遠方の独居高齢者 チームで見守り ケアマネジャーや専門職と連携

2025年07月21日読売新聞


 離れて暮らす高齢の親に介護が必要になった時、どうサポートすればよいでしょうか。毎日の食事や買い物、服薬などの心配は尽きませんが、認知症があって一人暮らしなら、なおさらです。住み慣れた自宅で生活を続けるには、介護保険サービスなどを活用した見守りの体制作りがカギを握ります。

 「甘い物、買ってええじゃろ?」「糖分の取り過ぎに注意じゃね」。岡山市のスーパーで6月上旬、女性(92)が、訪問ヘルパーと一緒に菓子やおかずを選んでいた。

 女性は一人暮らしで、6年ほど前に認知症と診断された。介護の必要度合いは、比較的軽い「要介護1」。訪問介護のほか、デイサービスやショートステイ(短期入所)といったサービスを一体的に提供してくれる事業所を利用している。

 毎日、訪問ヘルパーに夕食の支度などを手伝ってもらい、デイサービスには週3回通う。「100歳になっても家にいたい」という。

 しかし、介護が必要になった当初は食事を残しがちで、デイサービスに通うのを嫌がっていた。トイレを失敗することが、たびたびあった。

 「『また間に合わんかった……』と涙声の母から、よく電話を受けた」。一人娘の富岡由美子さん(56)は振り返る。東京都内で夫と子どもと暮らし、岡山に頻繁に行くのは難しい。頼りにしたのは、母親を担当するケアマネジャーだった。

電話で話し合い

 富岡さんはケアマネジャーを通じて、訪問ヘルパーに母親の様子をよく見てほしいと頼んだ。歩くのが不自由な様子だったため、理学療法士による訪問リハビリを加えた。スクワットなどの運動や散歩を始めると、筋力がついて歩きやすくなり、トイレの不安がなくなった。ヘルパーと顔なじみになり、デイサービスにも通い始めた。

 食事を残すのは、入れ歯が合っていないためだと分かり、入れ歯を直し、歯科衛生士による 口腔こうくう ケアを受けると、残さなくなった。

 糖尿病や高血圧の薬を飲み忘れていることもあった。薬剤師の訪問指導を受け、「お薬カレンダー」をリビングの壁に貼り付けた。曜日や朝昼晩ごとの透明なポケットに、薬剤師が事前に薬を入れておく。ヘルパーが女性に声をかけ、服薬が習慣になるようにした。

 毎月の利用料は年金で賄えている。こうしたサービスを活用できるかどうかは、ケアマネジャーの力量や協力的な事業所の有無に左右される。富岡さんは「ケアマネジャーと電話で何度も話し合い、母が困っていることを一つ一つ解決してきた。母も私も自分の生活をあきらめなくていい」と話す。

 ケアマネジャーの砂野知香さんは「家族から希望を遠慮なく言ってもらい、各事業者と意見交換を重ねた結果、見守りのチームができた」と語る。

介護職員に任せる

 核家族化が進み、一人暮らしの高齢者は増えている。厚生労働省の2023年の調査で、高齢者がいる世帯(2695万世帯)のうち、単身世帯は31・7%と、03年(19・7%)から20年間で12ポイント上昇した。離れて暮らす親をどう見守っていくのか、多くの子ども世代が直面する悩みだ。

 介護する家族を支えるNPO法人「となりのかいご」(神奈川県厚木市)の川内潤・代表理事によると、相談者の中には、親元に引っ越して同居し、自ら介護をすべきなのかと迷う人もいる。

 ただ、仕事を辞めれば経済的に苦しくなる心配がある。「子ども自身のキャリアや家族との暮らしよりも、介護を優先することを親が望むだろうか。よく考えてほしい」と助言するという。ケアマネジャーと連携し、親を見守る体制を作る調整役に回り、実際のケアは介護職員に任せるよう提案する。

 川内さんは「親の誕生日など節目に会いに帰り、優しく接したり、親が介護職員に遠慮して言えないことを代わりに伝えたりと、家族だからこそできることに力を注いでみては」と話している。

自治体の支援事業も

 一人暮らしの高齢者を見守るため、自治体の支援事業も広がっている。

 福岡県大野城市は、独居世帯などを対象に、人感センサーと携帯電話を月250~500円で貸与する。居住者が居間などに設置したセンサーの前を通ると感知される。24時間にわたって動きが感知されなければ、コールセンターから安否確認の連絡が入る。応答がない場合、「緊急事態」として警備員が自宅に駆けつける。約580人が利用する。

 福島県いわき市では、配食サービスの配達員が、応答がないなど異変に気づけば親族らに連絡する。約1300人が対象だ。

 東京都内の23市区町村(24年4月時点)は、都の補助金を受け、見守り専用の相談窓口を計110地区に開設している。多摩市は、特に高齢化率の高い、二つの地区に窓口を設け、民生委員や社会福祉士らが市の名簿に基づき、定期的に戸別訪問し、健康状態を確かめている。