社会福祉連携推進法人 各地で設立の動き メリットは?…7月時点で全国に21法人
2024年10月15日読売新聞
介護施設や障害者施設などを運営する複数の社会福祉法人が協力し合う社会福祉連携推進法人の設立が進んでいる。物品購入や人材育成などの業務を一緒にまとめて行うことで、経営の効率化や安定につなげるのが狙いだ。地域福祉の向上に取り組むなど活動の幅も広がりつつある。
兵庫県加古川市の社会福祉連携推進法人「日の出医療福祉グループ」本部ビルには、パソコンやモニター画面がずらりと並ぶ一室がある。グループ全体のICT(情報通信技術)業務を一手に担う部署だ。民間企業のシステムエンジニアなどとしての経験が豊富な10人が働く。
同グループは、介護事業所などを運営する県内の社会福祉法人など3法人が2022年に設立。連携することで、ICT専門の部署を開設できた。
3法人が運営する事業所は計約170か所に上る。職員は高齢者の見守り機器、介護記録の入力や勤務ダイヤ作成を支援するソフトなど各事業所が使う機器の選定を担うほか、機器を巡るトラブルの相談や要望に応じる。
各法人のウェブサイトやPR動画、施設紹介のパンフレット制作から、勤怠管理など業務システムの保守・管理まで多岐にわたる業務を担う。パソコンなどは、大量にまとめて購入し、単価を抑えた。
責任者の吉岡悠太さん(42)は「技術は日進月歩で、現場の介護職員には適した機器を探して比較検討する余裕はない。専門知識を持った私たちがサポートしたい」と語る。
外国人材の確保
人手不足が深刻な中、人材確保にも強みを発揮する。
職員の採用説明会や面接を合同で行い、事業の安定性もアピールしている。
昨年からインドネシア政府と連携し、介護職員の養成に取り組む。グループで雇用した介護福祉士らが現地の職業訓練校で日本語や介護技術を教えて、日本で介護の仕事ができる在留資格を取得してもらう。約70人が来日し、各事業所で働いている。
グループ代表理事の大西 奉文ともゆき さん(68)は「人手不足や物価の高騰で経営が厳しい法人が増えている。安定して事業に取り組み続けるためにも、協力して規模を拡大していくことは重要だ」と話している。
6分野で協力
国が連携法人の制度を導入したのは、社会福祉法人の運営を支え、地域福祉の新たな課題に向き合いやすい環境を整えるためだ。
社会福祉法人は、非営利の民間組織で全国に約2万1000法人あり、特別養護老人ホームや保育所などの福祉施設を運営している。自治体の委託事業も多く受けるなど地域福祉の中核を担ってきた。
ところが、「高齢の親とひきこもりの子ども」「障害のある親と介護する子ども(ヤングケアラー)」といった複合的な課題を抱える世帯など、新たな支援ニーズが目立つようになった。一方、少子高齢化で、支援にあたる人材の不足は深刻さを増している。
連携法人を設立すれば、それぞれの経営の独立は保ったまま、地域貢献や災害時の応援など6分野で協力できる。厚生労働省は、設立申請のマニュアルを作ったほか、準備や連携に必要な経費を補助し、設立を後押ししている。
成年後見で地域貢献
実際、地域の課題解決に向けた試みも始まっている。
愛知県豊田市で、障害福祉事業所を運営する四つの法人は、利用する知的障害者や地域の高齢者の成年後見人になれるように連携法人「となりの」を設立した。
成年後見は、判断能力の不十分な人に代わり財産管理や契約などを担う制度だ。親の高齢化で、支援が必要な知的障害者が増えてきた一方で、後見業務を担える司法書士などの専門職は足りていないのが現状だ。代表理事の阪田征彦さん(61)は「社会福祉法人が一緒に取り組むことで、地域に貢献したい」と語る。
各法人には成年後見の知識や支援経験のある職員がいなかったため、制度に詳しい社会福祉士2人を連携法人の事務局に配置。連携法人として現在、6人の後見を引き受ける。預金通帳の管理や事務手続きは事務局が担当し、各法人の職員が障害者らに定期的に会って近況を聞き、お金の使い道の相談に乗る。
社会福祉法人は、自ら運営する施設の利用者の後見人にはなれない。利益相反の恐れがあるためだ。複数の法人が連携することで、お互いの利用者の後見人になることができる。
参加する「無門福祉会」の生活支援員で、ほかの法人の利用者ら2人の後見業務を担う星野真希さん(32)は「本人のために財産を守るという視点が大事だと分かった。面会で訪ねる事業所で支援の様子を見学できるのも勉強になる」と話す。
◆社会福祉連携推進法人= 複数の社会福祉法人や、福祉事業を行うNPO法人などが資金を出し合い、共同で作る事業体。改正社会福祉法に基づき、2022年4月に制度化された。立地する都道府県などが認定し、今年7月時点で全国に21法人ある。