誰がなってくれる?「民生委員」の担い手不足 なれる条件を緩和しようと話し合った結果は
2025年01月12日東京新聞
担い手不足が課題となっている民生委員について、厚生労働省の検討会は昨年12月、任期途中で転居した場合は一定の条件下で続けられるよう運用を見直す報告書を公表した。当初進めようとした「市区町村での3カ月以上の居住」という選任要件の緩和は見送った。課題解消への効果は限定的とみられる見直しにとどまったが、今後どうしたらいいのか。
◆無報酬で1人暮らしの高齢者の見守りや子育て世帯の支援
民生委員は、任期3年の非常勤の地方公務員。児童委員も兼ね、1人暮らしの高齢者の見守りや子育て世帯の支援に無報酬であたる。前回改選時の2022年は定数24万547人のうち欠員は1万5000人超。充足率は93.7%と減少傾向が続いている。
担い手を地域住民に限っている選任要件を緩和し、別の自治体から通勤する「在勤者」も対象にできたら、課題解消につながらないか—。東京23区の区長でつくる特別区長会のそんな提案が閣議決定されたため、厚労省は昨年6月に検討会を発足。民生委員の団体や自治体が、居住を要件とする民生委員法の改正を視野に議論していた。
だが当初から民生委員側は強く反発。民生委員の信条にある「隣人愛をもって」との考え方を強調し、地域で一緒に暮らすことで信頼関係が生まれて相談されやすくなり、細やかな支援ができると意見。災害発生時や見守り対象者の急変時も対応が求められ、在勤者では「困難」と訴えた。
◆「緩和」に慎重な意見が大半
要件緩和を求める自治体側との意見が平行線をたどる中、10月の第3回の検討会で事務局の厚労省が、
(1)民生委員が任期途中で転居する場合の残り期間
(2)親の介護などで居住実態がある人
(3)自営業などで地域に根付いた在勤者
(4)集合住宅の管理人など
ーの具体的な4ケースを提示し、それぞれで可能となる条件、具体的な支障や懸念といった意見を募った。
議論の結果、民生委員が任期途中で転居する場合に限り、近隣の自治体に居住し、職務に支障がなく、住民らの理解が得られることなどを条件に例外的に続けられるよう運用を見直すことになった。他は「介護と両立は困難では」「不在時の対応は」「管理人は転勤がある」などとして慎重な意見が大半を占めた。今回の見直しは通知の改正で済み、厚労省は本年度中にも自治体や関係団体に周知する。
最後となった昨年11月の第4回の検討会。有識者として参加していた東京都立大の室田信一准教授は「私は当初は前向きに検討している立場だったが、居住要件はそんなに簡単に緩和できるものではないと学んだ」との感想を述べた。
◆「働く世代も活動できるよう環境面での工夫も大切」
報告書を12月中旬に公表した厚労省の担当者は、取材に「見直されたケースは珍しく、100人いるかどうか。本当は選任要件の緩和に限らず、担い手不足対策を幅広く議論したかった」と漏らした。検討会は、民生委員を引き受けやすい環境づくりに向け、業務の負担軽減や効率化を検討していく必要があるとしたが、今年12月に迎える一斉改選に向けてどうしていくべきなのか。
民生委員制度に詳しい新潟医療福祉大の青木茂教授は「地方と都市、ひいては地域ごとに在り方や役割は異なる。1期務めた委員が活動をさらに継続したいと思えるよう、各地の協議会で委員たちへのヒアリングを重視するべきだ」。
新たな担い手探しについては「自治会や町会に丸投げせず、自治体が積極的に関わる必要がある」と強調した上で、「若い世代に裾野を広げたい。働く世代も活動できるようオンライン会議を導入するなど環境面での工夫も大切ではないか」と提言する。