いすみ女性遺体 早期発見に一役も… 市が無償貸与の見守り用「センサー」で護身可能?

2024年08月23日東京新聞


 千葉県いすみ市の自宅で1人暮らしの石上静子さん(89)が殺害された事件で、遺体発見のきっかけは自宅にある「見守りセンサー」だった。市が高齢者宅などに無償で貸与しており、これまでも病気で倒れた人らの早期搬送に役立ってきた。ただ、外部からの侵入者を想定した防犯対策としては不十分で、課題も見える。

 県警によると、石上さんの遺体は6日午後5時ごろ、駆け付けた警備員が発見。5~6日の間に首を絞められ、窒息死した可能性がある。

 石上さん宅は、室内で人の動きを感知するセンサーがあった。トイレのドアが開閉されたかどうかや人の熱を感知し、長時間、住人に動きがなければ警備会社に自動通報する。このセンサーが作動し、遺体発見につながった。
トイレのドアに設置されているセンサー。長時間、開け閉めがないと警備会社に通報が届く=いずれも同市で

 こうした見守りの仕組みは、警備大手ALSOK(東京)のサービス。警備会社に自動通報できるペンダント型の緊急ボタンや、台所の火災センサーもセットになっている。市は2012年、高齢者の孤独死が社会問題になったことを受け、75歳以上の1人暮らしを中心にセンサーの貸し出しを始めた。23年度末時点で585人が利用。同年度、市内で警備員が利用者宅に駆けつけ、救急搬送につながった事例は23件あった。

 役立つ面はあるにせよ、このセンサーはあくまで急病などに備えた見守り用で、外部の侵入者らを念頭にしていない。貸し出しを受ける市民からも、防犯効果には疑問の声がある。

 石上さん宅の近所に住む女性(94)は「泥棒が入ったら『ブー』と鳴ったら本当はいいけれど」と漏らす。女性の妹(88)は「1人暮らしでセンサーを入れている人は多いが、緊急時にボタンを押せるかどうか…。万能ではない」と冷静な様子だった。

 警備会社のサービスには、カメラなどで侵入者を検知する防犯用もある。ただ、費用が高く、いすみ市は無償貸与していない。石上さんの事件を受け、市健康高齢者支援課の長谷川真人課長補佐は「早期発見につながり、事業の意味はあったと思う。だが、今回のような事件は想定しておらず、命を救えなかったのは本当に残念だった」と話す。防犯用サービスの無償貸与は検討しておらず、「市民が希望する場合、個人で利用してもらうしかない」という。

 ALSOKによると、いすみ市を含めて全国約500の自治体が、高齢者の見守り機器を提供する契約を同社と結んでいる。他の警備会社も高齢者の見守り用機器を次々と開発し、普及してきている。

 警備保障に詳しい仙台大の田中智仁准教授(犯罪社会学)は「子どもと離れて暮らす高齢者が増え、センサー設置を支援する自治体が増えている」と指摘。今回の事件も、センサーが本来の目的である高齢者の異変を早期発見した点は評価する。その上で、「もちろん防犯機能もあった方がいいが、コストがかかる。(防犯機能をつけないことは)行政の一つの判断として理解できる」と述べる。