離れて暮らす親とタッチレスでつながるテレビ電話「TQタブレット」がねらう〝見守りIoT以上、監視カメラ以下〟の存在感

2025年03月23日DIME


厚生労働省の推計によると、2025年には75歳以上の人口が全人口の約18%を占めるという。シニア世代の増加とともに増えているのが、働きながら親の介護をする「ビジネスケアラー」。地方に住む親のケアをしたくても、仕事の都合で都市部を離れられない「遠距離ビジネスケアラー」も増えており、その多くが離れて暮らす老親の安否確認や、日常的なコミュニケーションの難しさを感じている。

デジタル端末が苦手なシニアや、要介護者に特化して開発

筆者にも、地方の施設に入所している老齢の義母がいる。幸いiPadは使いこなせるので、コロナ禍の面会禁止期間中もLINEで日常的な会話ができ、コミュニケーションに不安はなかった。しかし最近になって、持病の悪化で指がうまく動かせなくなりLINEに文字を打ち込めなくなった。

さらに最近は、携帯電話の使用もおぼつかなくなり、コミュニケーションの頻度が激減。LINEに代わるいい方法を探していたが、今から新たなデジタル端末をおぼえてもらうのが不可能なため、ほぼあきらめ状態だった。そんな時、知り合いの編集者に教えてもらったのが、高齢者や、寝たきりの要介護者用に特化して開発された「TQタブレット」だった。

聞けば、タブレット側はほぼ操作無しでテレビ電話が使えるのだという。本当にそんなことが可能なのだろうか。同商品を企画したTQコネクト株式会社取締役副社長の江部宗一郎氏に話を聞いた。

スマホのアプリから通話すると、タッチレスで自動的にテレビ通話が始まる!

2024年5月に発売された「TQタブレット」。本体価格が55,000円(税込み、以下同)、初期登録料が11,000円、合計66,000円で、それ以降にかかるのは通話料のみ。レンタルプランは初期登録料+タブレット使用料が21,780円、月額6,578円(契約期間は4か月からで、7か月以降から割引価格が適用され、最大20%割引)

実物を見せてもらってまず驚いたのが「テレビ電話」からイメージしていたより小さいサイズ(ちょっと大きめの写真立てくらい)だったこと。そして画面のシンプルさだった。表示されているのは「家族と話す」「アルバム」「お知らせ」の3つで、日常的に使うのは「家族と話す」「アルバム」の2つだけだという。

親とテレビ電話で話したい時には、スマートフォンの専用アプリから発信するだけ。10秒後には、タブレット側はタッチレスで自動的にテレビ通話が開始される。つまり、タブレット側の操作は一切不要なのだ。

逆にタブレット使用側がテレビ通話で話したい時には、「家族と話す」をタッチすれば、スマホに「電話してほしい」という通知が届く。文字を打つことができない義母でも、これなら問題なく使えそうだ。通話が可能なのはアプリに登録した10名のみなので、知らない人からかかってくる心配もないというのも安心。

通話時間を予約すれば、グループ通話もできる。江部氏によると、よく使われているのが誕生日や年末年始などのイベント時。「12月31日と1月1日は、はいつもの3倍ぐらいグループ通話がありましたので、やはりご家族でのイベントなどでグループ通話を使われる方が多いようです」(江部氏)。

使われ方として印象的だったのは、孫の結婚式に参加できない祖父母にスマホで撮影してタブレット越しに見てもらい喜ばれた例。また病院に入院中で、応援している野球チームの試合を見ることができない親に、スマホでテレビ画面を映して送って感謝されたという例もあるという。

また、これまではFAXで送っていた手紙や文書を画面に映して見せられるようになったので、FAXが不要になったという声も。「基本的に新規事業というのは何かのリプレイス(置き換え)なのですが、我々は固定電話やスマホ、FAXのリプレイスができていることで、ニーズが広がっているのではないかと見ています」(江部氏)

SIM内蔵だから、届いたらすぐ使用可能。病院でも使える

その話を聞いて「病院でも使えるのか」と驚いたが、江部氏によると、TQタブレットはスマホ同様SIM内蔵なので、インターネットネット回線の契約やWi-Fiの設定などをしなくても、届いたら電源を入れるだけですぐに使えることも特徴だという。家族と同居しているシニアが、ペットや世話をしている植物の様子を見るために、入院期間中だけレンタルする例もあるとのこと。現在の利用者の環境は施設入居者と自宅がほぼ半々。施設入居者の内訳は、8割が介護施設で2割ほどが病院だという。高齢になるほど入院を繰り返すことが多くなるので、病院でも手軽に使えるのはありがたい。

だがここで、素朴な疑問が…。シニアが使いやすいように機能を絞るなら、「家族と話す」だけでいいのでは?正直、「アルバム」って、いらなくない…?だが江部氏によると、この「アルバム」機能こそが、通信機器に苦手意識を持つシニア層に使ってもらうための秘策なのだという。

テレビ電話」に抵抗を抱くシニアには「写真スタンド」「デジタル時計」として置いてもらう

「シニアの方々は新しい通信機器に苦手意識を持つことが多いので、テレビ電話だと言うと『自分には無理』と使ってもらえないことも多い。だから最初は『家族のアルバムを見ることができる台だよ』と言って置かせてもらうことを想定しました」(江部氏)

つまり、テレビ電話に対する心のハードルを下げるために、あえて入れている機能なのだ。

わが家にあてはめてみても、それでなくても義母はLINEをうまく使えなくなってから不安を抱くようになり、「変になったら困るから」とLINE画面を触ることにも警戒するようになった。ましてや「テレビ電話を置く」と言ったら「そんなのは無理」と言いそうだが、「アルバムを見ることができる台」なら、抵抗なく置いてくれそうだ。

さらに、テレビ電話機能もアルバム機能も使わない時は、卓上カレンダー・時計としても利用できる。確かに時計であれば、電源を切られてしまう心配もない。
「高齢化や認知症が進むと今日が何日で何曜日か分からなくなりますが、大きな文字、大きな画面で見やすいTQタブレットは時刻が見やすいと歓迎されています」(江部氏)

見守りIoT(アイオーティー)以上、監視カメラ以下

遠距離に住む老親の安否確認には監視カメラなどもあるが、プライバシーが侵害されると嫌がる親も多い。そういう親のために、メールで湯沸かしポットの使用状況を知らせるなど、IoT(アイオーティー)の「見守り」機能がついた商品もある。だが、そうした間接的な見守りでは頼りないと感じる人もいる。

TQタブレットはシニア世代のプライバシーに配慮しつつ、子世代の不安も解消できるツールといえる。また見守りツールや監視カメラと違い、相互コミュニケーションが可能なことも差別化要素となっているのだろう。

江部氏によると、TQタブレットのメインユーザーは、介護が必要な親と離れて暮らしていて様子がわからない心配を抱える50代後半から60代の家族。タブレットを使用する側のボリュームゾーンは、要介護1から要介護3くらいのシニアだそうだ。

「もちろん要介護4から5ぐらいの方でも使っていただけますが、そういう方々だとボタンがあると必要がなくてもつい触れてしまうというシーンが想定されますので、完全にボタン操作がない仕様にしました。我々は操作させないタブレットを目指しているので、発売後ももっとシンプルにできないかと追求し、UXを進化させ続けています。今後はスマホ画面も、もっとシンプルにしていきたいです」(江部氏)

最近、同じようにシンプルな使い勝手を売りにしたシニア向けのテレビ電話も見かけるが、TQタブレットの振り切ったシンプルさを見た後だと正直、「いらない機能がけっこう多い」「これだと使ってもらうのは難しそう」と感じる。

現在、発売10か月の累計で900台以上が売れているそうだが、正直、もう2桁くらい多く売れていい商品では?と思っている。スタートアップの第一号商品なので、存在自体が知られていないのだろうが、使用者のクチコミで認知が広がりつつある。実際に使用してその便利さを実感したメディア関係者からの取材申し込みもあったそうだ。筆者もレンタルを申し込んでいるので、実際に使ってみた感想を追ってレポートしたい。