1人暮らしの認知症高齢者 特殊詐欺などの被害状況を国が調査
2025年09月22日NHK
国の研究班が都内の在宅介護支援などの事業所のケアマネージャーを対象に調査したところ、過去1年間に特殊詐欺の被害にあったり、回避したりした1人暮らしの認知症の利用者がいるとした事業所は回答したうちの4割近くに上ることがわかりました。
国の研究班によりますと、認知症やその前段階にあたるMCI=軽度認知障害の高齢者で1人暮らしをする人は、ことしは250万人余りと推計され、2050年には349万人に増加するとされています。
認知症の高齢者は判断力が低下していて被害にあいやすいうえに、被害を自覚しづらいため発見や対応が遅れやすく、特に独居の人はリスクが高まるといいます。
こうした中、国の研究班は「特殊詐欺」、「強引な訪問販売・リフォーム詐欺」、それに「その他の不適切な取り引き」による1人暮らしの認知症高齢者の消費者被害の実態を明らかにするための調査を行いました。
調査は去年10月から11月にかけて都内で在宅介護支援などを行う3711か所の事業所のケアマネージャーを対象に実態調査を行い、35%に当たる1296の事業所から回答を得ました。
それによりますと、過去1年間に1人暮らしの認知症高齢者の利用者がオレオレ詐欺や架空請求などの「特殊詐欺」の
▽被害を経験したのは21.3%
▽被害を回避したのは27.7%
▽被害を経験・回避のいずれかを経験したのは37.7%でした。
また、特殊詐欺による被害事例を手口別にみると
▽オレオレ詐欺が最も多く
▽キャッシュカード詐欺
▽還付金詐欺
▽預貯金詐欺
▽架空請求詐欺の順で多かったということです。
一方、「強引な訪問販売・リフォーム詐欺」は
▽被害を経験したのは33.1%
▽被害を回避したのは40.4%
▽被害を経験・回避のいずれかを経験したのは50%でした。
研究班の代表で認知症介護研究・研修東京センターの粟田主一センター長は「初めての大規模調査だが、事業所につながっていない独居認知症高齢者の被害状況は把握できず氷山の一角だ。対策は喫緊の課題で、被害に早く気づけるように定期的に誰かが訪れるなどつながり作りが求められている」と話しています。
被害を回避した女性 “同様事例知り 被害にあわずに済んだ”
東京都内で1人で暮らす70代の女性です。
3年前に軽度の認知症と診断されました。
女性は去年10月、電話による特殊詐欺の被害を回避することができたといいます。
自宅に「NTT」を名乗る電話があり、「電話料金の支払いが滞っているため、すぐに支払いしてください」と言われた女性。
本物の電話かと信じかけましたが、電話料金は銀行口座からの自動引き落としにしていたことを思い出しました。
さらに、以前テレビで、詐欺で同様の電話がかかってきたという注意喚起の番組を見たことが頭に浮かび、警察に相談の電話をしたということです。
すぐに最寄りの警察の生活安全課の刑事が家に訪れ、周辺で同様の特殊詐欺の電話が多くかかってきていることを知らされ、被害を防ぐことができたということです。
女性は「電話の声が本物のオペレーターのような声だったのでだまされそうになったが、事前に同じような事例があることを知っていたので被害にあわずに済んだ。忘れっぽくなって自信もなくなってくると、親切に話されると信じてしまいそうになる。これからも事例を学んだり、不安があれば警察や市役所に相談したりするようにして被害にあわないようにしたい」と話していました。
女性は月に1回、訪問看護を利用していて、自宅を訪れる看護師から消費者被害の注意喚起を呼びかけるリーフレットを見せてもらって最近の詐欺被害などの事例についても学んでいます。
こうした情報を踏まえ対策として
▽電話を常に留守電の設定にし
▽詐欺の被害防止を呼びかけるステッカーなどを居間や玄関などいたるところに置いて、対策を忘れないようにしているということです。
ケアプロ訪問看護ステーション東京の角谷奏穂看護師は「ちょっと危ないなと思う人は、数えきれないぐらいいる印象。危機意識は高くなってますし、最近増えている被害の情報も収集して、スタッフにも周知している。詐欺にあうと家族関係や心身の健康にも影響するので、被害にあう前の情報提供を大事にしたい」と話していました。
専門家「社会的支援につなげられる『意味あるつながり』大切」
研究班の代表で認知症介護研究・研修東京センターの粟田主一センター長は、今回の調査の結果について「1人暮らしの認知症高齢者が消費者被害の標的にされやすいことは、実感としてはあったが、これほどまでに被害があるとデータで明らかになったことは驚きだった。今回の調査は氷山の一角だと考えるべきで、地域の中には認知症で1人で暮らす人がたくさんいて、危機に直面している可能性があるということを多くの人に知ってもらい、どうやって守っていくか地域社会全体で考えないといけない」と話していました。
その上で、被害を避ける上で大切なポイントとして、「ヘルパーや友人、ケアマネなど定期的に誰か来てくれる人と人のつながりがあることが水際で被害を回避するためには非常に重要だ。認知症の人は自分から家に引きこもって人と人のつながりが切れてしまうことも多く、家を訪問する人がいない1人暮らしの認知症の人は被害にあうリスクが非常に高い。被害を防いでいく上では、定期的に会っていざというときに社会的な支援につなげられる、『意味のあるつながり』作りが何より大切で、それを後押しする政策を考えていくべきだ」と訴えていました。
さらに、「自治体によっては認知症などで判断力が十分でない人の消費者被害を防ぐため、各地の消費生活センターや福祉関係者、警察などが連携して見守り活動を行う見守りネットワークが設置されている。だまされやすい人は手口を変えて何度もねらわれることは少なくなく、ネットワークの見守りで被害にあわないような対策が必要だ」と指摘しています。
そして、「テレビや新聞などメディアを通じて被害の実態を社会全体で共有することは、被害防止に必要だ。被害を回避した事例を今後さらに分析を進めて類型化し、被害防止の対策につなげていきたい」と話していました。