(1)孤独死増加で国庫行きの財産は1015億円…「老後が心配なので貯めなきゃ」と嘆く80歳

2025年07月08日日刊ゲンダイ


 孤独死が増えて相続人が不在で、財産が国庫に帰属するケースが増えています。2023年度に国庫に入った財産は1015億円に上り、10年前の2013年の約336億円から3倍に増加しました。今後、団塊の世代が75歳を超えていくことから、この傾向はさらに強まると予想されます。

 そもそも、「自分の財産を国庫に入れたい」と考える人は少ないでしょう。しかし、相続人がいない「おひとり様」の場合、遺言などの対策を講じなければ、財産は国庫に帰属してしまうのです。この連載では、自分の財産から必要最低限を残しながら、計画的に取り崩していく方法をファイナンシャルプランナーの長尾義弘氏が紹介していきます。

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 自分で築いた財産なら、自分のために使い切るのが理想ではないでしょうか。「三途の川も金次第」とは言いますが、現実にはお金をあの世に持っていくことはできません。死んでしまえば、お金を使うこともできなくなるのです。

 皆さんは、どのように老後資金を貯めてきたのでしょうか?多くの方にとって、それは長年の労働の対価であり、何万時間もの努力の結晶だと思います。にもかかわらず、使わずに死んでしまうのは「ただ働き」とも言えるのではないでしょうか(もちろん、お金があるという安心感は得られますが)。お子さんがいらっしゃる場合には、「遺産を残したい」という気持ちも理解できます。ただし、遺産が原因で相続争いに発展するケースも少なくありません。

 一般的に、「老後資金」とは若い頃からコツコツと貯めてきたお金を、定年後の年金生活において、生活費の補填として使っていくものと考えられています。たとえば、3000万円の老後資金を準備したとしても、実際には「いつまで生きるかわからない」という不安から、お金を使うことに慎重になってしまいます。その結果、年金だけで生活を続け、生活の質を落とすことにもなりかねません。

 なかには、年金を使い切れず、老後資金が少しずつ増えていき、亡くなる時点が最もお金を持っていた、という“笑えない話”すらあります。ある80代の方は、「老後が心配なので、もっと貯めなきゃ」とおっしゃっていました(「えっ、今が老後ではないのですか?」と、思わずツッコミたくなります)。

 お金を使おうとしても、「どう使えばいいのかわからない」という声もよく聞きます。実は、お金を有効に使うにも“慣れ”が必要なのです。

 また、残高が減っていくこと自体に恐怖を感じる方も少なくありません。さらに、「自分があと何年生きるかわからない」という不安が、お金を使うことをためらわせます。しかし、生活の質を落としたまま、最期までお金を使わずに終える人生は、本当に幸せでしょうか?

 思い切ってマインドチェンジをして、「死ぬまでに資産をゼロにする」方法を考えることが、楽しく有意義な人生を送るカギになるかもしれません。

 次回は、「財産を残す不幸」について具体的な事例を取り上げます。

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