挑戦者2025 ひとり暮らしの親をITで見守り――臼井貴紀さん
2025年08月18日週刊エコノミスト
Hubbit代表取締役 臼井貴紀 うすい・きき
1991年石川県生まれ。2014年早稲田大学卒業。同年IT大手ヤフーに入社し、営業、マーケティング、新規事業開発を担当。祖父が寝たきり状態になったため、社内の新規事業で高齢者の生活支援サービスの新規事業開発に取り組むが、限界を感じ退社。ベンチャー企業を経て、19年Hubbit設立。
老齢化による認知・身体機能が低下した在宅要介護高齢者向けに、タブレットを活用して自立を支援する。
遠く離れて暮らす父母や1人暮らしの親を心配する人たちは多いと思います。「ケアびー」はそうしたニーズに対応したシニア向け在宅ケアサービスです。スマートフォンを使ったことがない高齢者にも扱いやすいように、面倒な操作不要でタブレットで字幕付きのビデオ通話ができます。
特に魅力的な機能としては、デイサービスの送迎時間やヘルパーの訪問介護のスケジュールなどを定期的に知らせるリマインド機能、処方箋があればオンライン服薬指導を行うことで薬局からの薬の宅配も可能です。AIアバターとの会話機能もあり、これらは本人や家族の希望で、画面をカスタマイズできます。一方的な見守りや監視ではなく、「いつでも(両)親の隣にいます」を実現します。
警備会社系にも見守りサービスがあります。緊急時にガードマンが駆けつけてくれることが強みですが、高齢者と日ごろから接しているわけではありません。その点、ケアびーは普段から接している医療・介護施設とつながっているので、「緊急」ボタンで施設に連絡が取れるだけでなく、親子でビデオ通話しているときに、「体調がちょっとおかしい」となれば、ビデオ通話の途中で専門の看護師さん等を呼び出して、施設の担当者もビデオ通話に参加することもできます。離れて暮らす子供にとっても安心なコミュニケーションツールではないでしょうか。利用料は月額でサービスのレベルによって3000円から8000円ぐらいで手ごろかと思います。
「覚えなくていい」を制度設計
高齢者福祉サービスの提供に元々興味を持っていたわけではありません。大学卒業時にこれからの時代はITだと考えヤフーに入社し、営業からウェブのマーケティング、事業開発まで幅広く経験し、仕事は楽しかったです。そんなとき北陸に住んでいる祖父が倒れ、寝たきりとなって意識もありませんでした。ITを使って何か支援できないかと社内ベンチャーで高齢者向けの新規事業の開発に取り組みましたが、自分の能力不足でなかなかうまくいかず、でも、どうしても実現したいと独立を決意しました。
といっても具体的な構想があったわけでなく、3カ月間介護施設に住み込んで高齢者の方々のニーズを探りました。その結果、祖父のように意識がなく寝たきりの高齢者には難しくても、自宅にいて軽度な認知症の方にも簡単に操作できるようなタブレットによるケアサービスを思いつきました。認知機能が低下してくるとなかなか操作を覚えることができないので、ケアびーでは「覚えなくてもいいツール」として制度設計しています。使用頻度が低いボタンは基本的に画面に置きません。多くてボタン四つです。「緊急」や「話しかけ先(または子供や友人の名前)」などシンプルにしています。
まだまだ改善の余地はあり、日々、機能の向上に努めています。今後は在宅だけでなく介護施設や自治体の高齢者の見守り支援サービスにも役立てられればと考えています。また、現状のケアびーではまだ課題解決できていない祖父のように寝たきりの高齢者にも利用してもらうためにはどうしたらいいか日々研究しています。