マンション孤独死どうすれば<1>部屋を放置15年、膨れ上がった滞納金420万円 管理組合が早期対応すべき二つの理由

2024年12月30日神戸新聞


超高齢社会を迎え、高齢者の1人暮らしが増える中、マンションの一室での孤独死も珍しくない。区分所有者が亡くなって相続人が分からない場合、管理組合は管理費、修繕積立金をどこに請求していいか分からず、途方に暮れてしまう。NPO法人こうべマンション管理支援機構(神戸市)理事長の植田雅人さん(68)は「手続きの負担は重いが、対応が遅れるほど損失が大きくなりかねない」と警告する。=全3回の1回目=

 ■相続人なし、手続きしなかったばかりに…

 植田さんによると、こんな例があった。

 神戸市内の古いマンションで、2005年に1人暮らしの70代後半の男性が亡くなった。

 相続人がいなかったが、管理組合は15年間放置して必要な手続きを取らなかった。

 19年になり、債務の清算を担う相続財産管理人(現在の相続財産清算人)の選任を家庭裁判所に申し立て、予納金50万円を納めた。
 管理費などの滞納金は、遅延損害金も含め約420万円まで膨れ上がっていた。

 相続財産管理人となった弁護士は、抵当権を持っていた会社と調停し、抵当権を解除。その上で、男性が所有していた部屋を約330万円で売却した。

 滞納金の債務について、弁護士は時効の成立を主張。5年分の約120万円のみが、売却額の中から管理組合に払われた。

 手続きは、22年まで約3年半かかったという。

 管理組合にとっては、滞納金の約3分の1しか受け取れなかった。

 植田さんは「このケースは、高経年マンションでも立地が良かったので、約330万円で売れたのが良かった。売却額が少なければ、管理組合の納めていた予納金が全額返ってこない可能性があった」と話す。

 ■高齢の1人暮らしが急増

 管理組合が、住民の孤独死に直面する可能性は相対的に高まっている。

 国勢調査によると、65歳以上の1人暮らしの人は、2000年に約303万人だったが、20年には2・2倍の約672万人に増えている。

 さらに国立社会保障・人口問題研究所の推計では、今後も増え続け、50年には1084万人になると予想されている。

 国土交通省による2023年度のマンション総合調査によると、1984年以前に建てられた高経年マンションで、世帯主が70歳以上の割合は55・9%に上った。

 ■デメリットしかない

 植田さんによると、物件の新たな所有者がいないまま、管理組合が放置することのデメリットは主に二つ。

 一つ目は、経年によって資産価値が落ちること。いざ処分しようとしても、売却額が下がってしまう。

 二つ目は管理費・修繕積立金の滞納額が増えること。区分所有者が亡くなっても毎月の管理費などは課されるため、どんどん積み上がっていく。

 相続人が見つかり、いざ売却しようとしても、新たな所有者は滞納分も含めて負担しなければならないため、買い手が現れにくくなる。

 植田さんは「戸数の少ない小さなマンションで、未収金が不良債権となって増えれば、管理組合の財政運営に痛手になる。計画的な修繕などに影響がでる可能性もある」と話す。

 管理組合が相続財産清算人の制度を使った際、多額の滞納に対して売却額が小さく、清算人に払われるべき報酬が足らなければ、管理組合が家庭裁判所に納めた予納金から支払われることがある。

 では孤独死が起きた場合、管理組合は具体的にどのようなことから取り組めばいいのだろうか。相続財産清算人とは、予納金とは何なのか。次回以降に詳しく紹介する。