際に必要とされる身元保証人や、認知症発症後の財産管理、亡くなった後の葬儀・手続きなどを担う存在が不在となるケースが少なくない。「もしもの時に誰が助けてくれるのか」という不安は、財産や健康だけでなく「日常生活そのもの」を覆い、本人の尊厳や安心感を脅かしている。
こうした現実に正面から向き合い、新しいセーフティネットを提供しているのが、トリニティ・テクノロジー株式会社のおひさぽ事業本部だ。本部長の高橋泰浩氏に、同社が展開する「おひさぽ(おひとりさまサポート)」の取り組みと意義を聞いた。
「おひさぽ」とは何か
サービス名は「おひとりさまサポート」の略だが、必ずしも“完全に一人暮らし”の人だけが対象ではない。高橋氏はこう説明する。
「実際にご契約いただいている方の半数は、将来的におひとり様になる可能性がある方や、ご家族がいても頼れない事情を抱える方です。私たちは“頼れるご家族が近くにいない方”に向けたサービスとして訴求しています」
おひさぽの大きな特徴は、人生のステージごとに必要となるサポートを網羅的に提供している点だ。
元気な時期:見守りサービス、緊急連絡体制、電力使用量を活用した生活モニタリング
入院・介護期:身元保証、事務手続き代行、財産管理、任意後見契約の履行
終末期:尊厳死宣言書作成支援、医療方針の明確化
死後:葬儀や火葬、納骨、死後事務の代行、遺言書作成支援、預託金の信託保全
つまり「元気なうちから亡くなった後まで」を一気通貫でカバーする仕組みを構築している。
立ち上げの背景にあった「家族信託」の限界
トリニティ・テクノロジーの前身は司法書士法人。もともと「家族信託」に力を入れ、認知症による資産凍結を防ぐサービスを展開していた。
しかし、その対象は「頼れる家族がいる人」に限られていた。現場で相談を受けるうちに「そもそも頼れる家族がいない人」の声が大きくなっていった。
「資産を守る仕組みは整えても、本人の生活や終末期、死後のことまでは守れない。家族の代わりを担う存在が必要だと痛感しました。私たちのミッションは“超高齢社会の課題を解決し、ずっと安心の世界をつくること”。おひさぽはまさにその理念を具現化したものです」
依頼が最も多いのは「身元保証」。病院や施設に入る際に保証人を求められるが、近くに家族がいない人は困窮する。次いで多いのは「死後事務」。
高橋氏は強調する。
「突然の事故や病気は誰にでも起こり得ます。『もし明日、自分に何かあったら』と考えると、漠然とした不安を抱える方は多い。おひさぽはその不安を現実的に解消する仕組みです」
他社との差別化――株式会社だからこそできる安心
高齢者向け支援事業は、非営利団体や小規模事業者が担うケースが多い。しかし、おひさぽは「株式会社」として展開している。
「お客様の人生を10年、20年、30年と支えるには、体力のある企業でなければならない。私たちは上場を目指し、資金力やガバナンスを強化しながら事業を継続できる体制を整えています。信託会社と連携して預託金を分別管理しているのも、長期的な安心を提供するためです」
さらに、法律専門家だけでなく、ケアマネジャーや医療ソーシャルワーカー、葬祭業の専門家など多様な職種をチームに迎え、顧客一人に対して“ワンチーム”で伴走する体制を築いている。
超高齢社会における「学び」
おひさぽの事例は、ビジネスパーソンにとっても多くの示唆を含んでいる。
社会課題は断片的に解決しても足りない
資産管理、介護、葬儀などは一見別の問題に見えるが、実際の利用者からすると一連のライフイベントの連続だ。部分的なサービスでは「安心」は提供できない。
“ずっと安心”を約束するには持続可能な事業体制が不可欠
非営利団体的な発想では長期的な信頼を担保しにくい。株式会社としての経営基盤が、むしろ社会課題解決の前提条件になる。
専門分野の垣根を超えた連携が鍵
法律、福祉、医療、葬祭。従来縦割りだった領域を横断してチームを組むことが、利用者に寄り添う最適解を生む。
高橋氏は最後にこう語った。
「おひさぽは、単なる生活支援サービスではありません。誰もが迎える“老い”と“死”に寄り添い、家族の代わりとして一生を支える存在でありたい。私たちはこれを日本の新しいインフラにしていきたいと考えています」
超高齢社会の進行は止められない。しかし、その不安を和らげ、安心して生き抜く道をつくることは可能だ。おひさぽの挑戦は、「一人でも安心して生き、安心して旅立てる社会」を実現するための実践的モデルケースといえる。