住民からは「魂の事業ね」…急増する引き取り手のない「遺骨」に自治体が始めた「終活事業」安否確認から葬儀、納骨までサポート
2024年08月25日SmartFLASH
誰にも気づかれずに亡くなる「孤独死」。人との繋がりを作ることが孤独死対策の第一歩だが、近所づきあいのない人はどうすればいいのだろうか。「縁ディングノートプランニング協会」代表理事で、相続コンサルタントの一橋香織氏が語る。
「警備会社のセンサーや警報機を設置すれば、いざというときに駆けつけてくれます。最近は、郵便局でも局員が自宅を直接訪問するという事業をおこなっていますね。ですが、なかには数万円の初期費用がかかるサービスもあり、始めるにはハードルが高いかもしれません」
一橋氏も独自の「見守りサービス」をおこなっている。
「一人暮らしの方に毎朝、LINEでスタンプか文章で『おはようございます』と送ってもらっています。お客様は現在20名ほどいらっしゃって、サービス料は月1000円。警備会社よりもシンプルで、ずっと安いです(笑)。午前中に送信がなければ、別サービスとして午後にお電話を差し上げ、繋がらなければ弊社の社員がご自宅を訪問しています。人間関係を築くことが難しい方でも、けっして孤独にならないように、有料サービスや私たちプロを頼ってほしいと思います」
一方、「市民の尊厳を守りたい」という思いから、全国に先駆けて高齢者の終活を支援する事業を開始したのが神奈川県横須賀市だ。
地域福祉課終活支援センターの特別福祉専門官の北見万幸(かずゆき)氏が解説する。
「横須賀市では、引き取り手のないご遺骨を市の無縁納骨堂に納めています。ところが2003年ごろから、身元が判明しているのに引き取り手のないご遺骨が急増したのです。市民として生きてきた方々を無縁の扱いにはしたくないという思いで、2015年に開始した最初の事業が『エンディングプラン・サポート事業』です」
同事業の対象は一人暮らしで頼れる身寄りがなく、経済的に余裕がない市民だ。
生前に27万円(生活保護受給者は5万円)を支払えば、市は葬儀や納骨の希望を聞き取ったうえで、協力葬儀社を案内して契約までをサポート。
市は毎月電話で安否確認をし、3~4カ月に一度は家庭を訪問。生活に寄り添い、死後は納骨までを見届けるシステムだ。
「2023年末までで146人が登録し、72人を見送ることができています」(北見氏、以下同)
この事業を開始した1カ月後、北見氏の思いを後押しする出来事があった。
独居で死亡した男性の自宅に行くと、枕元の勉強机の上にあった缶の中から、厚紙に書かれた手紙が出てきたのだ。手紙には「無縁仏にしてほしい」という希望が書かれていたが、火葬後に発見されたため、男性の願いは叶えられなかった。
「医療にはインフォームド・コンセントがあるのに、福祉には生前に、死後のことを相談できる窓口がないのはおかしいと思うんです。男性はどれだけ無念だったか。この手紙は、『生前に相談に乗らないといけない』という僕らの原動力なんです」
北見氏が案内してくれた市役所内にある一時安置室には、公費で火葬した引き取り手のない遺骨が並ぶ。平均で2年半保管され、引き取り手がない遺骨は、市内の無縁納骨堂に納められる。
「以前は1年間に5、6体で身元不明のご遺骨ばかりだったんです。それが今は1年間に50~60体、多いときは70に届く年もあり、しかもその大半の方が、お名前のわかる市民です。引き取り手が不明な原因の一つは、スマホが普及したことだと思っています。ロックがかかっていて、連絡先がわからないのです」
この解決策として2018年に開始したもうひとつの事業が、元気なうちに終活情報を登録できる「わたしの終活登録事業」だ。この事業は所得制限も年齢制限もなく登録無料、電話でも登録可能だ。
「市に“終活関連情報”を登録できる制度で、登録の多い順に『緊急連絡先』、『かかりつけ医』、『墓(寺など)の場所』となっています。8月6日時点で利用者数は926人です。万一のとき、警察・病院・救急などからの問い合わせに、市が答えて本人を助けます」
国内で例のない事業を担当してきた北見氏。市が終活事業をおこなう意義をこう語る。
「うちの職員は、事業の利用者にしょっちゅう電話したり、自宅を訪問したりしています。当初は契約ができるくらいの人だから、まだまだ元気。職員とふつうに仲よくなったりします(笑)。しかし、その後認知症になったり倒れたりして、平均6、7年で亡くなるんです。結果的に孤独死を防げなかったとしても、その過程でその方の“孤独”は防げたと思う。そうなれば、その死は孤独死ではないと思うんです」
北見氏が町内会を回って事業について説明したとき、ある住民からこう言われたという。
「魂の事業ね」