もう無理!? 高齢者の配食サービス 持続可能ではない北海道の現実

2024年09月25日北海道新聞


 高齢者宅に食事を届け、安否確認も行う「配食事業」を実施する道内自治体と利用者が増えている。一方、配食する事業者は安否確認など専門性があり、コストがかかるにもかかわらず、自治体から受け取る委託料はこの10年でほぼ横ばい。物価高も追い打ちをかける。札幌市で見守りを怠り、配食事業利用者の死亡が確認された事案が起きてから3カ月。専門家は事業者に対する自治体の対応の見直しが必要だと指摘する。

 「負担が増える中、ひとごとと思えない」。札幌市の高齢者配食を請け負う会社の代表は3カ月前の死亡事案についてこう打ち明ける。ある配食業者も「特殊な事例とはいえない。次の配食先にすぐ向かわなければいけないプレッシャーもある中、今後いつ起きてもおかしくない」と危機感を強める。

 札幌で6月、配食事業者が安否確認を2日間怠る事案が発生。前日の食事がドアノブに残ったままだったが、配達員は緊急連絡先に連絡せず当日分もドアノブにかけて去った。その後、利用者の80代女性が自宅で倒れているのが発見され、死亡が確認された。札幌市は「『利用者家族が訪問するはずだから、緊急連絡先への連絡は不要』と事業者が判断したことが原因」と断定。この配達事業者を9月1日から2年間、配達事業者から除外した。配達事業を行う場合は、札幌市が適切な体制が整っているか確認するという。

 全道での高齢者向け配食事業は、病気などのため調理が難しいおおむね65歳以上の1人暮らしを対象に、安否確認も行っている。多くが介護保険事業として実施する。

 北海道が把握する高齢者配食事業に取り組む自治体は2022年度現在、道内の全体の約5割に当たる83市町村。3年前から12自治体増えた。北海道新聞が道内の人口上位10市に取材したところ、札幌市、釧路市、北見市の利用者は過去10年で増加した。札幌では24年3月の利用者は2305人と、15年3月より約6割増えている。
 一方、同じ10市で高齢者配食事業を受託する事業者数はほぼ横ばいのままだ。札幌市では管理栄養士らへの相談体制を整備する必要があるなど業者側から見れば参入ハードルは高く、高齢者向け配食の業者数は過去10年間は10社程度と変わらない。
 自治体が事業者に支払う委託費は横ばいか、微増にとどまっている。事業者側にとっては物価高、人手不足などが重なり、苦しさは増す一方だ。

 札幌の場合、利用する高齢者が支払う金額は1食500円で、市が事業者に支払う委託費は同418円。合計した918円で、食材調達、調理、戸別配達、安否確認までを行っている。高齢者が支払う利用料は2006年に100円値上げして以降変わらず、委託費もこれまで消費増税分を転嫁してきただけだ。業者側からは自治体に委託費を増やすよう求める声も上がるが、道内10市のうち委託費を上げた自治体は苫小牧市や旭川市などで、1食当たり5~90円増と小幅にとどまる。

 札幌市は利用者負担を増やすと低所得者など利用できなくなる人もいる可能性がある上、「限られた予算では補助を増やすのも簡単ではない」(介護保険課)とし、事業者負担の軽減策を打ち出せない。消費税分のみ転嫁してきた函館市は「業者から物価高のため委託費を増やしてほしいという要望があり、増額も検討する」(高齢福祉課)という。

 自治体からの援助が手厚くならない現状で、現場は負担を強いられている。札幌市の事業を請け負う「日信」(西区)は、他社との差異化を図って追加料金をもらわずに朝食も同時に配達しており、東範英専務は「利用料と合わせて1食918円支払われても負担は大きい」と話す。

 配達員も時間に追われながらの配達を余儀なくされている。同社の進藤陽子さんは配食を始めて約2年半で、自宅で亡くなっていたり、倒れていたりした人も配食中に発見したことがある。「私たちが高齢者を守る最後のとりでと思っている」と進藤さん。進藤さんが担当するうちの1人、中央区の倉内武子さん(82)は病気を機に約5年前から週6日利用し、「毎日見守ってもらえて安心しています」と感謝する。ただ、進藤さんは1日40軒近く回るため「もっと時間をかけたいが、5分ほどで次のお宅へ向かわないといけない」と悔しそうに話す。

 札幌市は、配食時に利用者と連絡が取れない場合、緊急連絡先への連絡や市への報告を事業者に求めている。ただ、ある業者の代表は利用者や緊急連絡先に連絡がつかなかったことがあると打ち明ける。市の就業時間後に市の担当者に連絡せざるを得なくなった際、担当者にも連絡が取れず「途方に暮れた」と振り返る。

 市介護保険課は「業務時間外でもつながるように連絡体制を整えている」というが、職員が電話に出られないこともあると認める。その後、市に連絡がつながり、大事には至らなかった。

 約20年前から市の配食事業を担うワーカーズ・コレクティブ「レラ」(手稲区)も食材費などの負担増で2年ほど前におかずを1品減らし、ご飯も少なくせざるを得なくなった。弁当はアレルギーなどに合わせて少しずつ変えているため、調理の負担は大きい。新規客が絶えないほど配食事業の人気は高く、夕食時間帯に弁当を届けられるよう出発を1時間早めた。藤原由紀子代表はこれまで市に委託料を増やすよう求めたこともあり、「配食事業者の声に耳を傾けてほしい」という。

 全国的にも配食事業者の負担は大きい。全国の高齢者配食事業者などでつくる全国食支援活動協力会の担当者は「経費もかさむが必要なサービス。行政は補助を手厚くするなどしてほしい」という。淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)も「事業者にしわ寄せがいく事業の構図。孤独死を防ぐ効果的な事業を軽視していて、補助金を上げるなどの対応が必要だ」と指摘している。