ぐるぐる訪問看護 第43回 「見守りカメラ」は便利だけれど……

2025年04月25日日経メディカル


 近年、一人暮らしの高齢者を見守るためのデバイスとして、「見守りカメラ」が急速に普及していることを実感します。高齢者に限らず、赤ちゃんやペットの見守りとして使用されている方も多いでしょう。1万円以内と手ごろな値段で、マイクで会話ができたり、スマホの遠隔操作で向きを変えたりできるものもあるようです。

 訪問看護の現場でも、見守りカメラを設置するお宅が増えています。一人暮らしでも、最初の契約の時にはご家族(主にお子さん)が同席してくれることが多いのですが、「見守りカメラがあります」と事前に教えてくださる方はまずいらっしゃいません。何回か訪問しているうちに、ふとタンスの上に視線を向けるとカメラと目が合って「あ、見守りカメラがある」と気づくことがほとんどです。

 もちろん、カメラの有無に関係なく悪いことなどしませんが、「悪いことはできないな……」と思いつつ、「今この瞬間、見られているかも」と考えると妙にわざとらしい笑顔になったりして、変な緊張感を強いられることは事実です。あるお宅では各部屋にカメラが設置してあって、「親子といえどもプライバシー的にどうなんだろう」と感じることもあります。

「異変では?」と連絡を受け、臨時で訪問

 90歳のスズ子さん(仮名)のケースでは、遠方に暮らしている娘さんから「カメラで見るとずっと寝ていて起きないのだけど、見に行ってもらえないか」と電話があり、臨時で訪問したことがありました。スズ子さんは重度の認知症があり、電話をかけても出ることができません。キーボックスの合鍵を利用して訪問したところ、スズ子さんはベッドで横になっていました。声をかけると目を覚まし、受け答えの様子もいつも通りで、バイタルサインも異常なしでした。テーブルの上には食べ終わった配食弁当の容器が置いてあり、特別変わった様子もなかったことから、単にいつもよりも長めに寝ていただけだったようです。そのことを娘さんに電話で報告すると、「ああ、そうですか。良かった」と安堵していました。

 85歳のマサ子さん(仮名)もアパートで一人暮らしをしています。脳梗塞の後遺症で軽い半身麻痺があり、歩行器を使って移動しています。このお宅にも見守りカメラが設置されており、隣の市に暮らしている息子さんに「いつも監視されている」と苦笑いをしています。マサ子さんが部屋でくつろいでいると、「運動しろ」「部屋の換気をしろ」「加湿器をつけろ」など、1日に何度も指示が来るそうです。

 ある日曜日の夜、息子さんから緊急電話が入りました。「カメラで見たら、おふくろが転んで起き上がれなくなっているから、起こしに行ってほしい」という内容でした。緊急当番の看護師が向かうよりも息子さんが駆けつける方が近いため、息子さんに行けないかと尋ねたところ、「酒を飲んでいて運転できないから行けない」との返事だったそうです。結局、当番の看護師が訪問して、マサ子さんにはケガなどもなく、事なきを得ました。

見に行ってほしい要請に「ちょっと待って!」

 これらのエピソードを思い返すと正直、複雑な気持ちになります。見守りカメラがあったおかげで異変に迅速に対応できて「良かったな」という気持ちはあります。しかし、今後たくさんの家族が見守りカメラを設置して、「何かあれば訪問看護師に連絡すれば対応してもらえる」ということが当たり前のことになってしまうと、「ちょっと待ってほしい!」とも思うのです。

 マサ子さんへの対応について聞いた時、私の頭の中には「晩酌をしながらスマホの画面で母親の動向をチェックしていたら、転んでいる場面を発見して、看護ステーションに電話した」というイメージが浮かび、訪問看護は24時間対応のコンビニ救急じゃないのになあと心がモヤッとしたのです。息子さんはお酒を飲んでいなければ、ご自分で助けに行ったのでしょうか。あちこちから「ちょっと見に行ってほしい」という要請が増えると、ステーションのマンパワーの限界を感じます。スズ子さんのケースのように、生活の様子を常時把握できると心配が増すパターンもありますね。娘さんは安心したくてカメラを設置したのに、いつもと生活パターンが違うと、かえって気になってしまっていました。

 ここまで書いて10年前、訪問看護を始めたばかりの頃、寝たきりの利用者さんの枕の下にボイスレコーダーが置かれていてびっくりしたことを思い出しました。あの頃は見守りカメラなんて普及していませんでした。今はあらゆる場面がライブ配信される時代です。大事な家族が無事でいるか、困っていないかと思う心情は分かります。子供たちが見守ってくれていると思って、安心して過ごせる人もいるでしょう。

トラブルの対応をするのは人間

 インターネットの進歩はすさまじく、これからも見守りツールは進化して、それを活用する人も増えてくると思います。しかし、トラブルを発見することはできても、対応するのは人間です。人手不足が懸念されている医療・介護の現場で、果たしてその進化についていくことができるのか心配になります。では、異変が起きたとしても、次の日誰かが発見するまでそのままで良いのかと言われると、それもまた違うのですが……。

 見守りカメラを設置するご家族には、家族の状況を知るための手段の一つとしてとらえていただき、まずはご家族で対応できないかということも考えてほしいなと思うのです。そして、「異常発見から対応」まで完結してくれる良いシステム(ロボット?)が開発されるといいのになあ……と、妄想する日々です。