檀家の孤独死に衝撃受けた副住職、スマホで遠隔見守り…一緒に宿題・カフェなど「住民支えたい」お寺の挑戦
2025年05月22日読売新聞
檀家の減少や仏教離れなど、寺を取り巻く環境が厳しさを増す中、「住民を癒やし、支える」本来の役割を高めようと取り組む寺がある。情報通信技術(ICT)で高齢の檀家を見守り、寺を開放して子どもや若い親世代の縁をつなぐ。人々の暮らしと人生に寄り添い、サポートする試みだ。
全国初の取り組み
今月14日、大阪市東淀川区の日蓮宗明浄寺で、福永晋丈副住職(43)が、高齢者向けスマートフォン用アプリを手がける「リードライフ」(名古屋市)の担当者から、見守りシステムの説明を受けていた。
同社が提供する機器は、半径5メートル内にいる人の呼吸や身体の動きなどをセンサーで感知する。一定時間を超えて動きがないと異常と判断し、登録したスマホに警告が通知される仕組みだ。
明浄寺は6月から、希望する檀家の自宅にこの機器を置いて、遠隔の見守りを始める。檀家にもしものことがあれば、スマホを登録した家族や福永副住職が駆けつける。寺がこのシステムを導入するのは全国で初めてだという。
きっかけは昨年に起きた高齢の檀家の孤独死だった。月参りで顔を合わせながら、異変に気づけなかったことに福永副住職たちは衝撃を受けた。
檀家の大半は高齢者で、独居の人が少なくない。悲しい孤独死を繰り返すまいと、遠隔で見守ることを決めた。月参りなどの機会に、檀家に希望を募るつもりで、「住民を見守り、安心して生活してもらうことは寺の役目」と、福永副住職は力を込めた。
信者数減、淘汰の危機
寺は、法事や葬式、祭りなどで人とのつながりを作り、地域の結束を強める役割を担ってきた。ただ、現代社会では、人々が寺と関わる機会は少ない。
文化庁の宗教統計調査によると、仏教系の信者数は2005年度の9300万人から、24年度には8100万人に減った。若年層の仏教離れは特に顕著で、築地本願寺(東京)が23年に、全国の10~70歳代の1600人に行った調査では、10~20歳代の女性で「お寺に行く目的がない」と答えた人が70%を超えた。
浄土宗正覚寺(京都市)の住職でジャーナリストの鵜飼秀徳さん(50)は「有名で立地条件が良いなどの強みがない寺は、地域とのつながりがなければ 淘汰とうた される」と指摘する。
関わり増やすきっかけ
では、子どもや若い親世代のために、寺にできることはあるか。広く知られるのが、奈良県で約10年前に始まった「おてらおやつクラブ」の取り組みだ。寺に供えられる食品や菓子を集めて、経済的に苦しい家庭に届ける支援は、全国に広まり大きなうねりとなった。
広島県大竹市の浄土宗西念寺が出した答えは「宿題」。春、夏、冬の長期の休みに子どもたちを寺に集めて、宿題を一緒にこなす。毎回、子どもや住民ら100人ほどが参加し、宿題の他に、百人一首や餅つきなどで親睦を深める。
地域は高齢化が進み、住民たちで行ってきた餅つきが、数年前に取りやめになった。地域の行事が先細りになる中、正木耕太郎住職(58)は「子どもたちの思い出に残る行事をつくろう」と考えたのがきっかけだ。
取り組みを通じて寺を訪れる人が増えたといい、正木住職は「寺と地域の人同士でたくさんのご縁が生まれた」と手応えを感じている。
大阪・ミナミの繁華街に近い浄土真宗萬福寺では、若者に気軽に訪れてもらおうと、17年にカフェ「茶庭」を始めた。他にも寺で開くヨガや音楽、茶道などの教室は30年を超え、地域の人たちの学びの場ともなった。
萬福寺のある地域では高層マンションが建設され、住民の若返りが進む。カフェや教室に訪れた若者が本堂で手を合わせる姿が増えてきたという。石田克彦住職(72)は「これからも若い人が『寺を訪れる用事』を提供したい」と話した。