最期は誰が…、高齢単身一人っ子が頼った「ホームロイヤー」とは

2024年09月11日毎日新聞


 「みとってくれる人がいない」。一人っ子で独身の80代女性は将来に不安があった。両親は既に他界し、近くに頼れる親戚もいない。年齢を重ねる中で必要性を感じたのは、何かあったときに頼れる存在だった。いつか迎える最期を想像した女性は、法律の専門家を頼ることにした。

 女性はこの春から月1回、自身が暮らす大阪市内の弁護士を訪ねている。現在は年金生活。衣食住に困ることはなく、体力的にも身の回りのことは自分でこなせる。トラブルを抱えているわけではないが事務所で約1時間を過ごし、お茶を飲みながら、体調やこれまでの人生、これからの希望についてあれこれ話す。

 「女性が利用しているのは『ホームロイヤー』と呼ばれる制度です」。女性の支援に携わり、事例を紹介してくれた松尾洋輔弁護士(大阪弁護士会)が解説する。

 「ホームロイヤー」とは耳慣れないが、かかりつけ医である「ホームドクター」の弁護士版と言える。超高齢社会に突入した2000年代に日本弁護士連合会が、身近に頼れる人がいない高齢者らの「終活」を支援しようと打ち出した制度だ。

 想定されている支援内容は多岐にわたる。日ごろから見守りや困りごとの相談に応じ、認知症などで判断能力が落ちた場合には財産管理などを代行する「任意後見」を引き受ける。死後は契約に基づき、葬儀や病院、施設の費用精算など事務手続きを行う。

 利用者は事前に弁護士と費用やどんな支援を受けるか話し合う。元気なうちに契約することで弁護士が健康の変化を把握できるほか、病気や死亡の際に「どうしたいか」を事前に決められ、希望に沿った終活を進めることができる。

 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、65歳以上の高齢者の単身世帯は50年に1084万世帯となる。国内の5軒に1軒が高齢者の1人暮らしになる計算で、20年の738万世帯から約1・5倍に増えると見込まれている。

 研究所の藤井多希子・人口構造研究部室長は「増加傾向にある一人っ子は、将来的に頼れる親族がいない高齢者となる可能性がある。財産管理や手術の同意などの法的な課題を抱えるだろう」と指摘する。

 こうした社会の変化に、ホームロイヤーの活躍が期待される。大阪弁護士会では23年にホームロイヤーの本格的な運用を始め、100人ほどの弁護士が登録している。月1回の安否確認と法律相談で料金は月1万1000円程度。財産管理の場合は月2万2000~5万5000円が目安となる。弁護士会でホームロイヤーのプロジェクトチーム座長を務める松尾弁護士は「一人っ子の80代女性のように、今は元気だけど将来に不安を感じた人の相談が多い」と説明する。

 松尾弁護士は高齢者の支援に駆け回る。約5年前からホームロイヤーとして見守りを続ける80代女性が兵庫県にいると聞き、8月上旬の訪問に記者が同行した。女性は一人っ子ではないが、遠方に暮らす親戚を頼るのは難しいという。この日は1時間半ほど滞在し、松尾弁護士が持参した夏野菜の総菜をつまみながら、体調などについて話した。女性は「困ったときに頼れるという安心感がある」と笑顔を見せた。

 松尾弁護士は「高齢化が進む中、家族とのつながりが希薄な人への支援は必要になる。いざという時のために元気なうちから意向確認ができるホームロイヤーを活用してほしい」と話している。